月の旅人

お店巡り編

お店巡り編

朝食を済ませて指定時間よりも少し早く階下に下り、ショッピングに連れて行ってくれるらしい専用車を待っていた。

この日、朝食に下りるときのエレベーターで日本人のおじさんと乗り合わせた。
薄いエメラルドグリーンの作業服らしき姿のおじさんは、５人が乗って狭いエレベーターの中で私たちに訊ねた。
「大学生？　卒業旅行か何か？」
私たちは一様に笑顔になった。「大学生に見えるんやっ♪」と。(笑)
「いつまでこっちにいるの？」
なぜかおじさんまでが楽しそうに話しかけてくれる。
「え～っと、ホーチミンは今日で終わりなんです」
そんなやり取りを交わしている間に１階に到着。おじさんはそのままホテルを出ていった。見知らぬ土地で同じ国の人と出会って話すと、知らない人でも少し親近感を抱く気がするのはなぜだろう。
おじさんも、私たちにそんな感覚を抱いていたのかな。

「今日は観光じゃないし、ガイドさんと違うんちゃう？」
そんな予想に反し、迎えに現れたのはガイドさんだった。
それも、徒歩で。
「あれ……専用車は？」
囁き交わす私たちを尻目に「行キマショウ」と促して、とっとと歩き出すガイドさん。
話が違う。
『専用車でお好きなお店にお連れします』と、日程表にもしっかり書いてあるのだ。ここはしっかり言わねばっ。まずは……。
「あのっ、両替したいんですけど」ヾ(--;)ぉぃぉぃ
「両替？　……コッチデス」
振り返ったガイドさんが少し笑顔を消して方向転換し、すぐ近くの両替屋さんに連れて行ってくれた。やっとのことでこの旅初の両替である。この際もうレートがどうのこうのと言っている場合ではない。バッグやポストカードなど小物売りも兼ねたそのお店で両替を済ませ、いざショッピングへ出発。
と、またまたガイドさんが私たちに行きたいお店を訊く事なくスタスタと先導していく。私たちはその後に続きながらみんなで目配せしあった。
「専用車で自由ショッピングとちゃうんかいっ」
「呼び止めて行きたいお店言わなっ」
「いったいどこ連れて行かれんの!?」
「こんなんやったら自分らで地図見ながら行くっちゅうねん」
そんな風な内容の応酬を歩きながら交わしているうちに、ガイドさんが１件目のお店のドアを開けた。ここに入ってくれ、ということらしい。そこは青磁器のお店だった。はっきり言って、今回の旅では誰も用がない。一応中に入っては見たものの見る気もしなかった。
「どういうこと!?」
「もう絶対言おう。時間限られてんねんから言わんと、行きたいとこに行けへんで」
「早くここ出て言おう」
そういうことになり、即刻お店を出るなり外で待っていたガイドさんが歩き出すのを呼び止め、行きたいお店の載っている雑誌の切り抜きを見せた。

「ここに行きたいんですけど」
その切り抜きに目を落としたガイドさんはお店の名前と住所をチェックして何も言わずに歩き出した。言ったお店に連れて行ってくれるのかと不安を覚えつつ、後ろについて歩く。
そして彼がドアを開けて私たちに入るよう促したのは、またしても希望に反したお店だった。そこは刺繍入りのランチョンマットやコースターなど、テーブルウェア関連の刺繍のお店である。とりあえず良さそうなお土産がないかを見てみたけれど、友達が唯一「これ、いいな」と思った物は数が揃わず、結局何も買うものがなかった。
ちょうどそこへ、同じツアーの２人組の女の人が入店してきた。彼女たちも他のガイドさんに連れられて来たのかと思いきや、希望したお店であるらしい。
それで私たちの状況を話すと彼女たちは驚いたように、自分たちは専用車がきちんと迎えに来てくれたこと、「行きたいお店はどこでも連れて行くから言ってください」ととても丁寧に言われてこのお店にも連れて来てもらったことを話してくれた。まさに、私たちはそれを望んでいたわけである。
「どうなってんの……」
「まさか、これもランクが関係してるわけ!?」
ホテルの豪華さの違いでも思ったけれど、こんなことならデラックスランクで申し込んでおけばよかった、と後悔の思いがまた頭をもたげた。
「無事を祈っててください……」
そんな言葉を彼女たちに残し、私たちはそのお店を後にした。

外で待っていたガイドさんと合流すると、またどんどんと先へ歩いていく。私たちの歩調などお構いなしに。私たちはもう諦めの境地になっていた。
でも歩いている途中、ふと目に入ったとても味のあるお店。
「ここ見たいっ」というみんなの思いが一致し、「すみませ～ん！」ととうに通り過ぎていた彼を呼び止めた。
「ここ見たいんです」
言うが早いかガイドさんから目を離し、さっさとお店の中に入った。
思っていたとおり、とてもセンスのいいアンティークっぽさが香るお店だった。味のある鞄を２つ見つけてお土産に買い、お店を出る。
お店の前の木の根元に座っていたガイドさんが立ち上がり、無言で私たちを先導した。信号のない交差点で次々と走り来るバイクの隙を見計らって向かい側の歩道に渡り歩いたすぐの所で、ガイドさんがお店のドアを開けた。
なんとそこは、私たちが行きたいと言ったお店だった。ようやく、である。
でも、値段も安いわけではなくデザインも限られた洋服しかなかったため、結局何も買わずに店を出た……。

来た道を戻る途中、ワゴン車が車道に停まっていた。車道を横切り、ガイドさんがその車に近づいてガラリとワゴン車のドアを引いて私たちに乗るように促した。
どうやらようやく“専用車で移動”のようである。
ワゴン車に揺られ着いた場所は、また希望した所とは違うお店だった。
先刻行きたいお店に連れて行ってくれたから今回もそうなのかと思い、一応降りてはみたけれど、辺りを見回してもそれらしいお店は見当たらない。
「やっぱり違うって。こんなことしてるうちに時間なくなるし、早く他に行こう」
そういうことになり、「ここはいいです」と言ってワゴン車に乗り込んだ。
その次には希望したお店に連れてくれて、相変わらず店の表で待っているガイドさんにはお構いなしにじっくりとお土産を選んだ。
だって、ミュールも鞄も服も、センスのいい可愛いお店だったから。
棚や商品の陳列の仕方にもセンスのあるいいお店だった。ここでもそれぞれお土産をＧＥＴ。
続いて日本人が経営する『ＺＡＫＫＡ』というお店に行き、私は赤地に黄色のチェックの入ったアオザイ風のブラウスを１着買った。赤なんて買ったことがないし悩んだんだけれど、海外旅行気分が後押しして買ってしまった。(笑)

バクダンアイス

その後、ワゴン車で連れられたのはホーチミン市内に何店もあるという『バクダン』というアイスクリームのお店である。『ケム・ズア』というココナッツアイスを食べた。ココナッツの実を刳り貫き、その中に３種類のアイスとフルーツ、そして生クリームが入っている、ボリュームたっぷりのアイスクリームである。一番人気のアイスだとか名物アイスだとか言われるだけあって、甘さも控えめでなかなか美味なアイスクリームだった。
食べ切るのは無理そうに思える量だったのに、結局底まで綺麗に完食。(笑)
そしてホーチミン市内最大のベンタイン市場へ。
市場内には小さなお店が何軒も入っていて、食材から衣服から雑貨まであらゆるものが揃っている。でも30分後に集合と言われ、市場内の活気と品数に圧倒されて、ただうろうろと歩き回っているだけだった。10分もしないうちにガイドさんに出会い、そのまま市場を後にした……。

ベトナム名物、フォー。細長<br>い揚げパン添え

昼食は、ベトナム麺のフォーを食べた。
チキン入りのあっさりとしたスープで、米からできた麺が入っているだけ。そこに好みで香菜やヌックマムだかニョクマムだかを入れ、細長い揚げパンをつけて食べるのだ。
これもバクダンのアイスクリーム同様ツアーの食事に含まれているものだったので、ガイドさんが注文してくれたもの。
アイスクリームで結構満腹になっていたわりには、味がさっぱりとしていたためこれも完食。素晴らしい胃である。(笑)
ちなみにここでも当然の如くドリンクは別料金。しかもダイエットコークとかミネラルウォーターとか、種類は非常に少ない……。