月の旅人

月の旅人

ホーチミン最後編

ホーチミン最後編


ワゴン車でいったんホテルに戻り、お土産類を部屋に置いて、今度はフリータイムである。3時間弱しかなかったけれど。
買ったばかりのポストカードに5000ドン(約20円)の切手を貼り、それぞれにメッセージを書いてホテルのフロントに出しておいてくれるように頼んで渡し、百貨店に行きたいという友達について再び外に出た。
一番気温の高い時間である。しかも無風。風は何処(いずこ)状態である。
とにかく暑い。
鏡を見ずとも茹で蛸のような顔になっているのがわかるほどに暑かった。
日焼け防止のために被っている帽子の中も、蒸れて温室のようである。背中には汗が伝い、拭いても拭いても顔にも首にも汗が滲む。日焼け止めなんて、とっくに取れてしまっていたことだろう。でも腕だけは拭くほどの汗でもなかったので日焼け止めの効果はバッチリだったらしく、常夏の地にいたとは思えぬほどまったく日焼けしなかった。ふふん。(←なぜか威張る(笑))
ところで目的の百貨店だけれど、歩けども歩けどもいっこうに見つからない。
もうあまりの暑さに狂いそうである。
「道あってんの?」
「なんで地図持ってこうへんねんさー」
などと、みんなの口調も自然ときつくなった。
そう、地図の載ったガイドブックをホテルに置いてきていたのである。
百貨店の場所は知ってると言うし、他に行こうとしていた聖母マリア教会は中央郵便局の正面にあり、ホテルから1本道をまっすぐ行けばいいことがわかっていたため、荷物になると思って誰も地図を持って出なかったのだ。
近くを歩いていたため『ホテル・サイゴン・プリンス』のエントランスにいたホテルマンに、英会話ブックを片手に尋ねてみた。そして、教えられたとおりに歩いてみたのだけれど、聞き方がまずかったのか全然違うビルの前に出てしまった。
「1回ホテルに帰って地図取ってきたほうがいいって。時間過ぎていくだけやん」
歩き疲れとうだるような暑さでとっくに平静ではなかった私も、口調がきつい。自分でもわかっていたけれど、もう息切れまでしそうで構っていられなかった。
結局1時間近く歩き回っただけで、ホテルに戻った。


聖マリア教会(サイゴン教会)<br>内部
ミネラルウォーターで水分を補給し、地図を確認して、改めて出発。
百貨店は、先刻歩いた道とは全く正反対の方角だった。聖母マリア教会の近くにあったのだ。先に教会へ行き、静寂と清廉な空気に包まれた教会内のベンチにしばらく座って心と体を静めた後、REXホテルの向かいに建つ国営百貨店へ。
入口を入った瞬間「涼しいっ♪」と感動したのも束の間、それは入口だけだった……。
店内は冷房もきいておらず、3階建ての店内に入ったそれぞれのお店の店員さんがそれぞれに扇風機を回していた。でもそんな小型の扇風機など、涼しいのは前にいる人だけである。
ゆえに、扇風機の前を通り過ぎるときだけふわりと涼しさが漂い、あとは暑い。
健康に良さそうな百貨店である。(笑)
店内を巡っている内に、『Miss Aodai』で購入したミニバッグに似た鞄を発見し、厭な予感を覚えて店員さん値段を訊いてみた。すると答えは、3ドル。
なっΣ( ̄□ ̄;)!?
……私は値引きしてもらって10ドルで買ったのにっ。
ああ、「私ノ限界」という言葉に、まんまと乗せられていたのね……。( -_-)フッ


夜はタイに飛ぶけれどツアーのプランに夕食が付いていなかったため、パンでも買おうということになったけれど、私はアオザイを持ってきてもらう時間の5時が近づいていたため、前日にアオザイを作って同じく5時に持ってきてもらうことになっている友達と2人で一足先にホテルに戻った。
部屋の鍵を開けているとき、電話が鳴った。
急いで鍵を開けて中に入り受話器に手をかけたけれど、その瞬間に切れてしまった。
きっとどちらかのアオザイを持ってきてくれたのだろう。こちらからフロントに電話してみようかとも思ったけれど、フロントの人は私たちが帰ってきていることを知っているのだから大丈夫かと思い、しばらく待ってみた。
その間に支払い額をチェックしようと手持ちのドルを数えてみたら、なんと、足りなかった。30ドルも。
計算ミスをしていたのだ。非常にマズイ。
また、友達にお世話になった。大莫迦者である……。
それから10分ほど待って、また電話が鳴った。出てみると、やっぱりアオザイを持ってきてくれた店員さんだった。
部屋に来たのは、『Miss Aodai』の店員さん。私のアオザイ到着である。でも知らない店員さんだった。
さっそく試着してみた。というか、店員さんに着せてもらった。(*..)ヾ
右の肩から脇、腰にかけて、パチンと嵌めるボタンとホックがたくさんあり、それを留めるのが大変そうだった。
ベトナム人は、これ一人で着てるんだよねぇ……?
と、ちょっと感心してしまった。大袈裟かもしれないけれど。
出来具合はバッチリ。オーダーだけあって体にぴったりである。でも、両袖が黒布1枚のシースルーになっていた。
あら、こんな感じになるんだったのか……。
少しイメージ違いである。とはいえ、なかなかいい。スタイルも実際より良く見える気がするし、シースルーのわりには上品に見える。それはアオザイのデザインがなせる技だろう。“世界で最も女性を美しく見せる民族衣装”だそうだから。
会計を済ませお礼を言うと、店員さんは笑顔で帰って行った。
直後にパンを買い終えた友達の1人が、私たちの分のパンを部屋に持ってきてくれた。
その時まだ、私はアオザイ姿である。しかもちょっと脱ぎかけ。(笑)

時を置かずして、友達の分のアオザイが到着した。電話で知らせがあったので、
私はあわてて衣服を掴んでバスルームに入った。昨日散々言われてもアオザイを作らなかったのに他のお店で作ったなんてことが知れると、何となく悪いような気がしたのだ。
破れたりしないか心配でソロソロとアオザイを脱いで服に着替え、畳んだアオザイをそのままバスルームに置いて出ると、友達がアオザイを着せてもらっているところだった。濃桃色に細かな模様の入った綺麗な布地で、とても彼女に似合っていた。特に彼女のスタイルにアオザイはよく似合う。
友達と二人で「綺麗~」とか「似合うなぁ」とか、思わず褒めまくった。
店員さんには「ベトナム人みたい」とまで言われていた。(笑)


お土産や荷物をスーツケースの中に整理して入れ、夕方6時にガイドさんが迎えに来てくれるのを待った。
ホーチミンに到着した時と同じマイクロバスが洗われ、他のツアー客が先に乗車していてまた最後列に乗り込んだ私たちの後からガイドさんがスーツケースを前の座席部分に積み上げて発車し、REXホテルで初めて顔を合わせる2人のお客を拾って、一路空港へと向かった。
すっかり夜である。
道中に見えるお店というお店が、店内に明かりが入っているため目に留まる。途中、やけにウェディングドレスのお店ばかりが続く道を通った。それから、マッサージのお店。
メコン川へ向かう道中でも思ったけれど、ホーチミンではどうやら同業者のお店がひとつ所に集まって構えているようだ。お客にしてみれば便利で楽である。わざわざ遠くのお店を訪ねて廻らなくても近場で比較できていい。
行きよりも随分長く感じる時間が経過してようやく空港に到着し、エコノミークラスの受付カウンターでスーツケースを預けた。
真横がビジネスクラスの受付だったのだけれど、“いかにも”という雰囲気の初老の白人男性の前に、肩からリュックを下げた短パン姿の日本人が並んでいた。
「人は見かけによらへんなぁ」
と知らず呟いてしまうくらい、見かけは貧相な感じだった。(←ごめんなさい…)かと思えば、カートにたくさんの荷物を乗せた夫婦と娘さんの3人家族の人もビジネスクラスの受付カウンター側に並んでいたのだけれど、一見“いかにも”なその人たちは、実はエコノミークラスだった……。間違って並んでいたらしく、かなり時間が経過してから途中で気づいてエコノミーの最後尾に並び直していた。
ほんと、人は見かけによらないものである。


え、こんな場所から入るの!? 間違ってないよね!?
と、つい疑ってしまったほど簡素なチェックインカウンターを通過し、ガイドさんとお別れ。
いろいろあったけれど、お世話になりました。どうもありがとう。




© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: