部屋の割り当てや明日の出発時間などの説明で10分ほど待ち、その間にエフェソス遺跡で転んだ私を助け起こしてくれたおばさんの1人Kさんが消毒薬の“マキロン”を貸してくれた。それからそれぞれの部屋へと向かう。客室は2階建ての棟が幾つにも分かれていて、本館を出て屋外の常夜灯のみの暗い大理石の道を通って割り当てられた棟へ行き、途中からついて来ていた猫と共に階段をあがった。階段の半ばで猫とは別れ、2階に着いて右折れした突き当たりが私たちの部屋だった。
借りたマキロンで膝の傷口を消毒してから部屋を出て、本館へ戻った。夕食までまだ30分以上ある。まずは外観を撮っておこうとロビーを横切り、外に出てみる。そこでふと足元に目をやり、ぽつんと1つ、リュックサックが自動ドアの横に置き忘れてあるのを見つけた。どうやら忘れ物らしい。いくら安全な国と言えども、このまま放置しておくのは危ない気がする。そこで、フロントに届けることにした。
それから水辺に作られたごつごつとした岩場に本物のカメを見つけ、みきちゃんが掌に乗せたりOさんとつついたりしているところを撮ったり、改めて宝塚階段で“手乗り人間”などとおもしろ写真を撮って遊んだ。その画像をチェックするとOさんは大うけして爆笑し、おなかを抱えて「おもしろい!」を連発していた。そこまで楽しんでもらえるとこちらまで嬉しくなる。
そしてせっかくだからと外へ出て、人工の火山温泉にも入浴した2人。そこはぬるぬるとして気持ち悪かったようだ。お湯もかなりぬるく、石灰が多く混じっているようで白濁していた。でも火山の傍に寄ると1人か2人しか入れないくらいの囲いが別にあり、熱いお湯が溜まっていたようだ。みきちゃんはそこにもしっかりと入っていた。
大理石の通路からついてきていた仔猫が私の足元にちんまりと座り、「ドアが開いたら一緒に入れて♪」という声がありありと聞こえてきそうな視線で私を見上げ、ドアに擦り寄る。風邪でも引いているのか何度も何度もくしゃみをしている様子がかわいそうだったけど、さすがに部屋には入れないほうがいいかな……、と思い、仔猫の前に回りこんで進路を塞ぐようにしながらドアの鍵と格闘した。

