『アルハンブラ宮殿』は山の中腹に建造された城砦である。バスはくねくねと坂道を上って徐々に高度を上げ眼下にグラナダの街を見下ろす頃、朝靄にかすんだ雄大なネバダ山脈の姿も見ることができた。
円形の中庭を正方形の建物で囲んだ珍しい形の建物で、中庭の周囲は2階建ての回廊になっており、1階はドリス式、2階はイオニア式の簡素なデザインの大理石の柱が使用された造りはイスラムの繊細な宮殿とはまったく趣を異にしている。現在は1階がアルハンブラ美術館、2階が県立美術館として利用されている。
入口を入ってタイルのように敷かれた石敷きの通路を抜けると、すぐに広間があった。『メスアール(政庁)の間』である。
その奥に小礼拝堂があり、執務中に礼拝の時間となるとここでメッカに向かって祈りを捧げていた。アーチ型の窓からアルバイシン地区の白い家並みがまるで絵画のように見え、「お~Σ( ̄  ̄*)」とシャッターを切る人が多数。もちろん、私たちも。
そして黄金の間と反対側である南側にあるのが、1348年に建てられた王宮の中枢部である『コマレス宮』の入口である。コマレス宮は王の住居である他、外交と政治の場でもあった。このファサードの美しさには定評があるらしい。左の写真が合成時に少し歪んでしまったが……。(T_T) この入口が本当の正面入口に当たるそうだ。メスアール宮は訪問者用の前宮というわけ。
開け放たれている左の扉からコマレス宮に入り、少し暗い通路を抜けて左に曲がると『アラヤネスの中庭』に出た。中庭の中心である長方形の池には満々と水が湛えられ、コマレス宮は『水の宮殿』とも呼ばれる。2mの深さがある池は水鏡の役目を果たし、大理石の通路スレスレに湛えられた水面に建物が映り、まるで建物が水上に建っているかのように見える錯覚を楽しめるようになっている。
だがそんなバルカの間をあっさりと数歩で通り抜け、王宮で一番広い『大使の間』へと足を踏み入れる。一番広いとは言っても11m四方しかない。だがこの大使の間は、イスラム王国最後の王ボアブディルがカトリック両王へグラナダの明け渡しを決定し、イサベル女王に宮殿の鍵を渡した有名な部屋で、スペインの歴史上とても重要な部屋である。その名のとおり、各国使節が王と謁見を行ったりした公式行事の場所でもある。そして、コロンブスがイサベル女王に謁見を行ったのもこの大使の間であるとされている。
床にはイスラム教国時代オリジナルの絨毯を模したモザイクタイルが残されていて、踏んだりしてそれ以上痛まないようロープで囲われていた。床に当時のままのタイルが残っているのは、やはり稀少なのだ。


この庭を訪れるためにはまた暗い通路を歩くことになり、再び光溢れる繊細で美しい中庭に面した回廊に出た瞬間の感動と言ったら、サグラダファミリアにようやく対面できたときと同じくらい鳥肌ものだった。イスラム芸術の最高傑作とまでいわれているほどなのだから、それも当然だろう。
そんなライオンの中庭を囲んでいる建物は、寵姫たちの部屋だった。そう、ここは王の居住区でありハーレムなのだ。厳密にはハーレムの“離れ”にあたる部分である。かつては王以外の男性は出入りを禁じられていた場所。