月の旅人

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戦いの町バターリャ

戦いの町バターリャ




ナザレから50分ほどで、『バターリャ』に到着した。バターリャとは、ポルトガル語で“戦い”という意味である。
1139年にポルトガル王国として独立以来平和が続いていたが、フェルナンド王が世継ぎを残さぬまま他界してしまい、王位継承者であるベアトリス王女がカスティーリャ王ファン1世と結婚させられていたため、その王位を狙ってカスティーリャ軍が攻め入ってきたのが1384年1月のこと。ポルトガルの独立を守るためフェルナンド王の異母弟であるジョアン1世率いるアヴィス騎士団が立ち上がり、現在のバターリャ近郊のアルジュバロッタで戦いの火蓋が切って落とされた。このときスペイン・カスティーリャ軍3万人に対し、ポルトガル軍は6500人。
ジョアン1世は聖母マリアに祈りを捧げ、勝利を治めることができれば壮麗な教会を建立すると誓いを立てた。そして1385年8月14日、地の利を巧みに活かしたポルトガル軍は奇跡的な勝利を治める。アヴィス朝ポルトガル王国が独立を確保した歴史的な勝利である。その3年後の1388年、ジョアン1世は聖母マリアに感謝して誓いどおりアルジュバロッタから数キロの場所に教会の建設を命じ、代々の王と建築家に引き継がれ約150年の歳月をかけて『バターリャ修道院』を建造した。正式には『勝利の聖母マリア修道院(サンタ・マリア・ヴィトーリア修道院)』という。1755年のリスボン大地震や他国の侵略にも耐えてきたゴシック様式とマヌエル様式が巧みに混在するこの壮麗な修道院は、1983年、ユネスコの世界遺産に登録されることとなった。


バターリャ修道院ファサードバターリャ修道院バターリャという地名は、この修道院が由来となっている。
そのバターリャ修道院を案内してくれたのは、とても小柄なガイドさんだった。説明を聞こうとみんなが囲むと、彼女の姿が埋もれて見えなくなってしまう。そんなガイドさんの説明を、添乗員のKさんががんばって訳してくれた。
バターリャ修道院は、アルコバサという地にある修道院に次ぐポルトガル第2の巨大な建築物だ。修道院の前には、アルジェバロッタの戦いでポルトガル軍を率いたヌーノ・アルヴァレス・ペレイラの騎馬像がある。凛と背筋を伸ばし、今にも軍を率いて出陣していくかのように前方を見据えている。その方向にアルジェバロッタがあるのだろうか。
ジョアン1世と王妃の棺
ゴシック様式のファサードは模様のようにたくさんの人物が彫られ、扉の両脇には12使徒、上にはイエス・キリストと4福音書記が彫刻されている。ただ、12使徒は修復されたものもあり、オリジナルは博物館にあるらしい。
その扉をくぐってすぐ右側にある『創設者の礼拝堂』に入る。ポルトガル王家の初めての霊廟として1426年~1434年にかけて造られた、ジョアン1世の家族の墓所だ。ジョアン1世と王妃フィリッパ・デ・ランカスターの手をつないだ彫刻を施された棺が中央にあり、2人の息子であるエンリケ航海王子もこの礼拝堂で眠っている。
王妃の出身はイギリスのランカスター公爵家。ジョアン1世はウィンザー条約を締結するなどイギリスとの友好関係を築き、ブルジョワジーの支持を基盤として絶対王政を敷いた。
礼拝堂を出て、祭壇へと続く身廊を進んだ。奥行き80m、高さ32mあり、ポルトガル一の高さを誇る天井を支えている列柱の間に見え隠れする16世紀のステンドグラスが美しい。
祭壇の横を抜けて出たのは『王の回廊』。
王の回廊最初に建築を任されたアフォンソ・ドミンゲスによって造られたゴシック様式に、ジェロニモス修道院を建築したボイタックがマヌエル様式の装飾を施した華麗な回廊である。
大航海時代を偲ばせる地球儀や動植物、綱などをモチーフとした繊細な細工は、まるで大海に思いを馳せたポルトガル人の記念碑のようだ。
噴水が1つあり、その近くにかつての食堂がある。修道士たちは食前にこの噴水で手を清めたという。
王の回廊に面して『参事会室』があり、ここは第一次世界大戦時のフランス、アフリカの植民地争いの際のモザンビークで命を落とした無名戦士の墓を兼ねた『無名戦士記念館』でもある。
天井の高さが20m、床も20m四方あるこの部屋には、それを支える柱が1本もない。そのため建築当時は屋根が落ちるのではないかと騒がれ、実際に1度目は建築中に事故があったため、その後は死刑囚たちによって工事が進められたそうだ。
無名戦士記念館キリスト受難の場面を表したステンドグラス完成後、設計に自信を持っていたアフォンソ・ドミンゲスは自ら一夜をこの部屋で過ごし、安全を証明したという。舌を出した彼の顔がどこか一角に刻まれているらしいが、残念ながら私たちはそんな遊び心のある建築家の顔を見逃してしまった。もったいないっ。(>_<)
無名戦士の墓は2人の衛兵がによって常時護衛されていて、そのうえ碑まで立ててある。どこの国へ行っても(←と言うほど行っていないが……(; ̄ー ̄A ふきふき…)指定位置に立った衛兵というものは微動だにしないもののようで、衛兵のうち1人が女性だったため入れ替わり立ち代わり彼女と並んで記念撮影をしている人たちがいたが、それでもまったく姿勢を変えなかった。目だけは動いたりしていたけど。もしかして、しっかりカメラ目線だったりして。(笑)

未完の礼拝堂その部屋を見学し終えると、回廊を抜けて修道院の外へ出た。それでもうバターリャ修道院の見学は終わったのだとばかり思っていたら、しばらく外壁沿いに歩いてまた建物の中へ入って行くためついていくと、そこは「Σ( ̄□ ̄*)!! すご~いっ」と思わず歓声を上げたほどの素晴らしい場所だった。まさかこんなに壮麗な光景を目にするとは思ってもいなかったため、心構えも何もないまま目に飛び込んできたその美しさに圧倒された。
『未完の礼拝堂』と呼ばれるこの場所は、1435年からジョアン1世の息子ドゥアルテ1世によって建設が始まり、マヌエル1世に引き継がれた。だが完成を見ずして他界し、ジョアン3世の統治下である1533年を過ぎたあたりで建設が中断されてしまった。未完で終わった理由として、ジェロニモス修道院の建設が始まって建設技師がリスボンへ行ってしまったことなどの人材不足と建築資材不足が原因という説と、単に設計上のミスだという2つの説がある。
設計上のミス、という理由が現実味を帯びるこの未完の礼拝堂。実は青空が覗き、天井がない。だがかえってそれが美しさを引き立てているようにも思われる。壁は何層もの装飾が成され、その層によってデザインが異なっている。柱も1本1本が精巧な彫刻を施され、ゴシック様式、マヌエル様式、ルネッサンス様式が混在した幻想的な美しさに満ちていた。
ここにはドゥアルテ王と王妃の墓がある。なんて綺麗な墓地なんだろう。( ̄- ̄*)
未完の礼拝堂未完の礼拝堂


未完の礼拝堂を出てバスのほうへと戻る。その途中で、バターリャ修道院をバックに3人で撮ってもらった。
またしても最後にみんなの後をついていくと、菓子類を売っている小屋のような小さなお店に何人も集まっている。何だろうと覗いてみるとさっそく購入している人がいて、それをみんなに分けてくれていた。少し固めのパリパリのシュークリームに粉砂糖がまぶされた『カバカス』という菓子で、ポルトガル名物菓子の1つらしい。かつてはオビドスの名物で、王妃の好物だったという。
カバカス私たちは1個を割って分けたが、味がイマイチよくわからなかった。f^_^;)
が、バスが発車してからしばらくして再びカバカスを車内のみんなに回してくれた人がいて、ありがたく1個そのままをいただいてみきちゃんと顔を見合わせた。
「おいしいやん、これ♪」
1個買っておけばよかったかも、とまで思った。だてに名物とは言われていない。


1時間ほど走った17時過ぎ、トイレ休憩のためレストランに立ち寄った。添乗員のKさんとJさんがカウンターで何か食べるのはもう恒例だったが、出発時間になってツアーの一行のほとんどがバスの前の木陰で待っていてもJさんがやってこなかった。鍵がかかっているため入れないのだ。
走るJさんだからといって一日の観光はすべて終え、あとはポルトを目指して走るだけだったため誰もがおとなしくおしゃべりしながら待っていた。
そこへ、残りの人たちとKさん、Jさんがレストランからこちらへ向かってくるのが見えた。Jさんが木陰に集まっている私たちに気づいた途端あわてたように駆け出し、大きなおなかを揺らして戻ってくる。そのなんだかかわいい走りっぷりに思わずシャッターを切った。
ブレたけど。(^-^;)


そこからまた1時間半弱で、ポルトのホテル『IPANEMA』に到着した。
ホテルのレストラン部屋に入ってからも夕食までは40分以上あり、少しくつろいでから階下に降りた。
まだ少しばかり早かったがフロント前のレストランに入ることができ、バイキング形式の夕食が始まった。種類が豊富でデザートのケーキも大きく、またまた食べるのに苦労する。別に、控え目に食べればいいだけのことなんだけど。( ̄▽ ̄;)えへへ…
レストランに入る前、私の名前とよく似ていて何度も聞き違えていたUさんが、私たちがデジカメでバシバシ撮っては再生して画像を確認しているのを見てバッテリーはどうしているのかと疑問に思ったらしく訊ねられた。バッテリーの急速充電器を持ってきているし予備バッテリーも持っているから平気だと答えた私に、充電器を貸してもらえないかと頼まれたが、残念ながら私たちのデジカメは揃って専用バッテリーだったため、機種の違うデジカメだったUさんの役には立たなかった。
仕方ないこととはいえ、なんだか気の毒に思えて気にかかる。
食後、いくらサマータイムとはいえ21時になっていたためすでに日も暮れ始めていたが、添乗員のKさんに教えてもらった近くのスーパーへ出かけてみた。
スーパースーパーに入ってすぐ、地下の食料品・日用雑貨売り場へ行ってみる。そこには日本で見かけない商品の数々が。何が見かけないって、商品の大きさが日本の1.5倍~2倍くらいはあるのだ。w( ̄□ ̄*)w大っきい~!
右の写真は朝食用のパンやシリアルの売られているコーナー。パンの大きさもさることながら、一袋の大きいこと! 日本のオーブントースターなら絶対にはみ出してしまうだろう。d( ̄- ̄;)間違いないっ
お菓子の箱が大きいのはもちろん、食べ物以外でもシャンプーやリンス、洗剤なども日本の商品の軽く倍以上はあったし、こうなるとワインやペットボトルがやけに小ぶりに見えてしまうほどである。持ち運びも置く場所も、きっと大変に違いない。←日本人の感覚?
それから上の専門店外へと足を伸ばし、アジアン雑貨店を通り抜けたあとカメラ屋さんを発見した。そこに電池も売られているのを見つけてUさんの顔が浮かび、買って行ったほうがいいんだろうかと思ったが、すでに購入されていて無駄になっても大きなお世話だなぁ、とも思い、結局買わなかった。すっかり記録メディアに余裕のなくなっていたみきちゃんは、店内でそれを見つけて悩み始める。「日本よりは安いんちゃう?」という予想を裏切り、まったく変わらない値で売られていたのだ。
悩むわ~/(>_<)\それならわざわざ買わなくても何とか画像を削って今のメディアでやり過ごすか、それとも余裕を持ってバンバン撮るか……と左の写真をご覧のとおりの悩みようだったが、安くないだけに悩む気持ちもわかるため、私たちも傍でおとなしく結論を待つ。いや、私はそんなみきちゃんの様子も、記念に……、なんて撮っていたわけだけど。(笑)
狭い店内にはカウンターの中に店員のお兄さんが2人、そして店員なのか彼女なのかよくわからない女性が2人いたが、彼らはみきちゃんの悩みをそっちのけで奥に置かれたテレビでサッカー観戦に夢中だった。
なんと地元のサッカーチームFCポルトが強豪レアルマドリードを撃破して勝ち上がり、欧州チャンピオンズリーグの決勝に進出してまさに熱戦が繰り広げられている最中だったのだ。

欧州チャンピオンズリーグは昨年度の各国のリーグ戦での成績が優勝、またはそれに次ぐ成績を収めたチームだけが参加できる大会で、クラブチームの底力を試される大変な戦いであるらしい。
ちなみにポルトの対戦相手は、マンチェスター・ユナイテッドを打ち崩して決勝にやってきたというモナコ。
ポルトの優勝を予想できた人はほとんどいなかったらしいが、前年UEFA(欧州連盟)カップ優勝、国内リーグ戦優勝、国内カップ優勝と3冠を成し遂げ、その実力はすでに証明済みでもあったようだ。
吹き抜けになっている店内のテレビが置かれたフロアでは、テレビから目を放すことなく観戦に夢中の人たちが何人もいた。カメラ屋さんのお兄さんたちもお客より試合が気になり、とうとう結論を出して買うのを辞めたみきちゃんが出してもらった記録メディアを戻したときだけ「気にしないでいいよ」てな優しげな笑顔を向けてくれたが、私たちがお店を出るときにはもうテレビに夢中だった。( ̄▽ ̄;)

それから少し店内をうろついてから、暗くなった夜道をホテルへと急ぐ。その道中が、ちょっと怖かった。
特に何があったというわけではないが、結局ポルトが3対0でモナコを下して優勝し、それに興奮したサポーターたちが町に繰り出し始めていて徐々にお祭り騒ぎになっていたのだ。喜びを表現して車から身を乗り出したり旗を振ったり奇声を上げたりしていたのだろうが、そのときは地元チームが優勝したことなどまったく知らなかった私たちは道中ずっとヒヤヒヤしながら急ぎ足でホテルに戻った。
地元サッカーチーム優勝で大騒ぎ!部屋に入ってほっと一息つきテレビをつけてポルトが優勝したらしいことを知ってまもなく、みきちゃんがやっぱり記録メディアをもう一度買いに行くと言い、一人では危ないためNさんが同行してくれることになった。値が高いなら諦めもつくが、変わらないなら余裕を持って撮影できることを選んだようだ。
閉店の10分ほど前だったため走って行かなければならず、私ではどう考えても足手まといになるため部屋でお留守番。
記録メディアをゲットして無事に帰ってきたみきちゃんは、さっそくデジカメを持ってまた部屋を出て行った。しばらくして戻ってきたみきちゃんのデジカメには、ホテル前も騒がせているサポーターたちの姿が。暗くてよく写らず、何度も挑戦していたらしい。Σ(◎_◎*)ちょっとビックリ
そんなこんなでたっぷり詰まった中身の濃い一日が終了し、夜中も騒がしい中でなんとか就寝。



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