October 26, 2008
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テーマ: 誕生日の人(1467)
カテゴリ: Life*Live*Love





『ねぇ、わたる。

 生まれてきた人には、ひとりひとり使命があってね、

 それを果たさないと、死んじゃいけないの。


 だからね、わたるは、




 大丈夫。

 ちゃんと大人になったらね、普通の身体に戻れるわ。


 だから、今はつらいけど、大丈夫。


 がんばろうね、わたる…………』




ミナミくんのご両親は。

きっと、生まれたときのミナミくんの様子を聞かされて、

激しくショックを受けたんじゃないだろうか。



それでも、もし方法があるならば、ミナミくんに生きていてほしい。

そう考えたんじゃないだろうか。



ミナミくん、は。

幼い頃から、お母様に、ずっと、



『大人になったら、普通の身体に戻れる』こと、このふたつを、

言い聞かされて育ったんだという。



それだけを信じて、いたいけな少年は、今まで生きてきたんだ。




『………ねぇ。ミナミくん。

 ご両親の言ったこと、本当だったじゃない。』









『ミナミくん、あなた、ちゃんと普通の男の子だよ。

 みんなと、普通にゲームセンターで、ガンダムして遊べるじゃん。

 普通にお腹が空いて、いっぱいごはん食べるじゃん。

 しかも、ミナミくん、すぐお腹空くから、いっぱい食べるよね。

 いっぱい食べるのって、元気な証拠なんだよ。

 カラオケだって、普通に行けるじゃん。

 私、ミナミくんの歌、大好きだよ。

 そして、普通に仕事して、立派に働いてるじゃん。


 それのどこが、壊れてるって言うの?普通じゃないって言うの?


 ご両親の言ったこと、本当だったでしょう?

 ちゃんと、普通の身体になれたよ、ミナミくん。』



ミナミくんは、無言になってしまった。

すすり泣きのような、音が聴こえた。



『ミナミくん、あなたのご両親は、嘘つきなの?』

『……違う』



『嘘つきなわけ、ないよね。

 だって、ミナミくん、普通の男の子だもの!


 ほら。

 ご両親の言葉、本当だったでしょう?

 ミナミくんが、小さな頃から信じて願ってきたこと、かなったでしょう?』



ミナミくん。

だから、自分は死んだ方がいいなんて、言わないでよ。



『でも、みんなが羨ましくなるんだ。

 出来ないこと、知りたいと思うんだ。


 ……たとえば、下品な話かもしれないけど、“ぼっき”、してみたい。』



『そっか……


 たぶんね、ミナミくんの身体は、ピュアで恥ずかしがりなんだよ。

 だから、“ぼっき”出来ないだけなんだよ。

 普通の身体じゃないからじゃない。

 ただ、人よりちょっと、照れ屋さんな身体なんだよ、きっと。


 でも、エッチしたいとか、思うんでしょう?

 だったら、きっと、大丈夫。


 ……ね?』




ミナミくん。




キミが優しい子な理由が、解かった気がするよ。




ずっと、ご両親のこと、大切に思ってきたんだね。

本当なら、何回も自殺を試みようとしても、おかしくない境遇の中で。

それでも、ちゃんと、キミは、生きることを選んで来たんだね。




ミナミくんの、ピュアな想いを目の前にして、

自分の弱さを、恥じた。




ぼそっと、ミナミくんが言った。









『…………ありがと…………』








ミナミくん。

キミみたいな子が、死んじゃったら、もったいないよ。

こんなに、こんなにいい子なのに。



大丈夫。

キミは普通の男の子。


ほんのちょっと、傷つきやすくて、人より優しい男の子。



『…俺、生きてていいの?』

『当たり前じゃん。』

『いいの…?』

『うん!』





『…ありがとう。』



電話を切るときに、もう一度、ミナミくんが言った。



『当たり前のことなだけだもん。』





また、明日ね。



うん。








電話を切ったあと、考えた。




私が、ミナミくんに出来ること。












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最終更新日  October 26, 2008 08:19:27 AM
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