Ash Ground

03.04




取り敢えずは少女を信じる事にした僕は、隊のテントに少女を連れて戻った。
「軍曹!!生きておいででしたか」
真っ先に声をかけてきた劉伍長は、多少の傷は負っているが命に別状は無さそうだった。
テントに居るのは曹長と、伍長を含む数人の部下。皆一様に、疲れた表情をしている。
「僕がそう簡単に死ぬ訳がないでしょう」
そう言ってやると、劉伍長は破顔して、そうですよね!と言った。
「曹長、孝軍曹、只今戻りました」小さな椅子に腰を降ろしている碗曹長に、膝を付いて礼をする。
「軍曹。その少女は何者だ」・・・やっぱり。くると思った。
「わたくしめが不覚にも敵前で醜態を晒した折、手助けをしてくれた者です」
碗曹長が、品定めをするかのような目付きで少女を見る。
「敵か」曹長は勿論の事、僕達の思考回路は結局それでしかない。敵か、否か。
「否。わたくしどもは独自に動いている救護隊です。どちらの軍であろうとも、傷を負う者が居たら救うのがわたくしどもの使命」
テントの中で、少女の声はやけに透き通るように響いた。
「綺麗事ほど不必要な物は無い。お前は孝軍曹を助けた。すなわち我が軍に味方をしたという事だ。これより以降、敵軍を救う事を禁ずる」
遠回しに我が隊に入れ、と言った碗曹長の言葉にも臆する事無く、少女は僕に目線をやり、また曹長に戻すと、深く一礼した。
「仰せの通りに」

血に染まった夕陽が落ち、夜が来た。僕と少女は黙したままテントの外に出た。
「左手が壊死しています。早めに切断した方が良いかと」
「そうですか。本当に、 貴女は命の恩人です ね」
命の恩人にこんな事を頼むのも何ですが、と前置きして脇に差した刀を少女に手渡す。
僕の意図するところが伝わったのだろう、少女はまた小さく笑みを浮かべた。
「御意」
全てを押し殺すような声を少女が短く発した、と同時に僕の左手がごとっ、と切断された。
少女は慣れた手付きですぐに止血をし、僅かに残った僕の左腕に包帯を巻き付けた。
「ははは・・・一体何者なんですか、貴女は」やや呆れ顔で僕が言うと少女は声をひそめて言った。
「私は実は救護隊でも、ましてや貴方の命の恩人でもありません。私は私の目的を達する為貴方に近付いた」
死ね、と言い放ったあの時の声だった。左腕が、疼いた。
「そんな事ぐらい馬鹿でも分かりますよ。僕が問うているのは貴女の目的とやらです」
「無益な戦を終わらせる事。この戦い、長引けばどちらの軍にも不利」
無垢で真っ直ぐな目を、していた。戦場では滅多にお目にかかれない目だ。
「・・・分かりました。僕を利用するなり何なりお好きなように」
少女は一瞬驚いたように目を開いたが、すぐにいつもの笑みを浮かべた。
「感謝します」
穏やかな声だった。僕は頷き、そのかわり、と言葉を続けた。

「僕にもその結末を見届けさせて貰います」





© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: