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前回に引き続き、バーバラ・エーレンライク著「ポジティブ病の国、アメリカ」(原題"Bright-Sided") の紹介です。【送料無料】ポジティブ病の国、アメリカそれから、こちらは原書...のオーディオブック(CD)版ですね。Bright-Sided: How the Relentless Promotion of Positive Th...著者:Barbara Ehrenreich価格:3,780円(税込、送料込)楽天ブックスで詳細を見る1941年生まれ、現在70歳の彼女は、これまでに21冊の単行本を発表(2012年1月現在)。「ニッケル・アンド・ダイムド」などの代表作で知られ、社会派ノンフィクションライターとして活躍中です。でも、元々はバリバリ理科系、それも博士号まで取得した程ですから、大真面目に理系研究者の道を目指していた人だったんですね。最初は、故・スティーブ・ジョブズも短期間在籍していた、リード・カレッジ(基本的にお坊ちゃんお嬢ちゃんの多い、私立リベラルアーツカレッジです。)にて主に化学を中心に学んだ彼女。卒業後はロックフェラー大学・大学院へ進学します。ここは生命科学に強いことで定評のある学校なんだそうですよ。で、入学当初はまず理論物理学を専攻。ところがその後、分子生物学(molecular biology:DNA,RNA たんぱく質合成などの研究を通して分子レベルで生物現象を扱う…web版研究社英和中辞典より。)へと、興味の対象が変わります。最終的に落ち着いたのは、細胞生物学(cell biology)の分野。で、1968年には細胞免疫学の分野で博士号(Ph.D)を取得。だから、本来ならば"Dr. Barbara Ehrenreich"と紹介しなければならないんですよね。なぜか、Ph.Dの肩書を敢えて外しているようです。現在の専門分野とあまり重なっていないから、なんでしょうか。...それにしてもこの学問遍歴、お見事。理系科目は一切ブーの私としては、もう、遠山の金さんの桜吹雪を目の前にして、「ハハァーーーーッ。」と平伏すしかない、お白州(しらす)上のマヌケな悪人並みのリアクションしかできないですね~。いくらアメリカの大学教育が柔軟で、何回も専攻分野を変えられるからといっても、この方、化学・物理・生物の三分野をハシゴしちゃってるんですよ~!これで地学さえ加われば、まさに理科系科目のグランドスラム!筋金入りの理系女子...おっと失礼、フェミニスト(女権拡張論者)に対して「女子」はないですよね☆...であるエーレンライクさん、今を遡ること約10年前、乳がんに罹患しているとの宣告を受けます。まさに青天の霹靂です。彼女の受けた衝撃、そして「なぜ私が?」に始まるやり場のない怒り、その辺りについてご本人に直接語っていただくとしましょう。【日本語字幕付き。音声レベルが相当高いです。ボリュームにご注意を!】ゴリゴリの硬派な女であるエーレンライクさんにとって、現代の乳がん患者を取り巻く状況はまったくもって面白くない。面白くないどころか、むしろ、周囲から度が過ぎた【ポジティブ・シンキング】を押し付けられるような場面が余りにも多く、怒りすら沸いて来るほどでした。はらわた煮えくり返る、といっても過言じゃないかも。一体何がそんなに彼女をイラつかせたのでしょうか。それは、明るく爽やかにレッツゴー!という、従来型の前向き「ポジティブ」とはちょいと違う、「臭い物にフタ」式の、現実否認によるポジティブ・シンキングだったのです。「義務的な楽観主義」と、動画中でも自ら形容していますが、要するに、 「乳がんは私達の人生にもたらされた贈り物!」 「乳がんがあったから、私の人生は180度変わった!」 「乳がんになって良かった!おかげで、神様とつながることができた!」ってな具合に、「ひたすらプラスの体験として解釈する(マイナス面は無視!)」というお目目キラキラな自己催眠状態を死守せよ、という無言のプレッシャーとでも言いましょうか。それにムカッと来たわけですよ。この方は。これ、ツール・ド・フランス等の国際自転車レースで大活躍し、全米のヒーローとなったランス・アームストロングが、がん(精巣腫瘍)との闘いに見事勝利を収め、「(がんは)自分の身に起こったものの中でも最良の経験だった」という名言を残してから、徐々に一般人の間にも見られるようになってきた傾向だそうです。運命のいたずらにより、【ニセモノポジティブ・シンキング】で満ちた乳がんの世界にはまってしまったエーレンライクさんが抱いた最大の不満、かつ疑問点は、「なぜ、私の中にこれ程充満している『怒り』という激情が、患者の闘病記、サポートグループ、ネット上の情報、医療現場...どこを探しても全然見当たらないのだろう?」でした。何かが臭う...。絶対、変だ...。「そもそも、なぜ自分が乳がんなんかにかからなきゃいけないのか!?」「どうしてこんな屈辱的で過酷な化学療法(キモセラピー)をやらなきゃいけないのか!?」「病気そのものよりも治療の方が辛いなんて、一体何、これ!?」エーレンライクさんにとっての闘病とは、常にこうした怒りと疑問との闘いでもありました。残念ながら、そうした負の感情は、他の誰かと分かち合う機会にほとんど恵まれることなく、彼女自身の中でくすぶり続けることになります。乳がんの発病と共に、彼女は【ポジティブ教信者】が支配する、特殊なカルチャーを持つ集団の中に閉じ込められてしまったのですよ。医療現場で働く人々も、患者自身も、そしてがんとの闘いに勝利した「生存者 survivor」たちも、皆、ここでは【嫌なこと見ないで、ポジティブ・シンキング!そして、乳がんとの闘いに勝つのよ!!!】のスローガン掲げて明るく元気に闘う姿勢をアピールしなきゃいけません。それ以外の態度は許されないのです。もし、患者側にそうした【ポジティブさ】から外れるような負の感情(怒り、恐怖、抑うつ気分...)が沸き起こったとしても---死をも覚悟しなければならないような状況にある、一人のか弱い人間としては至極当然の反応なのですが---、それは全て「ポジティブになるための努力が足りない」と、簡単に切り捨てられてしまう。確かに、これは一種のカルト宗教を彷彿とさせますよね。で、そうした【ポジティブ教】へ異議を唱えるやいなや、こんな答えが返って来ます。「あなたの考え方はおかしい」「心が歪んでいる。もっとポジティブに乳がん体験をとらえなきゃ!」「カウンセリング受けなさいよ」「そんなに怒って、苦虫つぶしたような顔しちゃダメ。神様のご加護を。」あれまぁ。逆に説教されちゃいましたねー。ちょっと本音を吐いたら、たちまちこれですか。「乳がんなんて、要らない!!!こんなもの、欲しくない!!!」という魂の叫びを共有してくれる人、「がん」という病を真っ向から見据え、その不条理さから逃げずに立ち向かおうとする「同志」も、結局、ほとんど出会うことはありませんでした。不愉快な体験はそれだけではありません。闘うフェミニスト、硬派な理系の女であるエーレンライクさんにとって、【ポジティブ教】に負けず劣らず頭に来たのは、乳がん患者を次々と狙い撃ちしてくる、いかにも女子供向けといった作りの、「乳がん関連・桃色グッズ」。ピンク色の化粧品セットや、ピンクのクレヨンとノートがセットになった日記キットなど(笑)。「やっぱり、私、乳がんになっても女の部分だけは失いたくないの」「いくつになっても私は女」...この手のセリフがすらすらと口を突いて出てくるような女性だったら、ピンクリボンのロゴ入りグッズに喜ぶこともあるのでしょうが、彼女のように「私、カワイイ」なんて口が裂けても言わない筋金入りのフェミニストには、ちと甘ったる過ぎたんでしょうねぇ。 「...いらねーよっ!!!」...エーレンライクさん、もし日本語を話せたら、次々とプレゼントされるピンクリボングッズに対してこんな感じの捨て台詞を吐いていたんじゃないでしょうか。ともかく、彼女はその後無事、乳がんからの生還を果たします。闘い済んだ今、強いて乳がんとの闘いから得た「贈り物(gift)」を一つ挙げるというのであれば、それは、 「アメリカ文化の中にありながら、それまで気付いていなかった 一つの思想的潮流---つまり、現実を否定し、不幸は明るく甘受し、 自分の運命は自分で責任を持ち、他の誰かを責めることを良しとしない、 といった潮流---と、私自身との間に起こった、きわめて個人的であり、 苦渋に満ちた出会い」(Barbara Ehrenreich, Bright-Sided: How the Relentless Promotion of Positive Thinking Has Undermined America, New York, Metropolitan Books, 2009, 44.)...と、本書全体に流れるテーマをきちっと押さえたところで、第一章は終わりです。
2012.01.30
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今日、約1週間ぶりに武田邦彦先生(中部大学)のブログを拝読しました。「よい子はどこで作られるのか」シリーズ、私がここ数週間抱えているテーマである 【行き過ぎたポジティブシンキングは、 現実逃避/否認である】と重なる部分も多く、いろいろと考えさせられました。日本人、日本という国のあり方についてとても重要な問題を提起していると思いますので、ご一読をお勧めします。...空気を読むのが日本では「よい子」とされ、それができない"KYな子"は、「悪い子」。(あぁ、まさしくおっしゃる通り!昭和時代からずっと変わっていません!!!)だけど、その「空気」自体がとてつもなく汚れていて、吐き気がする程悪臭に満ちていて、有毒物質だらけで、よその国からは考えられない程に劣悪な「空気」だったら、一体どうするのでしょうか。しかも、中で暮らす人たちは、鼻がすっかり麻痺していて、事態の深刻さに全く気付いていないと来てる。一体どうするつもりなのでしょうか。我々日本人は。自分達の代だけ良ければ、子供・孫の代がどんな辛い目にあっても、そんなの自分がいなくなった後の遠い未来のことだからど~でもいいや、と言うんでしょうかね。身勝手過ぎます。そして、あまりにも近視眼的。何で50年先、100年先に思いを馳せることすらできないんでしょうか。我が身さえ良ければそれで良し、って...。「想像力」という言葉はもはや死語なんでしょうか。...とにかく、武田邦彦先生の記事、リンクを貼っておきます。よい子はどこで作られるのか?http://takedanet.com/2012/01/post_ff74.html「よい子」の研究 (2) 日本人の特徴と「よい子」製造の要因http://takedanet.com/2012/01/post_8f47.html先生のお名前は、数年前に新書「偽善エコロジー」を読んで以来、「『多勢に無勢』を恐れることなく、ご自分で確信されたことはしっかりと公にする」気骨のある誠実な研究者、として私の中に記憶されていました。「マスコミの報道を鵜呑みにするな!」「エコ・エコ・エコ連発の裏には、巨大ビジネスの利権や金がしっかり動いている。」...その通りだと思います。【送料無料】偽善エコロジー何年か経った今も、その仕組みはちっとも変わっていません。逆に、一段とひどくなっているかも。「食べて被災地を応援しようキャンペーン」などといった、お涙頂戴的フレーズで得をするのは一体誰なのか、ということを真剣に検証しなきゃいけません。「被災地応援」の一言で、消費者の(きわめてまっとうな、人間としてごく自然な)「安全な食べ物を!」という声を潰そうとするんですから、全く世も末です。責任の所在を曖昧にするための、一種のプロパガンダじゃないですか。これじゃぁ、つい最近、若様が権力の座に着いた例のご近所さん国家、あそこのやっていることと大して変わりませんね。人様のこと言えた立場じゃないでしょ。「被災地を応援して家族で放射能浴びた食材をどんどん体内に送り込む」のが、「空気読めるよい子」...なのだとしたら、私、空気ちっとも読めない極悪非道な奴、で結構です。(結構毛だらけ猫灰だらけ、ってありましたけど...あれ、由来は一体、何?)被災地応援はもっと別の形でしていきたいので、まずは病気・怪我に気をつけて健康を保ち、誰にも迷惑かけないようにすることを優先したい。だから、危ない物は食べたくない。...日本にもそのような考えの人達がもっと出てきて、大声出してもいいと思うのですが。やはり「空気」に逆らうような声を上げるというのは、今も、昔も、日本という国においては難しいことなのでしょうか。昨年3月11日の大震災の後、いつも必ず覗いているブルーシャ西村さん(抜群の情報収集力、そして分析のメスの鋭さにいつも敬服しております。)のブログで、先生が専門家の立場から原発事故に関する情報を発信されていることを知りました。もちろん、先生だってやはり我々と同じ「人間」であることに変わりはありません。その主張が「100%正しい」かどうか、それは後世の判断に委ねなければいけません。全能全知の神様の位置に祀り上げてしまっては、武田先生にとってご迷惑もいいとこ、でしょう。それでもなお、私が武田先生のことを「この人、信頼できるな。」と感じる理由、それは、「自分かわいさ」ゆえの保身、といったせせこましい根性が先生の文章からは少しも感じられないから。だから、「とにかく、この人の主張は最後まできちんと聞こう(読もう)」と思わずにはいられないのです。たとえ、それが自分(たち)にとって少々耳が痛い、違和感を覚えるような意見であったとしても。いわゆる「専門家」にありがちな、シロートを小馬鹿にしたような、専門用語で煙に巻いて逃げるようなズルいところが全然無いんですよね、武田先生の文章には。書き手(話し手)として、武田先生が私達に最大限の敬意を払ってくれているのがわかるから、私達もそれにふさわしい読み手(聞き手)としての態度を自然と備えるようになる。「私が上、あなたが下」という不快な上下関係を感じさせない、そんな先生の誠実なお人柄がよく表れた文章だから、読んでいても頭(心)にストレートに入ってくるような気がするんですね。礼節と尊敬に守られた環境では、読み手の方も「これ、違うんじゃないですか。」と疑問点を臆することなく先生に直接尋ねることができる、というもの。お互いに気持ち良く議論できますよね。どちらもいい気分になって、真実へも更に一歩近付くことができて、いいことずくめ、です。「学び」っていうのは、こうでなくっちゃいけませんね。まさに英語で言うところの"win-win situation"!親として、人として、武田先生の誠実な姿勢、ぜひ見習いたいものです。 さて、ここ何回か名前を出しているバーバラ・エーレンライク著・「ポジティブ病の国、アメリカ」。【送料無料】ポジティブ病の国、アメリカ前々回も書いた通り、これは激辛×2+ほろ苦さといった読後感の残る本です。2001年の同時多発テロ、2008年のリーマンショック、それに続く今なお出口の見えない不況、高い失業率...といった具合に、ここ十数年の間ツイてないことだらけだったアメリカを、もうそれはそれはリアルに扱っていますからね。読んで明るくなれ、と言われても、無理、無理。(それでも何とか希望を奮い立たせて前へ進んでいかねばならないわけですが...。)エーレンライクさんの主張を(いささか乱暴に)まとめるならばですね~、 「ポジティブ・シンキング(前向き思考)」というのは、 【現実から目を逸らす】ことと表裏一体。 現実から目を逸らしすぎた挙句、アメリカはブルーカラーも ホワイトカラーも関係無く貧困層に転落していくような、 大恐慌時代(1929年~)以来最大のスランプに陥ってしまった。 今、我々に必要なのは、【クリティカル・シンキング(批判的思考)】 である。指導者層、支配者層から疎まれても、嫌がられても、どんどん 厳しい突っ込みを入れるべし。難しい質問をぶつけていくべし。 過度にポジティブになるのも、また過度にネガティブになるのも、 どちらもダメ。物事をありのままに、思い込みや期待とは切り離して、 醒めた現実主義でもって見つめること。でないと、我々を背後から巧みに 操ろうと手ぐすね引いて待っている邪悪な【集団思考(group think)】に、 いとも簡単に魂を持って行かれてしまうから。(←カルト教団につかまって骨までしゃぶられたり、「頭金ゼロで5000万円(相当)のローン組んで家、買っちゃえ買っちゃえ!BMWの新車もついでにローン組んじゃえ!」といったセールストークに乗せられたりするのは、この【集団思考】にカモられた人たち...というわけです。イケイケドンドン!ばかり大声で歌っちゃって、誰も冷静に書類だの契約書だの読まなかった、ってことなのね。で、そのツケがたんまりと後から回ってきた...と。)あ、それから、バーバラさん、本のあとがき部分でちゃんと旧ソ連、北朝鮮といった、政治的に自滅した、あるいは問題山積といった国家のことにも触れています。この2国は、まさに【(指導者側から押し付けられた)ポジティブ・シンキング】、そして、陰に黒い意図を隠した【集団思考】で国民が操作されている国家の好例だそうです。うむ。言えてる!!!(慈悲あふれる賢明な指導者に恵まれた人民は労働に励み、国家の更なる発展を信じながら、明日への活力を養う...といったニュース原稿が読まれている間にも、また一人、また一人...と、地方の貧しい農村部で人々が餓死していく...、というアレですよ、アレ。)...まとめちゃうと、「な~んだ、そんだけ?ごくあったりまえじゃん。」とあっけなく聞こえますが...。実は、面白いのは各章毎に登場する個々の具体例や、一癖も二癖もある実在の人々についての描写なんですよね。「へぇ~!(←「トリビアの泉」っぽく読んでください。)これは全然知らなかった!勉強になった!!!」と、読んでいてワクワクした部分がありました。十数年もこの国に住んでいるのに、ねぇ。字数が尽きましたので、そうした事例の紹介は次回に譲るとしましょう。
2012.01.22
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前回に引き続き、アメリカにおける臨床心理士(博士)の現実を生々しく描いたYouTubeの動画を紹介します。前半の内容は こちら、「前編」からどうぞ。登場人物は、臨床心理士の資格を持つ大学の先生、そして、進路相談に訪れた大学四年生の女子学生。「自分に誇りを持てるようになりたい、だから『ドクター』と呼ばれたい」という甘ちゃん(笑)な理由で博士課程に行きたい、と言う彼女に対し、先生はあまりいい顔をしません。学費については学資ローンを利用してまかない、博士号を取得した後でじゃんじゃん仕事して返済すればいいじゃないか、と女子学生は考えているのですが...。⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*(☆先生のセリフは緑字、女子学生のセリフは黒字です。☆)まず、オフィスの賃料を払わなくてはいけないわね。それから、医療過誤保険、資格認定のための費用、研修のための講座受講費、広告代、全米心理学会、州の心理学会、地域の心理学会、そうした全ての所属団体に払う会費を払わなければなりません。その上、毎月の学資ローン【※注】の支払いもありますね。わざわざ博士号を取っても、修士だけのセラピストよりも時給にして10ドルかそこら上乗せされるに過ぎません。 なのに、学資ローンの返済額は修士の場合よりもさらに10万ドル増えて、利息も上乗せされます。修士だけ取ってさっさと仕事を見つけた人たちに比べ、時間的にも遅れを取りますしね。そうしたこと全てを考慮してみると、博士号をわざわざ取ったって、修士号のみのセラピストに比べて1時間あたりの収入は逆に15ドル低くなるのよ。 【※注:大学の学費を金融機関から借り入れ、卒業後に本人が返済していくタイプのローン。アメリカの中産階級以下の家庭ではごく普通に見られる、学費捻出法。詳しくは堤未果さんのこの本をどうぞ。高騰する一方の教育費と、学資ローンの悲惨な現状とが第1章で詳細に説明されています。「ポジティブ病」患者がずっと目を背けてきたような、アメリカの暗黒面を覗いてみたい方にはお勧めです。】【送料無料】ルポ貧困大国アメリカ(2)私、たくさん患者さんを取って、学資ローンをせっせと返済し、いつか「夢のマイホーム」を買いたいんです。学資ローンの返済額は、得られる収入の多少によって変わって来るの。だから、あなたが働けば働く程、月々の返済額は上がる、ってわけ。だいたい、家なんて買えるはずないでしょ。だって、学資ローンを利用するってことは、家一軒のローンと同じくらいの借金を背負うってことになるのだから。 私のだんな様になる人に「夢のマイホーム」を買ってもらえばいいんだわ。あなた、今、彼氏はいるの? いません。どうして、そんなこと聞くんですか。今、彼氏がいないんだったら、博士過程に行ってから彼氏なんてできませんよ。 どういうことですか。進学したら、一緒に臨床心理学のプロを目指せるような、繊細な心を持つ素敵な男の人と出会えると思っていたんですけど。確かに、素晴らしい男性がいるにはいるでしょう。でも、その人たちはみんな、既婚者か、それか、同性愛者かのどちらかよ。 じゃぁ、大学の外で出会いを探すことにします。そんな時間は無いの。臨床心理士になるには、授業に出て、リサーチを行なって、本読んで、学部生相手に授業して、そして何千時間にも及ぶ病院でのトレーニングをこなさなきゃいけないのよ。おまけに、あなたと患者さんとの間のやり取りを録音したものを、大嫌いな指導教官に一文一文細かくチェックされて、難癖付けられて、こんなんじゃダメだ、とそれはボロクソにけなされるの。そのくせ、審査評定の一週間前になったらコロッと態度が変わって、「この学生は素晴らしいセラピストに成長した、これも本学博士課程の教育内容と、私の指導が良かったからだ」なんて言われるんだから、たまんないわよね。 ならば、博士課程を終えた後で出会いを探します。そうなっても、やっぱり時間が無いのよ。臨床心理士の資格取得が待っています。延べ1750時間の研修期間をこなしながら、国家試験のための勉強もしなければなりません。試験では、心理学の11分野を網羅しなければならないんだけど、実際に臨床心理士が仕事の上で使うのは、たった2分野だけ。それから州の免許を取るための試験にも受からないとね。口頭試問も含まれるんだけど、その合格基準がまたいい加減と来てる。ここで更に1~2年、プロとして働くまでに待たねばならない、という可能性もある。もし試験に受からなければ、当然資格免許はもらえないから、それまで費やした7~8年を完全に棒に振るということになるわね。見事試験に合格して免許が取れても、その時点であなたは既に30過ぎ。しかも、社会人としては全くの新米。友達はみんな結婚して子持ちになっていて、あなたに言い寄ってくるのは精神に問題を抱えていて、無料セラピーを受けたいと思っているような男だけになるわよ。 でも、臨床心理で博士号を取れれば、先生みたいに大学で教えることもできますよね。確かにね。「心理学入門」のクラスとか。でも、あなたのような心理学専攻の四年生だったら、その程度のクラスなら今すぐにでも教えられるんじゃないかしら。 先生は「異常心理学」のクラスも教えていらっしゃいますよね。ええ。学生達は、自分が抱えている症状についても私にいろいろと話してくるし、こんなことも言っているわね。「どうして先生がこの科目を担当しているんですか。」何でも、ケーブルテレビか何かで番組を見て、自分が心の病にかかっていると思い込んだみたいなんだけど、自分の病状が授業で説明された内容とは一致しない、だから先生の教えていることは間違ってます、なんて言うのよ。こちらはプロとして10年臨床経験積んで、それに基づいて教えてるってのにね~。 心理学科の他の先生方とお仕事するのは好きですか。まぁ、悪い人達じゃないわね。でも、臨床心理士っていうのは、とかく世の中の人から変な奴だって見られやすいから、他の人に接するときは特に意識していい人であるように、変な奴って見られないように気をつけないといけないの。 先生、先生はどうして臨床心理で博士号を取ったんですか。私、自分に誇りを持てるようになりたかったの。それに、「ドクター」と名乗りたかったし。 それで、うまく行きましたか。いいえ。ますます自分が嫌になったわ。 私、何をしたら良いですかね。「あなた、間違ったことをやってますよ」って、他の人に言ってあげたいだけなんです。自分の直観に従って。まだ22歳ですけど、自分にはいろいろな問題の解決法が見えている。そんな気がしてならないんです。「ライフコーチ」になったらどうかしら。何の教育も訓練も要らないし、取り締まる法律も規制も倫理規定も何も無い。料金は勝手に自分で決めればいいし、思いつくままにズバッとアドバイスしてやればいい。オンラインのコーチ学校を開いて、「ライフコーチ」のインチキ資格だの証明書だのを発行するのもいいわね。 それ、最高ですね!じゃぁ、今から私、「ライフコーチ」になります。こんなに簡単なことだったなんて。先生、ありがとうございます。どういたしまして。さぁ、私もそろそろ帰らなきゃ。ワンルームのアパートの部屋で、猫が4匹、食事を待っているの。あの子達も私のことを「ドクター」なんて呼ばないわね。⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒* ...「ライフコーチ」(笑) 安易なルートに敢えて背を向け、Ph.D(博士号)プログラムという茨の道を選択し、見事「臨床心理士(Clinical Psychologist)」の資格を手にして働いていらっしゃる専門家の方々。また、資格取得を目指して修行中の学生さんたち。誠実に、真面目に人間の心の問題と関わっていらっしゃる全米、いや、全世界の専門家の皆さんに、心から敬意を表したいと思います。すごいです。これ程キツい現実にもめげず、患者さん(クライアントさん)のために日夜汗と涙を流しているなんて。憧れとか、カッコ良いからとか、そんな浮わついた志望動機では、絶対に最後まで辿り着けない、そのくらい厳しい職業ですね。臨床心理士(博士)っていうのは。これから心理学関係の本を読むときは、著者の出身大学名だけでなく、修士号・博士号を取得した大学院の名前までちゃんと確かめることにします。いわゆる「ディグリー・ミル」と称される教育機関ではない、まっとうな大学で学位を取っているかどうか、そこだけはチェックしましょう。【※degree mill:実力の怪しい学生にも学位をボンボン授与してしまう、いい加減な『ナンチャッテ大学』のことを指す。営利追求なので学生数は多いが、教育内容はお粗末なことがほとんど。】 「学歴だけが全てじゃないのに。」...はい、ごもっとも。でも!でも!アメリカの場合、「ディグリー・ミル」から簡単に手に入れた博士号をちゃっかり名前の後に付けて、「私、ちゃんと教育あるのよ!」と声高にアピールしている、そういうハリボテタイプの著者が多過ぎるんですよ~。例えば、前々回の日記で触れましたが、七つのチャクラ話でブレイクしたC.M.さん。彼女、「教員」として就任した某三流ディグリーミル大学から博士号を発行してもらった、という事実が後になってバレて、問題となりました。それから間もなく、彼女の本からPh.Dの肩書は幽霊みたいに消えてしまったのです。)では、今日得た教訓を---。「まっとうな大学で、まっとうに修行し、難関の試験を突破してまっとうに資格を取得した心理学の専門家と、ディグリーミル出身のナンチャッテ心理屋さんとを一緒のレベルで語っては、まっとうな努力を重ねてきた専門家に対して、あまりにも失礼というもの。」そんなことしたら、【本物】を冒涜したも同然ですよ。
2012.01.16
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前々回に画像だけ掲載したバーバラ・エーレンライク著「ポジティブ病の国・アメリカ」。その原著である"Bright-Sided"を,今日読了しました。...というか、オーディオブック版で聴き終えたところです。(まず耳から入れて、その後、目で活字を追っかける。これがどうも自分にとっては非常に効率の良い方法であることがわかってきました。中身が頭に入ります!)Bright-Sided: How the Relentless Promotion of Positive Thinking Has Undermined America著者:Barbara Ehrenreich価格:4,066円(税込、送料込)楽天ブックスで詳細を見る可愛らしいのは表紙だけ。中身は激辛も激辛、そしてほろ苦くもあります。2001年の9.11同時多発テロ、そして2008年のリーマンショックによる不況下で「ポジティブ教」に救いを求めるアメリカ国民の姿、そしてその「ポジティブ教」の源流について、とても興味深い分析がなされています。これは読んで(聴いて)大正解、の一冊でした。詳しくはまた日を改めてご紹介しますね。年末に「エイブラハム&ヒックス」という幻惑の森から無事に抜け出すことができて、以来、精神世界モノへの興味は急速に薄れています。いや~、「本物路線」と「売れ線」との両立って、きわめて難しいみたいですね。少なくとも、商業主義大国アメリカにおいては。いや、日本でもやっぱり事情は同じかな。とにかく、そうした「金・金・金。それと、名声。」が真の目的であるニューエイジ商法にはとことん愛想が尽きたためか、芸術であるとか、物作りであるとか、スポーツとか、学術研究であるとか、とにかくどんな分野でも 【一つの道にひたすら精進する】 といった生き方を選んだ人々に対して、以前にも増して深い尊敬の念を抱くようになりました。精進。努力。真実一路。直球勝負。けち臭い小細工も、ズルも、一切無し。自分自身が選んだ領域において、より優れた物を作りたいから頑張る。昨日の自分よりも、今日は更に高いレベルに到達したいから、そのために努力し続ける。...人として生を受けたからには、かくありたいものだ、という姿勢を、お仕事の場でも、私生活でも、変わることなく淡々と実践している。つまり、公の顔と私の顔との間で少しもブレが無い。そういう人こそが「本物」の名に値するのだなぁ、って、ようやく気付きました。今更ながらで照れ臭いのですけど。人から注目されるとか、されないとか、そんなことはどーでも良いこと。誰一人見ている人がいなくたって、「本物」は「本物」。拍手喝采する人も、サクラも一切無用なのです。「神様だけが知っている」...それで充分満ち足りた気持ちでいられたら、それは「本物」に一歩近づいているという証拠なのかもしれません。どうせ学ぶならば、「本物」の言葉や生き方から学ばなくっちゃ、ですね。時間が勿体無いですもん。少年老い易く学成り難し!(あ、既に中年なんですけど...。)さて、前置きはこれくらいにして。随分と長い事「心理の専門家になりたい」と悶々としていた仏文科出身(=ハナっから畑違い。)、しかも数学ダメ~で統計学アレルギー!の純粋文系右脳人間にとって、「臨床心理士」(英:Clinical Psychologist)というのは憧れの資格であります。しかも、Ph.D(博士)の肩書まで加わるとあっちゃぁ、そりゃ~、もう取れれば最高っ!でしょうね。今から近所の大学の学部3年生にでも編入して、子供が中学生になる頃に大学院に進んでいけば、ゆくゆくは私だって......な~んて、一体、どこまでおめでたいんだよっ、自分っ!ってな感じで、心理学好きの夢見る夢子が抱きそうな、甘ったるい願望を木っ端微塵に打ち砕いてくれるような、そんな超・強力な動画をYouTube上で発見しました。これ、アメリカで現役の臨床心理士(Ph.D in Clinical Psychology)として働いている人がこしらえたそうです。再生回数を見る限り、かなり受けてますね~。あまりにも真実過ぎて残酷~、ということで、現在心理学の大学院に通っているという学生さんたちの間では「大爆笑した」の声もある一方で、「うっかり見てしまい、激しく落ち込んでいる」という声もさかんに上がっているらしいです。(←コメント欄より。)何とか聞き取って翻訳してみましたので、お楽しみください。(違うんじゃないの~?って部分がありましたら、遠慮無く教えてください。メールででも何でも。)先生のセリフは緑色です。長いので、前・後編に分けますね。⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒* 先生、こんにちは。今日は進路についてご相談したいと思って、来ました。私、先生みたいに臨床心理学の博士号を取りたいんです。どうして臨床心理学の博士号が取りたいと思ったの?友達から、「人にアドバイスするのがすごく上手だね」と言われたし、それに、誰かが間違ったことをしていたら、その人が気付くための手助けをしたいんです。別に、臨床心理学の博士号を取らなくたって、人にアドバイスすることはできるし、「あなたのそれ、間違っている」と言うことはできるでしょ。博士号が欲しいんです。人から「ドクター(博士)」と呼ばれるのって、かっこいいじゃないですか。誰があなたに向かって「ドクター(博士)」って言うの?患者さんです。患者さんは、あなたのことをファーストネームで呼ぶし、そもそも、あなたが博士号を持っているかどうかなんて知らないわよ。それに、薬を処方することができないのに「ドクター」と呼ばせるだなんて、患者さんにとってはややこしくなるだけです。じゃぁ、友達は私のこと「ドクター」って呼んでくれるかな。友達に「ドクターって呼んで」なんて頼んだら、あなたそれこそみんなの笑い者よ。家族は誇りに思ってくれるんじゃないかしら。私のことを「ドクター」って呼べて。お母さんは泣きながら、「なんで本物のドクター(医者)になってくれなかったのよ」って逆に詰め寄るでしょうね。私、自分に誇りを持てるようになりたくって。「ドクター」って名乗れるようになれば、自信がつくと思うのです。自分に誇りを持ちたくて博士号を目指すんだったら、心理療法の専門家に診てもらう方がいいでしょう。自尊心が低い、ということだから。大学院へ行くよりも、心理療法の方が安上がりだし。臨床心理の専門家になって独立開業すれば、お金だっていっぱい稼げると思うのですが。修士号しか持っていないセラピストと比べたら、博士号セラピストの方が儲かるのでしょう。~以下、後編へ続く~
2012.01.16
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※02.07.12 John Scriven氏のサイトへのリンクを修正しました。※まずは この前の日記 を先にお読みくださるよう、お願いします。先月の日記に書いた通り、今、私にとっての「鳥箱先生」は、エイブラハム&ヒックス夫妻です。鳥箱先生の「みだりに他人をかじるべからず」という正論と同じで、彼らの本の中には「おぉ~、これはいいこと聞いた!」と、しぼみがちな心に元気をくれるような、ありがたい内容も結構多いんですよ。 でも、それって、彼らが人間的に修養を積んだから、そのご褒美として「教え好きの霊的集団・エイブラハム」からメッセージを託された、ってわけじゃないです。単に、引っ張ってきた「元ネタ」が優れているだけ。以上!こうしたネタの引用+合成に関しては、〇〇ウェイのセールスで前の奥さん(当時人妻だったエスターと不倫する前に一緒だった奥さん)と組んで、全米トップレベルに登りつめるまで、ガンガン稼ぎまくっていたジェリー(昨年11月18日に死去)の功績が大きいと言えましょう。というのも、Kyra Speaksのブログ作者・Kyraさん(本業はコピーライターだそうです。元エイブラハムフォロワー、という事以外に身の上話は一切されませんが。)が調べたように、〇〇ウェイっていう会社(マルチな商売方法☆)のセールスというのは、末端の販売員は洗剤だの鍋セットだのを個人相手に売っていますけど、それはあくまでも「末端」の話。ご自分の目で確かめたい方、こちらの英語ページを覗いてみてください。http://abrahamhicksfraud.blogspot.com/p/whats-so-bad-about-esther-and-jerrys.htmlそして、こちらはrickross.comという、カルト宗教問題についての啓蒙・情報サイトの、エイブラハム&ヒックスに関するスレッドです。数日に分けて読まないといけないくらい膨大な量ですが、とにかく真実に少しでも近付きたい方、頑張ってください。http://forum.rickross.com/read.php?3,21069日本ではどうだか知りませんが、アメリカの場合、〇〇ウェイ販売員のトップレベル、つまり儲かっちゃって儲かっちゃって仕方が無い、もうウハウハよ~!!!という上層部の人達は、一体何で稼いでいるのか?っていうとですね、 「自己啓発セミナーや、その教材をバンバン売って、儲けている。」 (洗剤だの鍋だの売らないよ~)...のですって。ジェリーさんがエイブラハムとの出会い前について語る部分でも何度か登場する、ナポレオン・ヒルあたり、すなわちアメリカで言う"Get Rich Quick"(笑)の類の成功哲学、ですね。そして、「お金が欲しい...」と両目が$$の形になった聴衆に向かって、景気いいこと一発二発かまして、テープだの本だののセミナー教材売りまくっていたわけです。めちゃくちゃ話うまいわけですよ。うまくって当たり前です。(ちなみに、我が家には家人の知り合いが昔、ご主人が若くして亡くなり、一時〇〇ウェイに関わったことがあるために、貰い物の鍋が一個だけあります。天ぷらや揚げ物がとても上手にできます。怖くてお値段はとても聞けませんけど。敢えて自分からこの会社の商品を買おうとは思いませんが、品物自体には問題無いですよ。まぁ、売り方はあまり好みじゃありませんがね。)まぁ、とにかく、出るわ、出るわ、いろいろと幻滅させられるような事実が。書き込みをする人々の冷静な意見や、元・エイブラハムフォロワーだったという人々の体験談 (作者のMariahさんの言葉以外に、コメント欄の匿名書き込みも大いに参考になります。これはKyraさんのサイトも同じですね。)を読むにつれて、 「今、自分が引き寄せなきゃいけないのは、お金でも『ハッピーな気分』でもない、批判的思考(クリティカルシンキング)+確かなリサーチ能力だ!」...そんな結論に至りました。引き寄せの法則自体が100%科学的に正しいかは、正直、わかりません。「ある程度」は正しいのではないか、と、個人的な体験から「ある程度」は認めています。今のところは。古い時代から、あまたの優れた宗教者たちが似たようなことを言い続けてきましたからね。でも、もうエイブラハムとヒックス夫妻の本やCDを手に取ることは無いでしょう。もう用済みとなったので、手持ちの品は全て処分することにします。図書館やどこかに寄付することも考えたのですが、また他の誰かが私と同じようなガッカリ体験をするかもしれない、と考えると、このままゴミ箱(紙製品はリサイクルへ)送りとします。長年にわたりエイブラハムの教えを信じ、「まだまだ私は引き寄せの努力が足りない。集中が足りない。瞑想も真面目にやれてない。」と、自分を叱咤し、多額の費用を注ぎ込んできた経験者の悲鳴にも似た書き込みを読むと、私の財布が被った痛手なんて、かわいいもんです。(ほとんど図書館から借りたか、中古で手に入れましたからねぇ。邦訳本はさすがに日本から取り寄せましたけど...。←授業料、授業料)「明るい気分でいるほど、大切なことはない!」...な~んて、トロ~ンといい気持ちにさせられて、罠にホイホイと食らい付いていった我々に対し、「おまえを教育するんだぞ。」と、雄弁にまくしたてていた【鳥箱先生】。...それが、「エイブラハム&ヒックス夫妻」の正体でした。(初期の作品、少なくとも「エイブラハムとの対話」までの本については、ニセモノか本物かは私にはよくわからないので、判断保留とします。別にチャネリングという現象全体を否定する気は無いんですよ。数は多くないかもしれませんけど、【本物】は必ずいると信じています。)そして、その【鳥箱先生】の言う事を、ありがたや~、と拝聴していたフウねずみとその母親...自分がフウねずみ親子と大差ないレベルだった、と気付いたのが、今回一番の打撃だったかもしれません。なぜ、私は【鳥箱先生】を見破ることができなかったのか。それは、今、幻滅を味わっている全ての元・Aber(エイブラハムフォロワー)が共通して抱く問いかもしれません。少なくとも、自分一人っきりではなかった、という慰めはあります。エイブラハム&ヒックスのセミナーのCDを聞くと、「企業研究員の心理学者」「医療ソーシャルワーカー」(注:アメリカでは大学院修士号以上でないと就けない、難関とされる職種です)「学校の教師」「獣医師」...などなど、肩書を聞く限り、賢そうな人々が随所に質問者として登場します。...でも、ここらでそうした自己憐憫はやめておきましょう。「だって、先生。私の友達は、みんな...」が口癖のフウねずみと同じ穴のむじなになってしまいますもん。あ~あ。これからは、本一つ読むにしても、その著者の人となりを直接知っているか(例・エニアグラムのドン・リチャード・リソさん、ラス・ハドソンさん、その他日本で地道に活動している方たち)か、その、信頼できる人達が「これはいいよ!」と太鼓判押しているか、もしくは死後最低200年以上(←おーっと危ない。150年、に訂正。1817年没のジェイン・オースティンが読めなくなるっ。)経過しているか、そういう人達が書いた著作に限る、ってしようかな~。←ははは、冗談ですよ、冗談。でも、もうニューエイジっってジャンルにはあまり近付かないようにした方が無難ですね。「信じやすい人」である、私のような人間は。(だって、神様とノリノリで対話しちゃったのに、盗作を指摘されてあっさり認めたN.D.W.氏とか、天使のセラピーとカードでおなじみのブロンド美人・D.V女史とか、日本でアメリカで高い評価を受けている人達に関して、あまり感心できないような話が次々と飛び出すんですもの。←興味ある方はメールをください。それから、7つのチャクラについて書いた、C.M.女史の場合は、本を実際に読んでみて「こりゃ~かなり怪しいかも...」と、その物書きとしての誠実さ・力量を疑っていたところ、インチキ大学発行のナンチャッテ博士を名乗っていたことがバレて、以降、Ph.Dの文字が本の表紙から一切消えた、ってこともありましたね~。...エイブラハムシリーズの出版元・Hay House絡みの著者ばかりってーのが、どうもニオうと思いません?創業者のルイーズ・ヘイ自身も、ある種トンデモ本の作者としてしょっちゅう槍玉に上がっていますし。確かに、落ち込んでいる時に読むと慰められるんですけどねぇ...。)まぁ、「引き寄せ信者」の方から見たらいろいろ文句はあると思います。でも、そうした方々は、エイブラハム・ヒックスの本に基づき、「引き寄せ」入門書を著し、多くの人に勇気と活力を与えた作家・リン・グラブホーン女史についてはどう説明をつけるのでしょうか。「気分」の力で人生うまくいく!著者:リン・グラブホーン価格:1,365円(税込、送料込)楽天ブックスで詳細を見る2004年、彼女は自らの命を絶ちました。この辺の事情はこちらのイギリス人作家・John Scriven氏のサイトで活発に論じられていますので、参考になさってください。ご冥福をお祈りします。そして、私自身も、一人の日本人として、批判的思考(クリティカルシンキング)の日本バージョンつっこみ力(← パオロ・マッツァリーノ氏による造語)の達人目指して、日々精進していこう。そう心に決めました。
2012.01.07
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前回に引き続き、宮沢賢治のほの黒いユーモアが効いている短編・「鳥箱先生とフウねずみ」 を追っていきます。リンク先、引用ともに、青空文庫さんのテキストを使わせていただきます。フウという名の小ネズミは、ある日突然自分が「先生」であることに目覚めてしまった鳥箱(厚い板と針金、という、ごく日常的な材料でできた箱です)のところへ、その母親に連れられてやって来ます。それにしても、一体なぜ、ねずみの母親はよりによって木製の鳥箱(しかも、役立たずとして物置の端っこに追いやられているような。)を「先生」としてあがめ、子供の教育までゆだねてしまったのでしょうね?鳥箱先生の出会いがしらの一言に注目してみましょう。 「おいおい。みだりに他人をかじるべからずといふ、カマジン国の王様の格言を知らないか。」前半の「みだりに他人を...」は、至極もっともなことを言っています。が!「カマジン国の王様の格言」...あまり賢そうに見えないこのねずみのお母さん、「カマジン国」「王様」「格言」など、立派そうに聞こえる(けど、よくはわからない。)単語の羅列に、ガツン!と圧倒されてしまったのではないでしょうか。「クォンタム・フィジックス(量子物理学)」「パラダイム・シフト」「メタ何とか」を行間に散りばめて、人文アート好きの右脳人間の目を眩ませようとする、いわゆる【ニューエイジ系】の著者たち...あの手の人達が好んで使う、イカサマテクニックと一緒、ですよ。...高一の時、試験範囲の大半が物理だった時の期末テストで16点(もちろん100点満点)取ったことが自慢で、理系分野の話はからっきし駄目~ な筆者は、最近こうした「ニューエイジで金儲け!お金も家も車も、ジャンジャン引き寄せ!!!」を企む人々の巧妙な手口に、徐々に目を開かれつつあります。何を今更...と、笑いたきゃ笑ってくださって結構。でも、一生気付くこともなく、墓場までお目目キラキラ☆させながら行っちゃうよりはマシじゃないかな。ま、慰めにしかなりませんけど。先を急ぎましょう。平身低頭して「せがれのフウに、教えを授けてやってはくれないか」と頼むお母さんねずみに、鳥箱先生の口から出たのは、これですよ。 「(...)わしはね。今こそこんな処へ来てゐるが、前は、それはもう、 硝子【筆者注:ガラス】でこさへた立派な家の中に居たんだ。 ひよどりを、四人も育てて教へてやったんだ。どれもみんな、はじめは バタバタ云って、手もつけられない子供らばかりだったがね、みんな、 間もなく、わしの感化で、おとなしく立派になった。 そして、それはそれは、安楽に一生を送ったのだ。 栄耀栄華【えいようえいが】をきはめたもんだ。」嘘! 嘘! 真っ赤な大嘘!!!しかし、母親ねずみはそんな「先生」の妄想炸裂!な話をつゆほども疑いませんでした。そこまで無条件に持ち上げられては、「先生」だって悪い気はしないでしょう。で、連れて来られたフウねずみについては、 「ははあ、仲々賢こさうなお子さんですな。頭のかたちが大へんよろしい。」と、外見についてのみ、毒にも薬にもならないことを言っています。まぁ、この辺はご愛嬌、ですね。かくして、フウねずみは鳥箱先生の弟子となります。所詮、勝手に先生と名乗っているだけなので、何ら有益なことを教えられるわけではありません。フウねずみとのやり取りは、こんな感じです。 「おい。フウ。ちょっと待ちなさい。なぜ、おまへは、さう、 ちょろちょろ、つまだてしてあるくんだ。男といふものは、 もっとゆっくり、もっと大股にあるくものだ。」 「だって先生。僕の友だちは、誰だってちょろちょろ歩かない者はありません。 僕はその中で、一番威張って歩いてゐるんです。」 「お前の友だちといふのは、どんな人だ。」 「しらみに、くもに、だにです。」 「そんなものと、お前はつきあってゐるのか。なぜもう少し、りっぱなものと つきあはん。なぜもっと立派なものとくらべないか。」 「だって、僕は、猫や、犬や、獅子や、虎は、大嫌ひなんです。」 「さうか。それなら仕方ない。が、もう少しりっぱにやって貰ひたい。」 「もうわかりました。先生。」フウねずみは一目散に逃げて行ってしまひました。...これじゃぁ、ただ長く生きてきたって事実だけを根拠に偉ぶって、周囲の若い人達に説教垂れたがる、ただの俗物オヤジじゃないですか~。しかも、フウねずみの言う「友だち」、上に挙げた三種類の生き物の他にも、むかで、けしつぶ、ひえつぶ、おおばこの実など、よくもまぁ、賢治はここまで徹底して笑いを取りに行けるなぁ、って感心するくらい、「取るに足らない存在」を選んで並べていますよね。(最後の三つは植物なので、「害虫」の類とはちょっと扱いを異にすべきかもしれませんけど。)とにかく、このフウねずみの「志の低さ」...これは、もう、どうにも直しようがありません。「だって、みんなそうなんです。(でも、その中で自分は一番マシなんです。)」めんどくさがりで、志の低い、向上心の欠けた集団によくありがちな、しょーもない言い訳ですね。「みんなそうだ」と言われてしまっては、ご自身の中に確固たる道徳観も教養も持ち合わせていない鳥箱先生には、切り返す術もありません。フウねずみはそんな先生から逃げるかの如く、さっさと穴の中に入っていってしまうのでした。こんなやりとりを三回ほど繰り返した挙句、とうとう鳥箱先生の堪忍袋の緒がブチ切れします。ひよどりを四人(原文ママ)も"教育"したけれど、このフウねずみという生徒は実にだめなやつだ---。(ご自分に非は全く無い、とおっしゃるのでしょうね。ま、当然そうでしょうね。)...「教育」って、一体この鳥箱先生の中ではどういう意味合いで使われていたのでしょうか?ただ、説教垂れるだけ?ただ、自由を奪って、年長者/偉い人の言う事に無理矢理従わせるだけ?それとも、どこかの立派な先生や本の言っていることを引っ張ってきて、自分自身が実行できもしないくせに、生徒にはそれを強要するだけ?そんなの本当の教育じゃないや、って、皆さん口を揃えておっしゃるでしょう。...でも、こういう「エセ教育」を本物の、価値ある教えだと信じ込まされて、頭の働きを活性化するどころか、逆にどんどん腑抜けにされてきた...そういうケース、思い当たりませんか?いろいろな事例が当てはめられると思います。学校や教育機関以外にも、「エセ教育」「エセ教え」というのは、この世にうじゃうじゃはびこっています。...詳しくは、現在読んでいる最中のこの本について書く時に譲りますがね。【送料無料】ポジティブ病の国、アメリカしっかりと自分の頭を働かせて、できる範囲で構わないので、物事の本質を明らかにしようと努力をしないといけませんね。批判的思考(クリティカルシンキング critical thinking)の訓練が役に立ちそうです。日本ではあまり強調されることのないスキルですよね。だって、日本で公教育受けてごくフツーの大人になる過程で、そんなこと教えてくれる人なんてだ~れもいないから。ヘタに「これはおかしくありませんか」なんて年長者に言おうものなら、「生意気だ、黙れ!」と怒られるのがオチだから。「口答えするな!」っていうのも、ありがちな反応ですよね。(←実家の親はこれだな...。)そんな姿勢で若い人、これから学ぼうとしている無垢な人に接していては、先が思いやられるというものです。猫大将が来ますよ、きっと。乱暴な猫大将が。 その時、まるで、嵐のやうに黄色なものが出て来て、フウをつかんで 地べたへたゝきつけ、ひげをヒクヒク動かしました。それは猫大将でした。 猫大将は、「ハッハッハ、先生もだめだし、生徒も悪い。先生はいつでも、 もっともらしいうそばかり云ってゐる。生徒は志がどうもけしつぶより小さい。 これではもうとても国家の前途が思ひやられる。」と云ひました。その後、フウねずみと母親に襲い掛かった運命は、推して知るべし...ですよね。...この項、続きます。今日はどうしてもこの流れにのって書いておきたいもので。
2012.01.06
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