7~ちょっとした葛藤の日々



これまでを読んでくださった方々はもう大体お分かりかと思うのですが、わたしは『一瞬、現実逃避』というのを、よくします。
事実が自分の中に染み通るまで、少しばかり時間がかかるのです。

大切な楽器をバスに置き忘れて帰宅した時も、明らかに軽いバッグの中に『ここに入っている筈だから』と念じて…寝る(そして次の日、やっぱり無いことを自覚して、探しまくる。最後は警察署に引き取りに行きました)。
やっと買ったメガネをジャージの後ポケットに入れたまま、寝ようとして『ガチャ』という音を聞き、『これは夢だから、明日になったら元通り♪』と信じて、寝る(レンズは五分割になっていました)。
次に引っ越した先のベランダに置いた洗濯機の後で、ハトがお亡くなりに…いえこれはまた別の話、にいたしましょう。

そういうわけで、母が言った何気ない一言も、わたしはとりあえず流してみました。
『そうかなー、気のせいやないとー』

『但し、猫は一匹まで』という条件に合わなくなるからです。

初めは本当に気のせいだったら良い、と思いました。
三畳の部屋に人間が一人、ネコがゴロゴロ…そんなのが果たして可能だろうか。
髪の毛一本でも落ちていると嫌がり、つれみの歩いた後をガムテープでペタペタやっている母が、複数のネコに耐えられるのだろうか。

しかし、母の疑問には応えなければならず、且つ、どう見てもつれみのお腹は良い感じで丸くなってきている…気のせいと誤魔化しているわけにもいかず、病院に連れて行きました。
久々にお会いした先生が、あの時と同じように優しく説明してくださりました。
『三匹、いますねぇ』

そうですか、三匹。
うれしい。
でも、親に言わなきゃと思うと、複雑だ。

黙っていてもしょうがないので、言いました。
親の応えは、予期していた通り『中絶せなね、無理やもん』。

うん…そうやね。

しかし、親は分かっていたかもしれません。
わたしが黙って言うことをきくような娘ではないと。
初めから『産ませる』以外の選択は考えていない、と分かっていて、とりあえず言ってみただけだったのかも。

初めに湧き上がった不安要素も、自分の中では勝手に解決させていました。
『ネコには環境に慣れさせる、母も環境に慣れさせる』…以上。
勿論、母にそんな宣言をするはずもなく、軽くお茶を濁しながら毎日が過ぎてゆきました。

つれみは順調に丸々と、穏やかに、ただ寝てるだけ(いいなーネコは)。
網戸の外をふと見ると、ナイスガイのトラ吉くんがそこに佇む。
なんといいますか…これぞ幸せ、という絵。

ただ一つだけ、不安要素はありました。
つれみは、以前の大怪我により骨盤をネジで留めているので、殆ど開きません。
だからあまり赤ちゃんが育っていると、自力での出産が出来ないのです。
そうすると、危険です。


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