これまで30を超えるアルバム(ジャズに分類されるアルバム)を出してきている彼の盤を、筆者はすべて聴いているわけでもないし、実際問題、彼の作品は気合を入れなければ聴けないものも多いような気はするのだけれども、今回は1980年代末の『ザ・マジェスティ・オブ・ザ・ブルース(The Majesty of the Blues)』を手がかりに、ウィントン・マルサリスの真価とは何なのかをちょっと考えてみたい。
まず、3曲でトータルおよそ60分間。とりわけ、組曲形式になっている3曲目は35分間という大作なので、聴くのに疲れる。さらに、ライナーを見ると、マルサリス自身の言葉も引用しながらの何とも教条的な解説がある。おまけに日本盤では“ウィントン「THE MAJESTY OF THE BLUES」を語る!”と題されたインタヴューまで収録されている。このインタヴューの内容もなかなかくどい。ブルースとは何か、世代間のギャップとは、今後の音楽がどうなっていくべきか、といった話題が理屈っぽく述べられている。たぶん一定数の聴き手はこの辺のくどさに辟易してしまうのかもしれない。
そんなことを考えるにつけ、「ジャズの死(Death of Jazz)」やら「説教(Sermon)」やらという表題や副題に惑わされてはいけない(後者は本当にセリフの“説教”なのだけど…)。小難しい解説も話半分にしておいていいのだろう。案外、ジャズという概念(マルサリスの定義とありがちな聴き手の定義がそもそも違うのだろうけれど)をいったん外し、あるいはニューオーリンズあるいはブルースという発想から聴いてみるというのもいいかもしれない。 “伝統”を踏まえつつ既成のものとはまったく違う境地を目指した、そんな盤として聴けば、従来の小難しさの印象とは違った角度から聴くことができるのかもしれない。
[収録曲]
1. The Majesty of the Blues (The Puheeman Strut)
3. The New Orleans Function a. The Death of Jazz b. Premature Autopsies (Sermon) c. On the Third Day (Happy Feet Blues)
[パーソネル、録音]
The Wynton Marsalis Sextet: Wynton Marsalis (tp) Marcus Roberts (p) Todd Williams (ts, ss) Wessell Anderson (as) Reginald Veal (b)
The New Orleans Function: Teddy Riley (tp) Wynton Marsalis (tp, plunger mute) Freddie Lonzo (tb) Michael White (cl)