ぼくの細道・つれづれ草

ぼくの細道・つれづれ草

2006.03.31
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Yeats in America

 (エピローグ)

   フランキーはここまで
   栄光の幕を開けることで
   マギーに力を尽くしてきた
   世界チャンピオンには
   不幸にもあと一歩届かなかったが
   それでも なかなかのものだった
   ここで舞台の幕引きをすれば
   栄光は伝説ともなり
   永劫消えることがないのかも知れない
  (失意と屈辱に塗れた日々を送るマギーも
   それを望んでいる)

   荒れ果てた心を抱えて
   フランキーは
   ローマン・カトリック・チャーチの告解室にいた
   「神父さん わたしは
    それをやるだろうと思う」

   深夜 病院に忍び込むフランキー
   口の利けないマギーと
   二人だけに通じる合図
   二つずつの瞬きを交わして
   暗黙のうちに了解する
   フランキーは黙って
   人工呼吸装置から酸素を逃がし
   マギーの舌の付け根に
   アドレナリンを皮下注射した

   「これはシンプルなラブストーリー
    父と娘のラブストーリーだ」

   映画「ミリオンダラー・ベイビー」の
   監督兼主役クリント・イーストウッドは
   言っているのだが・・・
   白人・ヒスパニック・黒人・アジア系・先住民族
   人種や民族の坩堝のなか
   巨大なサラダボウルを前にして
   レストラン<アメリカーナ>の
   レシピは? メニューは?
   怒りと
   諦念と
   誇りを内包して
   マギーたちの
   アメリカンドリームは
   志半ばでクラッシュした

   しかし
   フランキーにとって
   祖国アイルランドの栄誉と
   民族の魂を忘れることができようか

   傷心を胸に秘めて
   ジムをたたみロスを去ったフランキー
   ボストンバッグの底には
   いまも イェーツの詩集が
   ひっそりしまい込まれているに違いない
   それには こう書かれているだろう
   『冷厳な眼を生と死にあびせて
    羇旅の人よ ゆけ』
   『人間はあまたたび
    彼の二つの永遠の相
    即ち民族と魂の間に生き死ぬ
    そして古代アイルランド人は
    それを知悉していた』と 


 映画「ミリオンダラー・ベイビー」は
    F・X トゥールの短編集「Rope Burns]
   (日本語訳「テンカウント」早川書房刊)におさめられた
    同名の短編をベースにしている。トゥールは試合でリン
    グにあがったボクサーの応急処置にあたるカットマンを
    していた人物。その経験をいかして書きあげられた
    「Rope Burns」はボクシング人生の真髄を
    いきいきと捉えた作品集としてNYタイムズやLAタイ
    ムズのブック・オブ・ジ・イヤーにも選出されている。

評論家・作家・麗澤大学教授の
    松本健一氏は次のように言っている。
    『・・・老ボクシングトレーナーのフランキーは、い
    つもアイルランド詩人イェイツの詩集をよんでいる。
    イェイツにとって「アイルランド」は、自らの「魂の
    祖国」だった。・・・イーストウッドはアメリカの
    ナショナル・アイデンティティーとしての「愛蘭土」
    を映画にうたいこんだのである。
    ・・・アイルランド人は、アメリカを「理想の国」に
    作ってゆこうとした。(そこに、アイルランド移民の
    子のケネディ大統領がいつまでもアメリカの星である
    ゆえんがある)。
     その意味で、『ミリオンダラー・ベイビー』はアメ
    リカの核心に「アイルランド」を据えた『風とともに
    去りぬ』の後の物語なのである。・・・』

         (05・6・22 産経新聞より)











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Last updated  2006.03.31 15:35:31
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