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ロボク・リンボク・フウインボク 大地の褶曲に
原始の植物生い茂り 海にアンモナイト 湖沼
に恐竜が跋扈する そんな季節の何万世紀を
潜り抜け いま僕の眼前に一個のアンモナイト
化石がある 硬い無機質の光沢は冷たく 太古
の海の神秘を湛え そいつが突然に僕に向か
って怨嗟の一言を吐きかけた
< おまえ 人間よ 俺さまの海をもとどおりに
して返してくれ >
何と応えたらいいのだろう 僕はきっと仮想の
世界に迷いこんだのだ これには深い寓意が
ある とつおいつ僕は考えていた
そのころ 列島を紅に染めた あの桜前線は
とっくに北上していた 愛でるべき花はすでに
なく 慈しみ深い花守はもういなかった 酷暑
の夏を前にして 人は「美学」はいうに及ばず
「哲学」や「理念」をもすっかり喪失していたと
もいうが あるいはこの国には 「美学」を語
ろうにも また「哲学」や「理念」を語ろうにも
すでに範とする一冊のテキストすら 見つから
なかったのやも知れぬ 人は己の内なる狂気
を 外なる狂気に仮託して 能事足れりと信じ
ていたのだが 一切合財をただ紅の色に呑み
込んで 桜前線はひたすらに北上をつづけて
列島は間違いもなく 断罪のような炎天の夏
を迎えようとしていた
季節が過ぎ 例外もなく空白もない時空の極限
から しらじらとした蛍光を放ち 触手を戦かし
アンモナイトの大群が この世に甦ったとしたら
そんな季節には 人はもはや生存していないの
だろう 輪廻転生は 演算不能の周期でやって
くる 仮想のレアリテの中を 人の季節の閉塞
を突き破って