ぼくの細道・つれづれ草

ぼくの細道・つれづれ草

2009.10.15
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   この家の飼い猫トラがたいがい待っている。
   トラはあたしに気があるのか、
   「これ残しといたからお食べ」なんて言って
   餌の食べ残しを勧めたりする。
   それは、サンマの頭であったり
   かつお節をまぶした残飯であったりするのだが
   あたしはトラの親切心に感謝の意を表しこそすれ
   決して口にはしないことにしている。

   食中毒に罹ったり、寄生虫にやられたりすると大変ですからね」
   と、つねづね先生の奥さんに注意されているから。

   「パトラちゃんはどうしてパトラなの?」
   トラは、身欠きにしんの尻尾をもぐもぐ食べながら
   あたしに質問する。
   あたしは、あたしの名前の由来を簡単に説明してあげたのだけど
   果たしてトラに理解できたかどうか大いに疑問である。

   「ところでトラさんはどうしてトラなの?」
   あたしは、ずっと気になっていたことを
   この際きいておくことにした。
   あたしの名前に深遠な命名の由来があるように

   特別面白い訳があるに違いないと思ったのだった。
   「ぼくは寅年生まれなのさ。
    それに毛の色も黒くもなし白くもなし
    三毛でもないし、ヨモギでもない虎色なのさ。  
    虎はライオンに次ぐ百獣の副王ぐらいだから偉いんだよ」


   あたしは別の意味で納得した。
   あたしは、本当の虎は黒と黄色の縞模様だったはずだが
   赤茶色の毛色のトラさんはきっと
   本当の虎を見たことがないのだわと思った。
   かくいうあたしも、勿論本当の虎は見たことないけど
   先生の娘さんの図鑑で確認したことがあるんだから・・・
   でもあたしは、自分の知識をひけらかして
   トラさんの自尊心を敢えて傷つけることもなかろうと
   ここは黙っておくことにした。

   それに、ここの家の主人は、店の名前を
   「臥竜洞」とつけたくらいだから
   竜と対の虎を飼い猫の名前にして
   竜虎一対の名画でも見る気持ちで悦に入っている
   にちがいないと、あたしは信じるのだが
   これも黙っておくことにした。
   だって、そんなことをトラさんの理解できるように
   噛み砕いて説明するのも何となく厄介だし
   トラさんに、あまり勇ましそうにいい格好されるのも癪だから。

   トラさんは、ときどきあたしにとっては
   意味不明の猫語を口走る。
   先日も、一緒に本多の森周辺で遊んでいたときのことだ。
   ここは、ウラジロ樫や椎の木、タブの木やらが茂っていて
   戦争中の陸軍の旅団司令部の古い建物が残っていたり
   さらに、奥の方には陸軍の「偕行社」の洋風でレトロな建物もある。
   「偕行社」というのは、将校だけが出入りを許された
   社交クラブだったらしい。
   軍人さんも、隅に置けずけっこうハイカラだった訳かしら。

   それはともかく、
   ここら辺は、かくれんぼにはもってこいの場所なのだ
   あたしとトラさんが、かくれんぼをしていたときのことだ。
   目の前に突然大きな秋田犬がとびだしてきた。
   秋田犬は散歩中だったらしくて
   飼い主がリード引っ張っていてくれたので
   事なきをえたが
   あのうなり声はかなり強烈だった。
   あたしもトラさんも
   一目散に本多の森から逃げ出した。
   そのとき、トラさんが言ったのだ
   「びっくり したやの こうとくじ
    くわばら くわばら ああこわかった」だって。
   そもそも、トラさんは江戸っ子猫らしい、
   臥竜洞の主人が東京の取引先の美術商から
   まだ子猫のときにもらってきたものらしい。
   だから、江戸っ子のDNAが少し混じっているらしいのだ。
   それにしても、江戸っ子のおまじないは分からない。
   あたしにはまったく理解不能だわ。   








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Last updated  2009.10.15 15:02:08
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