ぼくの細道・つれづれ草

ぼくの細道・つれづれ草

2011.01.08
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  よく
  明け方
  すたすたと
  南西の方に
  歩いて行かっしゃった

  ほかでもない
  八十吉っつぁんの
  窯出しの日なのだ

  ご住職も八十吉っつぁんも
  先先代の話じゃがな

  「これちょっとおもろいなあ」
  「うん
   できそこないじゃが
   よかったらもっていかっしゃい」
  たいがい
  こんなやりとりがあったことだろうて

  窯出しのたんびに
  ご住職は
  徳利や猪口の一つ二つを

  ふところにしのばせて
  いそいそと
  帰らはったもんじゃそうな
  箱書きもないそんな逸物が
  いまでも東町のお寺さんには


  その一つが
  まわりまわって
  ここにある
  ほれ
  この徳利
  お隣の呑ん平が
  遊びに来ては
  譲ってほしいと言ってきかない
  譲るといっても
  早い話
  ただで呉れろということ

  瓢型の胴の中程が
  ほどよくくびれていて
  うっすらと
  灰緑色の釉薬がかかった下から
  朱色の梅鉢紋が浮き出ている
  見たとおり
  派手さはないが地味でもない

  「酒を注いだとき
   とくとくとくと
   小気味のいい音をたてる
   これが何ともたまらんなあ」と
  呑ん平はのたまうのだが
  いまのところ譲る気はない
  わしにとっても一期一会
  まして
  呑ん平ちゅうもんは
  えてしてそそっかしい
  万一落としでもして
  毀してしもうたら
  せっかくの徳利に
  申し訳けがないからな  





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Last updated  2011.01.08 14:24:53
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