アオイネイロ

May 5, 2009
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カテゴリ: 小説
久々すぎる続きww


「アスカ?」
そっと声をかけると、規則正しい呼吸音が聞こえてきた。
「寝たのか?」
すやすやと寝息をたてているアスカの顔を覗き込んで、少年はそっとアスカから体を離した。
そして、そっとアスカの部屋へと向かう。
木の色と、白が主の簡素な部屋だった。
アスカの机の引き出しを開ける。後で怒られても、追い出されてもいいと思った。
ただ、アスカの事を知りたかった。

『アスカ・フェルンストレーム 様』
厳しい字で、そう書いてあるのが目に入る。
字を目で追えば、アスカの過去が段々と分かってくる。
その血を実験に使いたいという事。アスカの命を助ける代わりに、子供を生んだ場合は無条件で差し出す事。そして、アスカがそれを承諾した事。
そして、その封筒に一緒に入っていた紙切れには、全く違う字で
『悪いが、子供を頼むな。一緒にいてやれなくてゴメン。
名前はまだ決めて無いから、お前がつけてやってくれ』
雑で、焦ったような走り書き。
何があったのか、それだけで何となく理解できた。
けれど、それなら
アスカの子供は……?

後ろから、静かな声がかけられて背筋が凍った。

「あ……すまない。あの……」
「あはは。別にいいよ~?」

しどろもどろになる少年に、アスカが寂しそうに笑う。
「私の事、何も話してなかったもんね。

そう説明しながら、アスカはベッドに腰掛ける。
「けれどね。私が生んだ子供はとても不完全だった。クオーターだから血は薄いはずなのに、私の血の使い魔の方を強く受け継いじゃったんだろうね。最初、手の平に乗る大きさだったんだよ」
そう言ってアスカは片手を広げてみせた。

「手の平?」
「うん。ちっちゃすぎて、まるで親指姫。それでも軍には絶好の獲物。私はその子を連れて逃げてたんだけど、でも駄目だった。私はその子に私の持っていた魔力を全て注いで、その子を……捨てたの」

聞き返す少年に、アスカは「あははっ」と笑ってそう説明する。

「膨大な魔力のおかげで数年は何も食べなくても生きていけると思う。けど、成長できなかったら、もしも軍に見つかってたら、あの子の命はもう無いだろうね。けれど私と一緒にいるよりは安全だから」
「その子は、アスカの顔は……?」

少年の問いかけに、アスカはゆるゆると首を横に振った。
「不思議な水の膜に守られて、静かに眠ってた。起きるのかもわから無いけど、確かに鼓動は動いていたから」
床を見つめたままで、アスカはそう言う。

「俺が、探す。その子を探して、アスカの元へ……」
「無理だよ。もう5年経った。それに、あの子は私を憎んでいるかもしれない」

少年の言葉に、アスカはその頭を撫でながら微笑む。
「それでも、会いたいと、そう思うのだろうっ!? 俺は、家族なんて理解(わか)ら無いが……それでもアスカに……アスカに抱きしめられて幸せだった!」
一生懸命にそう言った少年に、アスカは一瞬きょとんとした後にクスリと笑った。
「ありがと。私も少年に会えて幸せ。だから、もう少しだけここに居てね」
少年を抱きしめて、アスカがそう言う。

こんなにも近くに居るのに、届かない自分の短い手が
歯がゆくて悔しくて、少年は唇を噛んだ。





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Last updated  May 5, 2009 09:35:18 PM
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