アオイネイロ

May 21, 2011
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カテゴリ: 小説
一日一小説第一弾!
オチなんて無いです。


「あ、紅亜。ご主人達が探してたよ?」
前からぱたぱたと駆けてきた天音が、そう言って笑う。
「アタシを? 何かあったワケ?」
そう問いかけるが、天音はにやにや笑うだけで何も言わない。
「あとはもう紅亜だけなんだって」
「………何が? ていうか、イヤな予感しかしないんだケド」
嫌な笑みを浮かべている天音に、紅亜は眉を寄せて返す。

「困ってる?」
天音の言葉をそのまま返す。
目の前の天音は少し悪戯っぽく(楽しそうに)笑っているわけであって、主人達が困ってることなど気にもしていないようにしか見えない。
それでも困っていると聞けば、行かない訳にはいかなくなってしまう。
何があるのか分からないまま、天音は取りあえず自らの主人の住む部屋へと戻った。


部屋に辿り着いてドアを開けた瞬間、騒々しい声が耳に触れる。
「だーかーらっ! 何で最初っからそれを言わないの!!」
「い、いやぁ……私も、さ、この前知ったってゆーか……?」
怒鳴る、沙ゞの声。と、いつもより元気の無い時歌の声。
「あ、紅亜ぁっ! 紅亜来たよぉ~!」
苺夢がぱっとこっちを向いて、ほっとしたようにそう言う。

葵が大声でそう叫んで向かってくる。
「な、何……? そんな大声で言わなくても聞えるんだケド」
若干引き気味に応える紅亜。
「オマエ、楽器得意だったよな?」
がしぃっと紅亜の肩を掴んで聞いてくる葵。目が坐っている。

「紅亜、これ何だか分かる?」
藾琉がそう言って指差した先には、美しい装飾が施された琴に似た楽器。
琴とは違い四角形の形をしており、台の上に乗せられている。

「………ああ、揚琴だね」
「おお! 流石紅亜しゃんですな。演奏できやすかぃ?」

紅亜の言葉に、一同何故か安堵の息を吐く。
るかの問いかけに、紅亜はとりあえず頷く。
「よっしゃ、紅亜で決まりだな!」
「あの、さぁ……勝手に決めないで欲しいんだケド?」
葵の言葉に、もはや置いてけぼりの紅亜が声をかける。

「今日の夕方、演奏会でこの曲を弾いて欲しいんだよ」
沙ゞがそう言って楽譜を差し出して来る。
「ん? それぐらいなら、別にいいケド?」

楽譜に一通り目を通して頷く。
「聞いてた? 今日の夕方だからね?」
藾琉が念を押すように言う。練習時間なんて無いに等しい。今は既に3時を回っている。
「時間は?」
「日の入りくらいだからぁ、6時かなぁ~?」
苺夢の言葉を聞きながら、紅亜は床に転がっていた棒を手に取った。
軽く叩けば、美しい音色が部屋に広がる。
楽譜を床に伏せ、目を閉じて一呼吸おいてから、紅亜は手を動かし出した。
紡ぎだされた音達が重なり合ってメロディを奏でる。
「おお………」
「すっご……」
思わず感嘆の声を上げる皆。
「で、何で突然?」
演奏し終わって問いかけてみる。
「異国の文化に触れようっていうヤツで、くじ引きの結果これが出たんだよ。その楽器について調べれば良かったはずなんだけど、急遽予定が変更されたらしくて、演奏者を探さなきゃいけなくなったんだ」
そう説明しながら、葵がひとつの紙袋を紅亜に差し出してきた。
「コレは?」
「衣装。私と沙ゞで作ったやつだよ」
あっさりと応える藾琉。
「着ろと……。随分派手なもの作ったね」
広げて見ながら、紅亜がそう感想を述べた。
赤の生地に金の刺繍が入ったもので、薄いヴェールがそれを被ってうっすらと輝いている。

「派手? でもチカの言葉を使ってる国の人達ってこんな感じのもの着てない?」
「緋色は王家の色で、庶民が身につけることは許されないんだよ。普通揚琴を奏でるのは王家では無いからねぇ。どっちかって言うと聞く方だったし」

そう言って肩を竦めて見せながらも、紅亜は大小(長細?)わかれた帯が3枚もあるそれを魔法のような手際で着用した。

「すごい、本当に着れるんだ」
「作っといて?」
「いや、作り方見ただけだし……」

言いながら、藾琉と沙ゞが紅亜の周りをまわって衣装の確認をする。
「うん、うん」
「よし」

「じゃ、さっさと行こうぜ!」
「だね、急がないと山ちゃんにどやされるし」

言うが早いが、揚琴をもって玄関へと向かう皆。
「………御主人達はいつもいつも忙しそうだねぇ。退屈とは程遠い生き方で羨ましいよ」
呆れ半分そう呟きながらも、紅亜も葵達を追うようにゆったりと玄関へ向かった。





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Last updated  May 22, 2011 01:06:10 AM
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