アオイネイロ

September 19, 2011
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カテゴリ: 小説
「おい、昨日の新聞見たか?」
「見た見たっ。『吸血鬼到来!』……でしょ?」
ざわざわとした教室の中飛び交う会話は、昨日今朝のニュースで持ちきりだった。
「吸血鬼、ねぇ……」
そんなクラスメイトを横目に、藾琉が小さく呟く。
「本当に居るのかなぁ~?」
「さあて。でも居たら凄い発見だね、生き残りが居る事になるんだから」
苺夢の不安気な声に、沙ゞがそう返す。

「生き残り?」


きょとんとする時歌に、葵が呆れたように説明する。

「吸血鬼は食事の為に他人の血を根こそぎ奪って殺す生き物。『教会』も手を焼いたって噂されてやすな」

るかが時歌の机の上に広がったお菓子を食べながら言う。
「うーん、今回殺された人の血が全部奪われてたってこと?」
「おまっ……ニュースぐらい見ろよ。それで吸血鬼到来って噂になってんだろ」
葵の突っ込みに、時歌がにゃははと笑った。
「近々この学園にも現れるかもねー」
「ちょ、ちょっと藾琉さ~ん。怖い事言わないでよぉ」
藾琉の言葉に、苺夢がそう言って眉尻を下げる。
「ま、でも。学園には『ウィザード(十二の魔法師)』も居るんだから大丈夫でしょ」
沙ゞがのほほんとそう言った時、丁度教室のドアが開いて担任の先生こと山ちゃんが入って来た。

「誰?」
「さあ、転校生?」
「ちっちゃすぎね?」
クラスメイト達が、今度はその少年に対してざわざわと反応し出す。

「昨日今日のニュースは皆見ていると思う。くれぐれも気を付けるように! それと学園内には普段の結界とは別にワシが直々にもう一つ障壁を設けた。騒動もある故しばらくは外出禁止になる。以上!」


「………え、誰?」
ぽかんとする皆の前で、山ちゃんが大きく咳払いをひとつして
「えー、今校長先生から直々に指示があったように、これから暫く外出禁止になるから覚えて置くように!」
そう言ってみせた。
「校長って、あの校長?」
皆の頭に浮かぶのは、薄くなった髪と低い身長と大きなメガネをかけたどっからどう見ても冴えないオッサンの姿である。
「今の、校長?」
足首まである長く柔らかそうな栗毛の髪を下の方で緩く縛った水干姿の、10歳前後の愛らしい少年では決してない。
「ああ、本来の姿で来られたのは時間が無かった所為だ。気にするな」
山ちゃんも何と言って良いか分からない顔をして、ただそれだけ言った。
「何で、何でいつも本来の姿で居ないの!?」
先生方の中には本来の姿とは違った姿で過ごす人も居るが、皆若く美しい姿を取る。
なのに本来の姿は可愛らしい男の子なのに、仮の姿は冴えないオッサンの校長。
意味の分からない言動に、クラス内は暫し茫然としていた。






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Last updated  September 19, 2011 11:21:27 PM
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