アオイネイロ

February 26, 2013
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カテゴリ: 小説
一日に平均すると12人程の人間が、交通事故で亡くなるらしい。
そう。彼もそうして死んでいった。
スピード違反の車が、パトカーに追いかけられて逃走。
その末信号無視をして横断歩道に突っ込み、その事故で三人が怪我を負い、一人が死亡した。
その一人が彼だった。たまたま横断歩道を渡っていた児女をかばい、死亡。


はあっと吐き出したため息は、夜の空に白くけぶって消えてゆく。
なくなってしまった。
彼が死んだ痕跡は跡片も無く片付けられて、彼が通っていた教室の机も、最初は花が飾られてあったのに何時の間にかなくなっていて
なんにもなくなってしまった。


「なあ………、俺は」

どうしたらいい?

震える声がそう吐き出した時
ざわりと風が不自然に舞い上がった。
目の前にあるのは桜の花びら。
今は冬で、この近くに桜の木なんて無くて

ああ、でも彼が好きだった花だ。
なんて思った。

「そこに、いるのか?」

ふわりふわり舞う不自然な花びらは、しかし決して応えてはくれない。
「ッ、いるんだろ!? そこに!!」

必死に足を動かして、桜を追う。

花びらは、俺が追いつけるようにゆらゆらと揺れながら
けれど止まることは許さないスピードで進んでいく。
建物の中に入っても、桜の花びらはありもしない風にひらひらと舞っていた。

階段をのぼって、のぼって、のぼって


彼と最後に語らった、彼のお気に入りの場所。

天気の良い日は日向ぼっこをして、俺はいっつもここで学校をさぼっていた。
そして授業を終えた彼がきて、俺を見つけて呆れたように笑うんだ。

屋上のふちに、桜がふわふわと浮いていた。
ゆっくりとそちらに向かう。
「なんだよ。数か月も経ってから現れやがって、何を伝えたいんだ?」

なあ、

言いながら伸ばした手が桜の花びらに触れる。
瞬間ひと際強い風が俺の背を押した。

古ぼけたフェンスが、俺の重みに耐えきれずに嫌な音をたてて外れる。

あとはもう、どうしようもない。
落ちていく俺の周りを、桜の花びらがひらりひらりと舞う。

「なんだよ。寂しかったんだな。……ったく、素直じゃねーの」

俺は笑って、指先だけを伸ばして花びらに触れた。
彼のひんやりと冷たい肌を、思い出すようだった。



昨晩未明、男子高校生一名が立ち入り禁止のビルへ侵入し、屋上から落ちて死亡するという事件が発生しました。
警察は、自殺によるものであると考えて捜査を進めている模様。
男子高校生は、三ヶ月前トラックの暴走事故で死亡した少年と同じ高校に通っており、仲も良かったと………

ブツッ


………………………………………………………………


心配すんなよ。お前の元に行くくらい、お安い御用だ。
俺だって、寂しかったよ。






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Last updated  February 26, 2013 09:34:59 PM
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