アオイネイロ

April 12, 2013
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カテゴリ: 空狐-karagitune-
じわりと額に汗が滲んで、普段からこんなに歩いたことのない私の息が切れてきた頃、ようやく新しい街についた。
勿論テンもソラも、体力の無い私を気遣ってゆっくりと進んでくれたのだろう。それでも私は初めての慣れない旅にへとへとだった。
『まずは宿だな』
そんな私の状態を慮ってか、テンがそう言う。
「そうだねー。ご飯食べれる宿がいいなぁ」
『アホか。いいか、いつも通り一番安い宿をそこらの奴に聞け。最低二人以上には聞けよ』
ソラの言葉に、テンが強い口調でそう言いながら、ソラの真後ろに立った。
『おい楓。このアホ頼むぞ』
振り返ったテンがそんな風に言ってきたのに対し、私は思わず首を傾げた。


『俺の体躯見てみろ。人里なんか行ったら大騒ぎになるだろ』

私の言葉にテンは不機嫌そうにそう返すと、尻尾を一振りしてするりと、
ソラの影の中に溶けて消えていった。
「っ!?」
「あはは。テンも“虚人”だからね、人じゃあないけど。僕等と同じ、妖の力を持つ存在さ」
驚いて目を白黒させる私に、ソラは楽しそうに笑ってそう説明する。
「ひ、人じゃない“虚人”もいるのね。だから、喋れるの?」
「そうだよ。それにテンはとびきり強いからね。僕は大体テンのお世話になっているんだ」
テンが聞いたら目を向いて「俺はテメェの世話係じゃねぇっ!」と怒鳴りそうなセリフを、ソラはさらりと口にした。
「さ、そろそろ行こうか。かえで」
「うんっ」

「じゃあ、まずは宿だね」
隣で言ったソラの言葉さえ、殆ど聞えていない程。
私は新しい世界に、焦がれていたのだろう。






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Last updated  June 13, 2013 11:04:19 PM
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