アオイネイロ

October 2, 2013
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カテゴリ: 小説
「ああ、ああ。分かった」
彼は突如として、私の言葉を遮りそう言った。
「つまり君は、そういうことだろう? 百聞は一見にしかずとは言うけれど、千聞、万聞は時として一見を超えることすらあると、そういうことだろう?」
彼は言った。そう、言った。

果たして私は、否、私達は今の今まで何の話をしていただろうか。
そんな百聞は一見にしかずなんて言葉が、今までの会話で出てきただろうか。

と、私は首を捻った。
けれども、まあ。彼の話が突然変わるのはいつもの事だった。
だから私は曖昧に頷いた。




彼は続ける。話を続ける。
流暢に、朗々と、明確に、淡々と、
「つまりそれは知識ということだろう? 知識が、文字として、言葉として、音として紡がれて受け継がれていくことで、それは不安定で曖昧な視覚情報よりよっぽど確かになるということだろう?
脈々と受け継がれていく文章は、言葉は、明確に知識として保存されるだろう? けれど視覚は、色も形も、その光や見え方さえも、ほんのちょっとのきっかけで変わってしまうだろう? 曖昧で不鮮明で、適当で薄弱。所詮は根無し、のようなものなのだろう?」
彼はそう続ける。
何度も何度も尋ねるように聞く割に、私の答えなんてとんと求めていないように、すらすらと話を続けていくのだ。
話し続ける、のだ。

「僕としてはそれもその通りだと思うけれども、それでもやはり一見は一見なんだと思うのだけれどもね。百聞では及ばない。一見の大切さなのだろう。だから人は、見たがるのさ、聞きたがるのさ、そしてそして……話したがるのさ」

話したがりの彼が、そう言う。

「見ることは大切だよ。そう、曖昧で不鮮明で適当で薄弱な視覚でも、それでさえも百聞には勝るのだからね」

つらつらと言うのだ。私のことなどおいて、おいて。

だから……

と、彼は続けた。

「君が今から見るだろう世界も、それはそれは、素晴らしいものなのだろう?」

彼は言った。鬱蒼と笑って、そう言いきった。

海に沈む私に、沈みゆく私に







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Last updated  October 3, 2013 12:32:48 AM
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