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ビストロフの橋
第四章「ホグワーツ特急」
次の朝、ウィルは五時に起き出した。『漏れ鍋』で最後の仕込を手伝うつもりだった。
初めてここに来たときに着ていたマグルの服に着替えて、ウィルが下に降りていくと、トムがにこやかに立っていた。腕にはなにか大きな包みを抱えている。
「弁当をつくっといたよ」一抱えもある荷物を差し出して、トムは欠けた歯を覗かせて微笑んだ。
「この店の自慢の品を見せてあげよう」ウィルがなにか言おうと口を開きかけたのを遮るようにトムは言葉を続けた。トムは今まで一度も見せなかった杖を前掛けのポケットから取り出し、店の奥の壁に向けてなにか呟きながら振った。
薄汚れていただけの壁か真っ白になり、次には次々に文字が浮かび上がっては消えていった。まるで、本を手に取り、ページをパラパラとさせているかのように。
「この店に来た何人もの魔法使いや魔女たちの落書きですよ。消したりせずに上に直接新しい壁紙を貼ってあります。杖を一振りすれば、何年も前の落書きが姿を現す。・・・そろそろ、止まりますよ」
ページ捲りが次第にゆっくりになってきていた。見る間に速度が落ちて、やがて止まった。壁一面に大きなサインと、なにか文が書き込まれている。
【Merlin】
「マーリン〓」ウィルは思わず叫んだ。イギリス国内において彼の名は魔法なんて信じない人々にさえ、知られている。伝説の人なのだ。
魔術師マーリンー魔法使いにして予言者、あの円卓の騎士で有名なアーサー王の助言者。 母は高潔な王女、父は『夢魔』と呼ばれる妖怪だったと言われ。母の善良さと父の魔力を受け継ぎ、子供の頃から人知を超えた能力をあらわしたと言う。
最も有名な物語は、五世紀にウォーティーゲルンなるブリテン王が骨折って築いた塔が倒れたことから始まる。工人たちがどんなにがむしゃらに仕事をしても、その日の分の仕事は一夜明ければ崩れてしまった。絶望したウォーティーゲルン王がお抱え魔術師に相談すると、人ならぬ父を持つ子供の血をモルタルに混ぜれば塔を補強できると教えられる。そういう子供を探し出せという王命によりつかわされた使者はマーリンを見つけて連れ帰った。わずか七歳だったマーリンは事情を知ると、塔がぐらつく原因は地下の池の上だからだと解き明かし、さらに、池の水を全部抜けば、そこに中空の岩が二つあり、そこで二匹の竜が眠っているだろうと予言してみせた。調べてみるとすべてその通りだったので、王は命を助けてやったと言う。
その後三代に渡って王に仕え、アーサー王の時代には魔法の数々をもって戦いに勝利し、大王の治世を揺るぎないものにしたことで知られる。特に『王様の剣』のエクスカリバーとアーサー王の逸話は万人の知るところだろう。
「この漏れ鍋は、その当時からあったのです。使者に連れられ王の元へ行く道すがら、かの魔術師はこの店で食事をし、なにか予言を得たのでしょう。まだ建ったばかりだった新築の壁に落書きをしたのです。店の初代はマグルでしたが快く落書きを認めたとか。・・・『この店に心地よい歓迎で迎えられ、笑顔をもって送られるものには偉大な業績と大いなる喜びが与えられる』。この店はやがて魔法族のひいきの店となり、店主は魔女を嫁とし、代々この店を守り続けてきました。実際、この店でお世話した人々には偉大な人が大勢いるのです」
いつになく饒舌なトムが嬉しげに杖を振る。
再び落書きが現れては消えていき不意に止まった。四つサインが書かれていた。ゴドリック・グリフィンドール。サラザール・スリザリン。ヘルガ・ハッフルパフ。ロウェナ・レイブンクロー。
次にはニコラス・フラメル。なにか多面体の図が添えられている。
他にもマーヴェル。ルイ・ハーモン。アルベリッヒ。・・・アルマス・ダンブルドア。
「でも、だからってなんで僕が・・・」まだホグワーツに行ってもいないのに・・・。
「ジンクス・・・マグルはそういいますね? 偉大になった人たちはみな、この『漏れ鍋』に二十日間以上続けて滞在なさいました。ウィル、あなたは一月以上滞在した。それで十分なのです、いつかあなたは偉大になるでしょう。もしかしたら、あのハリー・ポッターと良いライバルになるやも・・・そうなった暁には、ここにいらしてサインをいただきたいのです。わたくしの代になってから、サインする偉大な魔法使いが減ったことをとても悲しく思っていたところなので」
キングクロス駅には十時前に着いていた。発車は十一時だから早すぎるような感じだが、ウィルにはちゃんと思惑があった。
『ホグワーツに来る前に知っておくべきこと』に書いてあったことを思い出す、魔法族にも見えない魔法がかかっているがそこまでいけば通り抜けられられる。ただし、通り抜けるときにはマグルに気付かれないように注意すること。
もうじき電車が入ってくる。そして降りた乗客たちがホームから改札へと向かう列が壁になるのを見計らって、滑り込むのがベストだろう。
通り抜けられないのでは? という疑惑は感じていなかった。ダイアゴン横町で魔法は経験済みだ。必ず通り抜けられる。
カートに『七つ鍵のトランク』とトムじいさんの弁当を乗せ、タイミングを待つ。電車がホームに入ってくる音がして、旅行者の群れがワンサカとあふれてきた。いまだ。
9番線と10番線からの客が交差する中、その中間の柵に向かって真っ直ぐ歩く。壁に接触した途端、カートが消えた。次に腕が消えて、壁が目の前に現れる。思わず目を閉じた。どれだけ歩けば出られるんだろう? そう思いはじめたところで突然無数の人声が聞こえてきた。なんというか、気圧変化で耳がおかしくなっていたのが急に治ったような感じだ。ウィルは目を開けた。
紅色の蒸気機関車が、乗客でごった返すプラットホームに停車していた。ホームの上には『ホグワーツ特急11時発』と書いてある。振り返ると、改札口のあったところに9〓と書いた鉄のアーチが見えた。
汽車があるのとは反対側に、発券所があった。入学許可証を手に、歩いていくと年寄りのしわくちゃな駅員が愛想よく微笑んで切符をくれた。
切符を手にして、ようやくウィルは落ち着いて構内に目を向けた。
機関車の煙がおしゃべりな人混みの上に漂い、色とりどりの猫が足下を縫うように歩いている。おしゃべりの声と、重いトランクの擦れ合う音をくぐって、ふくろうがホーホーと不機嫌そうに鳴き交わしている。
先頭の二、三両はもう生徒でいっぱいだった。窓から身を乗り出して家族と話したり、席の取り合いでケンかをしたりしていた。ウィルは空いた席を探して、カートを押しながらホームを歩いた。
まだ時間があるからだろうか、発券所の前の人混みを越えてしまうと、思ったほど混み合ってはいない。前方から少し打ちのめされた感じの一家がやってきてすれ違ったぐらいだ。老夫婦とその息子夫婦だ、おじいさんと息子は同じダークブラウンの髪をしていた。
四両目を過ぎたあたりからコンパートメントにも空きが見えるようになってきた。
「あー・・・もう!」五両目ほどまで来たとき、ダークブラウンの髪の女の子が一人、イライラした様子で自分より大きなトランクを蹴っているのに出くわした。
蹴った足ではないほうの足をさすっている。車内にトランクを入れようとしてうまくいかず、足に落としていたのだろう。
「手伝おうか?」ウィルは杖を取り出した。答えを聞くこともなく、魔法を掛ける。オリバンダー翁に聞いた軽量化の魔法だ。
取っ手をつかみ、片手で持ち上げて車内にいれてやったー珍しいことに一発で成功したのだー女の子は、目を皿のようにしてみていたが、何かを思い出したように息を呑みウィルの顔と杖を見比べている。
「もしかして・・・『オリバンダーの店』にいなかった? わたしに杖を選んでくれたわよね」
それで思い出した。この子はウィルの前に杖を買った子だ。店中の箱をひっくり返して杖をばらまいた。
「一角獣のたてがみ、柊の木、十八センチ。だったよね」
「そうそう、ごめんね。あのままでいなくなっちゃって、箱とか杖とかバラバラにしてしまって。大丈夫だった?」
「平気だよ。それどころか君のおかげで、面白いことになったんだから」
「面白いこと?」怪訝そうに聞き返してきたのに答えようとしたウィルだったが、答えることはできなかった。
「話すんなら、中に入ったら? 他の人の迷惑よ」後ろから来た女の子が冷たく言い放ったのだ。
汽車の乗車口で話し込むのは、確かに常識外れだったかも知れない。ウィルたち三人は、同じコンパートメントに一緒に入った。一番近かったし、何より誰もいなかったから。
「僕、ウィリアム・ゴールドマン。ウィルでいいよ」
女の子に名前を聞くときは、まず自分から名乗るのがエチケット・・・。『紳士のためのエチケット集』より抜粋。重い本を続けて読んだ後に目安めのつもりで読んだ薄っべラな本でも、役に立つときはあるようだ。
「わたし、ルビーよ。ルビー・ジャンクソン。よろしくね」『オリバンダー翁の店』で会ったダークブラウンの髪にヘイゼルの瞳の女の子。
「・・・キャロル・ベランジャー・グラフトン」後から来た子、薄く煎れた紅茶色の髪にアイス・ブルーの瞳がすごく奇麗に映えている。
汽車が滑り出した。安物の手巻き式時計をチラッと見ると十時四十二分だった。・・・さすがは安物、遅れていたらしい。時間に余裕を持っていなかったら乗り遅れていたかも。
「えっと・・・何の話してたんだっけ?」汽車がガタゴトと動き出した後、しばし流れた沈黙を破るようにルビーが言葉を紡ぎ出した。
「・・・ウィルが、『面白いことになった』って言ったとこでわたしが声を掛けたのよ」なんとなく、表情が動かないし、冷たい感じの声と口調だけど、何故か嫌な感じがしない。
「ああ! そうそう、何が面白いことになったの?」
ウィルはあの後のことを話して聞かせた。
オリバンダー翁に杖の造り方を習い始めたことを。
「ええっ〓 じゃあ、ウィルは杖職人になるの?」
「わからない。・・・でも、ホグワーツを卒業するときに記念に自分の杖を自分で作れたらかっこいいな、と思って」
ウィルは、漠然と心の中にあったことを口にした。
「じゃあ、じゃあ、その時にはわたしとキャロルにも作ってね」
「わたし? にも?」自分の名まで上がるとは思っていなかったのだろう、キャロルが意外さに驚いたように目を丸くしている。会ってから十数分にして、初めて表情が動くのを見た。
「そうだよ、キャロルももう私たちの友達だもん」ルビーが性格そのままの屈託のない笑顔を目一杯輝かせて、微笑んだ。
「期待しないでくれよ。途中で挫折するかも知れないんだし、ろくなの作れないかも」
話しているうちに汽車はロンドンを後にして、スピードを上げ、牛や羊のいる牧場のそばを走り抜けていった。ウィルはこんな目立つ汽車が一度も人目に付かなかったのを不思議に思った。ロンドンからまともに発車して走っている。窓の外を見るまで、ほとんどが地下鉄なのだろうと考えていたのだ。
だけど、すぐに考えるのをやめた。何しろ今ウィルがいるのは奇妙なことが起きて当たり前の魔法世界なのだから。
魔法世界、ウィルは自分がまだマグルの服を着ていることに気がついた。もう、ローブに着替えてもいいだろう。ここ一月、ずっとローブを着ていたので今ではローブを来ているほうが落ち着くのだ。
ウィルが着替え始めると、ルビーとキャロルも着替えだした。ウィルが隅っこで隠れるように着替えてるのとは対照的に、女の子二人は平然と着替えている。ルビーは性格的に【隠す、隠さなくてはならない】という考えがないようだったしキャロルにいたっては【どうでもいいこと】のようだ。
十二時。通路でガチャガチャと大きな音がして、えくぼのおばさんがニコニコ顔で戸を開けた。
「車内販売だよ。何かいりませんか」
ルビーが勢い良く立ち上がったが、ウィルはトムの弁当のことを思い出して一番大きな荷物の包みを開けにかかった。
中身は一見ごく普通のランチだった、もっとも中に入っている材料の何割かは蛙だとかナメクジなのをウィルは知っている、それに量は間違いなく五人分はある。
トムの気持ちは嬉しいが、こんなの全部食べたんじゃ胃がパンクしてしまう。
「・・・二人とも、ダイエットしてないなら手伝って。とても食べ切れないよ」大鍋型パイを買おうとしているルビーと、何かを素早く買い込んだキャロルにウィルは懇願した。
「わあ! すっごーい。お母さんが作ったの?」瞬間移動したのかと思うくらいの速さでルビーが戻ってきた。キャロルも戻ってきて、一言。
「漏れ鍋ね」完全に断言されてしまった。
「なぜ、それが・・・」わかったのかと聞こうとした僕を制して、キャロルは包みを指さした。包みにも器にも『漏れ鍋』のマーク、そのものズバリの穴の開いた鍋の絵、が入っていた。
「それとご両親、近くにいないでしょ? もしいたら、そんなほつれたローブ着せるはずないわ。古着買うのはわかるにしても、ほつれも直さないなんて考えられない。ルビーは逆にご両親も、おじいちゃんおばあちゃんも健在で一人っ子」
ウィルが、ついさっき着替えたばかりのローブを見下ろすと、確かに首元や裾が綻びている。昨日まできていたローブは洗濯してしまってあるし、今来ているのは古着屋で買って以来、トランクに放り込んだままだったのだ。『オリバンダーの店』や『漏れ鍋』での仕事に気を取られてよく見てもいなかったから当然といえば当然だ。
ルビーへと目を向けると、これは反対に不自然なくらいに奇麗なローブ、しかも多分オーダーメイド、それなのにどこか不揃いな感じのする持ち物。
「みんながみんな競って買ってくれたんでしょ? だから一つ一つは一流のものなのに、協調性が感じられないのよ」なんかすごく冷めた声でキャロルが評してみせた。ウィルは気圧されたようになって引きかけたが、もう一人は全然感じていないらしい。
「すっごーーーーいっ〓 なんでわかるんだろう? 魔法みたいだけど、魔法じゃないよね? 魔法は杖がなきゃ使えないっておばあちゃんが言ってたもの」
「魔法だったら、良かったのにね」
引きかけたウィルを寂しげに見て、ルビーの態度に戸惑っている、キャロルにウィルが言った。ウィルには何となくだけどわかったように思えた。シャーロック・ホームズと同じだ。観察眼、洞察力。そういったものに恵まれ過ぎた人間は孤独にならざるをえない。
「そうかもね」キャロルがひっそりといった。
表情をあまり表に出さないようにしているようなのに、すごく落ち込んだ顔をしている。ウィルはなんだか胸が苦しくなった。ついこの前までの自分の姿がダブって見えるのだ。
「僕にもできるよ、絶対確実な予言」
ウィルは努めて明るく言った。少しテレを含んだ微笑みを浮かべてルビーとキャロルを半々に見る。
ルビーがすごく興味ありそうにヘイゼルの瞳を大きく開いてウィルを見つめ、キャロルはアイスブルーの瞳を二度ほど瞬かせた。
「僕、ウィルには今日、親友が二人できるよ」そういってウィルは左目をつぶってみせた。
「そっか! それならルビーも予言できる。ルビーにも親友が二人できるよ」思いっきり破顔したルビーが言った。その大きな目がキャロルを見つめている。
「・・・キャロル、にも・・・・?」
「もっちろんよ!」
おずおずと答えたキャロルにルビーがきっぱりと言った。
その言葉と表情で、キャロルは俯いて黙ってしまったが、そんなことはどうでも良かった。だって、親友に言葉なんていらない、十分に気持ちは伝わっていたから。
車窓には荒涼とした風景が広がってきた。整然とした畑はもうない。森や曲がりくねった川、うっそうとした暗緑色の丘が過ぎていく。
コンパートメントをノックして、丸顔の男の子が泣きべそをかいて入ってきた。
「ごめんね。僕のヒキガエルを見かけなかった?」
三人とも首を横に振ると、男の子はメソメソ泣き出した。
「いなくなっちゃった。僕から逃げてばっかりいるんだ!」
「きっと出てくるわよ」ルビーが言った。
「カエルなんだから、そう遠くにはいないわよ。人の通る廊下にもいないだろうし、日の当たる乾燥したとこにもいないはずよ。きっとどこか、なにか、の陰にいると思うわ」と、もっともな忠告はキャロル。
「うん、探してみるよ。もしみかけたら・・・・」男の子はしょげ返ってそういうと出ていった。
「なんでヒキガエルがペットになるんだろう?」ウィルは首を傾げた。猫やふくろうはまだわかる。ヒキガエルが結構頻繁に料理の材料になるのも知っている、が、ペットにはなりそうにない。
「ルビーだったら、ヒキガエルなんて持っていたら、出来るだけ早くなくしちゃいたいけどな」
「ペット、って言うより魔法のお供なのよヒキガエルは。昔っからね。服を着せたり鈴をつけたりして絆を深めたり、契約の印として乳をやったりキスをしたってのはマグルの迷信だけど、実際問題として脅かしたときににじみ出す毒やヒキガエルそのものが魔法薬の材料になるのは事実だし、まあ、今はあまり人気ないようだけどね。わたしならふくろうを飼うけど」
「ルビーは猫のほうがいいな。ウィルは?」
「僕もふくろうだね。何たって手紙を運んでくれるんだから」
三人がペット談義を始めかけたとき、コンパートメントの外が騒がしくなった。
何事かと耳を澄ますと『ハリー・ポッターが乗っているらしい』と言っているのが聞こえた。
「そっか、そういえば『あの』ハリー・ポッターもわたしたちと同い年なのよね。ホグワーツに入学するのは当然だし、この汽車に乗っていても不思議はないわ」
「あの・・・ハリー・ポッターって、誰なの?」『漏れ鍋』のトムも口にしていた名前だ。
「知らない、の? 『あの人』が唯一殺すのを失敗した子供、『あの人』の力を打ち砕いた子供、それが何故かは誰も知らないけどね。十一年前、魔法世界の人間はほぼ全員が『生き残った子供、ハリー・ポッターに乾杯』って言って杯を挙げたのよ」
「額にその時の傷、稲妻型の傷があるって。はっきりと見た人間はごく小数だからはっきりしないけど、その小数は魔法族で一番信頼厚い人たちだから、多分間違いじゃない」
正反対の性格をしているように思えるルビーとキャロルが、同じ顔と口調で言った。目の前で顔を見ながら聞いたのでなかったら二人のうちのどちらが何を言ったか区別できなかったかも知れない。
マグル出身のウィルには理解できないほど、魔法族に対する『あの人』の影響は深いのだ。
あのルビーまでが沈んだ顔をしているので、何か気を逸らさせるものはないかとウィルが窓から覗くと、外は暗くなっていた。深い紫色の空の下に山や森が見えた。汽車は徐々に速度を落としているようだ。
車内に響き渡る声が聞こえた。
「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていってください」
ウィルは神経質にローブのほつれをいじり、ルビーは更に陽気になった。キャロルはいくぶん緊張しているふうだが、冷静さは失っていないようだ。三人は残った弁当を再び包み、通路にあふれる人の群れに加わった。
汽車はますます速度を落とし、完全に停車した。押し合いへしあいしながら列車の戸を開けて外に出ると、小さな、暗いプラットホームだった。夜の冷たい空気にウィルも身震いした。やがて生徒たちの頭上にユラユラとランプが近づいてきて、ウィルの耳に雷みたいに大きな、でも暖か味のある声が聞こえた。
「イッチ年生! イッチ年生はこっち! ハリー、元気か?」
大きな髭面が、ずらりと揃った生徒の頭の向こうから誰か、間違いなくハリー・ポッターだと察しは着いたが、に笑いかけている。ウィル達のところからはそれがどんな奴なのかまでは見えなかった。
「あれ、ハグリットよ。ホグワーツの森の番人だって聞いたことがある。一キロはなれたところから見てもそうとわかるって言う人がいたけど、あの巨体じゃ見間違いようはないわね」キャロルがそっと囁いた。ルビーは山でも見上げるようにポカンと口を開けて仰ぎ見ている。
確かに、常人の二倍の背丈に五倍の幅の体は誰の目にも、それとわかるだろう。
「さあ、ついてこいよーあとイッチ年生はいないかな? 足下に気をつけろ。いいか! イッチ年生、ついてこい!」
滑ったり、つまずいたりしながら、険しくて狭い小路を、みんなは髭面の大男に続いて降りていった。右も左も真暗だったので、気がうっそうと生い茂っているのだろうとウィルも思った。みんな黙々と歩いた。ヒキガエル探しの少年が、二、三回鼻をすすった。
「みんな、ホグワーツがまもなく見えるぞ」
ハグリッドが振り返りながら言った。
「この角を曲がったらだ」
「うぉーっ!」
一斉に声が湧き起こった。
狭い道が急に開け、大きな黒い湖の辺に出た。向こう岸に高い山がそびえ、そのてっぺんに壮大な城が見えた。大小さまざまな塔が立ち並び、キラキラと輝く窓が星空に浮かび上がっていた。
「四人ずつボートに乗って!」
ハグリッドは岸辺に繋がれた小船を指さした。ウィルとルビー、キャロルが乗り、もう一人茶色がかった髪の男の子が続いて乗った。
「みんな乗ったか?」
ハグリッドが大声を出した。一人でボートに乗っている。
「よーし、では、進めぇ!」
ボート船団は一斉に動きだし、鏡のような湖面を滑るように進んだ。みんな黙って、そびえ立つ巨大な城を見上げていた。向こう岸の崖に近づくにつれて、城が頭上にのしかかってきた。
「頭、下げぇー!」
先頭の何艘かが崖下に到着したとき、ハグリッドがかけ声をかけた。一斉に頭を下げると、ボート船団は蔦のカーテンをくぐり、その陰に隠れてポッカリと空いている崖の入り口へと進んだ。城の真下と思われる暗いトンネルをくぐると、地下の船着き場に到着した。全員が岩と小岩の上に降り立った。
「ホイ、おまえさん! これ、おまえのヒキガエルかい?」
みんなが下船した後、ボートを調べていたハグリッドが声を上げた。
「トレバー!」
ヒキガエル探しの少年が大喜びで手を差し出した。生徒たちはハグリッドのランプの後に従ってゴツゴツした岩の路を登り、湿った滑らかな草むらの城影の中にたどり着いた。
みんなは石段を登り、巨大な樫の木の扉の前に集まった。
「みんな、いるか? おまえさん、ちゃんとヒキガエル持っとるな?」
ハグリッドは大きな握りこぶしを振り上げ、城の扉を三回叩いた。
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