ビストロフの橋

ビストロフの橋

第七章 「森の住人」

ニーズル
    森の住人

 「学生じゃなかったってことなんじゃないの?」夕食の時、日記とメモのことを話すと、こともなげにキャロルが言った。
 「先生ってこと?」一足先に食べ終えて、一息入れていたルビーが興味津々な顔で身を乗り出した。
 「そうじゃなくって、ほら、この学校には教職員や学生よりも多くの[人たる存在]が居るでしょ」
 言いながら、キャロルは塩ナメクジゼリーを突き刺したフォークで壁を指し示した。
 大きな絵がかかっている。夜会服を優雅に着こなしたブロンドの美女の絵だ。そこに突然皺々の魔女の絵が加わり、寝ていたらしいブロンドの美女の髪を引っ張った。
 「痛! ・・・バイオレット!! なんの用なの、なんの用にしても髪を引っ張るのはやめて、痛いじゃないの」憤慨すろブロンドの美女に皺々魔女は何事か囁いている。
 そうだった。ここでは絵や鏡、いろんなものに意志があり名前がある。特に絵なんてかぞえるのがばかばかしくなるほど飾られているのだから、そのうちの一枚にドリーなるものがいる可能性は十分にある。
 「それと、あの人、はここにはいないわね。だって家に帰るまでに薬を準備しなきゃってことは家に帰ってから薬を使うつもりだったに違いないわ。あの人ってのは自宅の近所にいたのよ」
 これ以上ないってくらいに明快な解説だった。言われてみればまったく当たり前のことなのだ。
 明快な解説の出た後は、明白な行動を起こすだけ。三人は明日から、校内の絵という絵全てを訪ねて歩く覚悟を決めた。ウィルとしては謎のままで放っておくのでは寝つきが悪くなるばかりだし、好奇心旺盛なルビーにとっては『面白そう』なだけで行動を起こすには十分な理由だったろう。
 道に迷うであろう確信のもと少し(かなり)早く授業に向かった三人は、天文学の教室、一番高い塔のてっぺんがそうだったが、に行くあいだ一言も口をきかなかった。廊下の両側にある絵の枚数に、いまさらながら気の遠くなるような気分を味わっていた。壁一面に絵がある。絵がないところを探すほうが難しいほどなのだ。この中からたった一人のキャラクターを探さなくてはならないとなると・・・正直言って、やめてしまいたくなる。
 天文学の授業は意外と楽しかった。かなり退屈しそうに思えたのだが、都会の喧噪から完全に隔絶されたホグワーツ城の天辺から見る空はとてもきれいで、星が手を伸ばせば届きそうなくらいに近くで輝いていた。
 学科担当のシニストラ先生はとても無口な人だったが(レイブンクローの寮監でもあるのに、ウィルたちはこの授業まで声どころか姿も見ていなかった)、まったく無感動な人というわけではなかった。天文学が魔法使いと魔女にどれほど重要な意味を持つ学科かを説明するとき、それは証明された。
 何かの魔法をかけるとき、呪文とともに重要になる杖の振り方。それは星の運行が元になっているのだ、と誇らしげに言い。次に、占い学を専攻するにあたっては自分と占う相手の生まれた年、日、時間の星の位置を知ることが重要なのだということを、不本意なのだろう、嫌々説明したのだ。
 星々の動きは常に一定で、不確実な事象などありえない。それが、占い学などという魔法社会において最も不確実なものに使われるなど、不愉快。というわけだ。もちろん、直接そう言ったわけではないが、聞いている人間にはそうとしか聞こえなかった。
 「目的のところへ、たどり着けそうか?」
 天文学が終わって、寮に帰るとレイブンクロー寮の守り番『守りの翼』が問いかけてきた。その問いに対する答えが合い言葉になっていて、答えられないと寮に入れてもらえない。
 「一歩一歩進めば遠くまで行ける(step after step goes far)」淀みなくキャロルが答え、翼が閉じられる。寮の入り口が見えた。
 ウィルはルビーとキャロルにおやすみを言って、自分のベッドに急いだ。眠かったからではない、その逆だった。目が冴えてとても寝る気になれない。
 今夜は徹夜で『柚薬』の研究をしよう。そう、ウィルは決めた。
 そのためにはどうしても必要なものが一つ欠けているのに、ウィルはベッドにたどり着く前に思い出した。ただ、それは日中はできないことだったから後回しにしていたのだ。
 どうせ徹夜するのなら・・・、ウィルは踵を返して寮の外に出た。
 『守りの翼』が鋭い視線を向けてきたが、なにも言わずに通してくれた。
 明かりが落ちた廊下を歩く。薄暗くはあるが、静寂とは程遠い。周囲の絵たちのざわめきが聞こえていた。みんな話のわかる者たちらしく、こんな時間に校内を歩く生徒を見ても注意したり、騒ぎ立てたりする気はないようだ。
 階段一つを降り、いくつかの隠し扉を抜けたとき、絵たちのざわめきとは違うはっきりとした声が聞こえ、ウィルは立ち止まった。 一つ先の曲り角、その向こうから聞こえている。何となく聞き覚えがあり、耳を澄ますと、聞き覚えがあるどころではないフレーズが耳に飛び込んできた。
 「問題!」『霧の中のレイチェル』が誰かに問題を突きつけている声だった。こんな時間にもなぞなぞをやっていることに少なからず驚いたが、そっと覗くと相手はミセス・ノリスで、その横では頭に矢の刺さった『風穴のテリー』がにやにやと笑いながら、ウィルに今のうちに行け、と合図している。
 「ありがとう」唇の動きだけで、そう言うとウィルは足音を忍ばせて先を急いだ。目の前、少し上のほうにはレイチェルのもう一人の友人『ペンキ屋トム』が自慢の大きな目を見開いて周囲に警戒の目を向けていた。
 先導してくれているのだ。
 その姿が突然消えた。と、上の階からビーブズが悪態を付く声が聞こえてきた。危うく、ビーブズに見つかるところだったのだ。
 さらに階段を二つと、どう見たって絵画にしか見えない(それにしてはちっとも動こうとしないので、違和感はある)隠し扉を抜ける。途端に少し冷たい風がウィルの髪を巻き上げて吹き過ぎていった。ゴーストたちの協力のおかげで、ウィルは寮ばかりでなく、城をも抜け出すことに成功したのだ。
 月明りに目を凝らすと、校庭の向こうに黒々とした森が見えた。『禁じられた森』、話によればこの森には幾多の魔法生物が棲んでいるはずだ。
 歓迎会で、ダンブルドア校長が入ってはならない。とわざわざ注意したほどの場所でもある。
 ゴクリ、ウィルは自分が大きな音を立てて唾を飲み込む音を聞いた。ともすれば、すくんでしまいそうになる足を叱咤して歩く。
 あそこに、行かなくてはならないのだ。
 月が晃々と柔らかな光を地上に投げかけているが、それは雲に時折遮られてしまうのであまり当てにはできない気がした。
 森は近づくにつれて、ますます黒く深く見えた。夜の闇よりもなお暗く深い森。全身が小刻みに震え出したことに気づいたが、ウィルはそれを無視して歩き続けた。
 しばらく歩くと目の前に木でできた小屋が現れた。入り口のあたりにブーツらしきものが置いてあったが、どう見ても普通の五倍はある。一足並んでなかったら、燃えないゴミのポリバケツだと思ったところだ。
 きっとハグリッドのものだ。と、ウィルは思った。他の何者が、こんな巨大なブーツを履くだろう。彼は森の番人だから、森に近いここに住んでいるのだ。
 明かりは点いていなかったが、足音を忍ばせて歩く。見つかったらやっかいだ。
 小屋の前を通りすぎて森の中へと足を踏み入れる。途端にゴーストと同じかそれ以上の冷気が全身を包み込んだ。凍りついてしまったかのように身体が硬直し、ウィルは数秒その場から動けなくなった。
 強いて気を取り直し、ウィルは再び歩き出した。目当てのものを捜しながら、森の奥に向かって。
 目当てのもの、それは枝だった。杖と似通った形のものがいいわけだが、それだけでいいというものでもない。
 太さ長さはもちろんだが木の種類、乾き方、枝別れして小枝が多かったり、風雨や野生動物に踏まれて傷ついていたり、となかなか条件に合う枝は見つからない。
 足下や頭上、手の届く範囲にばかり目を凝らすうち、自分がどんどんと森の奥に入り込んでいってることに、ウィルはまったく気づいていなかった。
 望みのものがなかなか見つからないことに失望しても、絶望はせずに歩き続けていたウィルの目に、ついにお望みのものが現れた。これ以上ないってぐらいに枝ぶりのいい、大きなイチイの木が月の明かりにうっすらと照らし出されているのが見える。
 ウィルは喜び勇んで、イチイの木の根元へと駆け寄った。そして、一番先に目に付いた枝に手を伸ばした。
 が、その手が枝をつかむことはなかった。突然、なにか小さな生き物が腕に飛びかかってきて、枝に触れることなく空を切ったのだ。
 「わっ!?」びっくりして飛び上がったウィルの前に、一匹の猫がいた。斑点模様で耳がすごく大きい。それに、尻尾がライオンみたいになっている。
 猫じゃないっ!! ウィルは直感的にそう感じて二歩ほど後退った。
 その猫そっくりな生き物は、イチイの大木の前に立ちはだかって、ウィルをじっと見つめている。
 もう、襲ってくる様子はないので、ウィルはじっくりとその生き物を観察することにした。無視してまたイチイの木に向かう、それも考えたが生き物の透き通るように澄んだ目が、そんなウィルの動きを制していた。
 ウィルはその目にあえて逆らおうとするほど、行動派の人間ではない。
 よく分からないが、何となく。この生き物がウィルになにか伝えようとしているような気がした。その証拠に、この猫のような生き物は、ウィルがイチイの木に近づこうとすると遮るように動き、離れようとするとそこを動かずに見送るだけだった。
 どうしても、イチイの木にウィルを近づかせたくないらしい。
 「この木、なにかあるのかな?」確かに枝ぶりはいいし、結構な古木ではあるだろうが、それ以外にもなにかあるのだろうかとウィルは目を凝らした。
 「別に、これと言って・・・・あれ?」別段、変わったところもなさそうだと思ったとき、おかしなことに気がついた。小枝が何本か、風もないのに揺れたのだ。
 さらによく見ると、動く小枝のあるあたりの樹皮に、艶のある節が二つ見えた。その節が月の光を受けて光った瞬間、ウィルはようやくそれがなんなのかがわかった。
 小さな生き物だ。20センチもないような生き物が木の幹に捕まってウィルを見ている。見ている、というより警戒しているのだ。姿形からして木に似ているところを見ると、木の上で生きる生き物に違いない。もしかするとここに住んでいるのかも知れない。
 「これ以上近づくと、あれに襲われる? 危険なの?」目の前の猫のような生き物に訊いてみる。
 その猫のような生き物は、うなずいた。見間違いではない。明らかに、ウィルの問いにうなずいてみせたのだ。
 ウィルはそう信じた。だから、自然と足が今来た道を逆に歩き出す。この木を見た後では、他の木を探す気にならなかったし、そろそろ日付が変わった頃だ。先生たちに気付かれないように帰るためにはそろそろ城に戻らなくてはならない時間でもあった。
 ふと見ると、あの猫みたいのが一歩前をちょこちょこ歩いて、時々立ち止まっては辺りに気を配っている。
 そして、突然歩く方向を変えた。振り向いてウィルにも付いてくるように、というような仕種をした。ウィルは逆らわなかった、そのまま後を追う。
 しばらく歩くと、さっきまで歩いていた辺りから木をなにかで打ち付け、引き裂いて振り回す、そんな音とブーブーといううなり声が聞こえてきた。なにか大きな生き物がいるのだろう。
 鉢合わせ、なんてことにならなくて良かったと胸をなで下ろし、この猫のようなのが危険を回避してくれたことに気付いた。
 その後も、何度か方向を変えて歩く猫のようなのに付いていく。と、森の少し開けたところに人影が見えた。その人は馬に乗り、夜空を眺めて、何事かつぶやいていた。
 猫のようなのが、平然とその影に向かって歩くので、ウィルもその人のところへと歩き続けた。そして、自分が大きな間違いをしていたことを知った。その人影は馬になんか乗ってはいなかったのだ。
 プラチナブロンドの胴、淡い金茶色のパロミノ。蹄を持った四本足のそれは馬だっが、本来首があり頭のあるはずのところに人間の上半身が付いていた。
 明るい金髪が月明りでさらに明るくけぶるような雰囲気になり、ウィルは夢を見ているような気がした。
 この夜、この森でいくつかの生き物と会ったが、今ウィルは初めて正体のわかる生き物と対峙していた。本の中ではよく出会ったものだ。あくまでも空想上の生き物として。
 「生徒さんだね。こんな夜中に森に入るのは危険だよ」信じられないような青い目、淡いサファイヤのような目がじっとウィルを見下ろしている。
 その目が、さらに下。猫のようなものを捕え、そのケンタウルスは静かに微笑んだ。
 「ニーズルが一緒なら、大丈夫。森の外へ安全につれていってくれるでしょう。行きなさい、じきに夜が明けます」
 その後、ウィルは自分がどうやって森を出たのかを知らない。ケンタウルスに会った、話しかけられたことに舞い上がって、なにも考えられなくなっていたのだ。
 気がついたとき、ウィルは森を出てハグリッドの小屋の前にいた。いつのまにか猫のような生き物、ケンタウルスによればニーズルという名の生き物らしいが、は姿を消していた。
 「・・・! そうだ」朝食の時間にはまだ間がある。ウィルは森で会った生き物たちのことを調べるために、図書館へ行ってみることにした。
 図書館には初日に道に迷ってたまたま行っただけだが、ウィルにとってはどこよりも身近に感じられる場所だったから、場所はしっかり覚えている。その場所まで行くための階段と扉を探すのには苦労したが、迷うことなくたどり着けた。
 静寂と整理、整頓に支配された空間。
 誰もいないだろうというウィルの予想に反して、先客がいた。ウィルと同年らしい女の子がいる。栗色の髪がフサフサしてるのだけがはっきりと目に付いた。他のとこはみんなお揃いのローブなんだから当然だけど。
 なにか探しているらしく、ウィルが入ってきたことにも気付かずに、本棚の隅から隅まで目を走らせている。
 あまりに真剣な様子なので、ウィルは少し離れたところで本を探し始めた。マグルの図書館のようにジャンルごとに分けてあるなら探しやすいのに、閲覧禁止の棚との区別がはっきりしている割りに、そういった区分は曖昧な感じなので目当ての本を探すには勘と運が頼りなのだ。
 「『魔法薬の材料ーその所在と利用法』って本見なかった?」
 探しはじめて数分、後から声を欠けられウィルはあわてて振り向いた。さっきの女の子が少し疲れた顔で立っていた。
 「夜中に気になって探しに来て、ずっと探してるんだけどないの。図書館の蔵書リストに載っていたし、貸し出された記録もないから絶対にあるはずなんだけど・・・」
 そんなこと言われても、自分が探しているわけでもない本のタイトルなんて、見ていたとしても覚えているわけが・・・ある。
 「ちょっと待ってて」ウィルは急いでその本を見た覚えのある棚へ行ってみた。分厚い本の後ろに挟まっているのに気がついて、棚に並べ直した本があった。確か、そんなタイトルの本だった気がする。
 『魔法薬の材料ーその所在と利用法』大判だけど、厚みはそれほどでもない。ちょっとくたびれた感じの革表紙の本。この本だ。
 「これだね」本を持っていってフサフサ髪の女の子に渡す。
 女の子は飛び上がって喜んだ。一瞬抱きついて来そうになったのだけど、本を抱えていたので思い止まったようだ。
 「ありがとう。私、ハーマイオニー・グレンジャー。グリフィンドールよ。あなたは?」 疲れた感じの顔に微笑みを浮かべて、女の子が言った。前歯が少し大きかった。
 「ウィリアム・ゴールドマン。レィブンクロー。ウィルでいいよ。あのさ、『禁じられた森』に棲む動物に関して書かれた本ってないかな? ちょっと調べたいことがあるんだけど」あれだけ熱心に本棚を見ていたなら、心当たりがあるかも、そう思って訊いてみる。
 答えはyesだった。早速、その本がある棚に案内してもらう。少し奥まったところだ。
 「これなんかいいと思うわ」ハーマイオニーが指し示したのは薄い細長の本だった。
 『ホグワーツ城ーその森の住人たち』そのものズバリのタイトルが打たれている。
 「ホグワーツのことが知りたくて、読んでみたの。結構詳しく書いてあったわ」
 「ありがとう」
 どういたしまして、ウィルが礼を言ったのにそう応えると、ハーマイオニーはフサフサの髪がウィルの頬を掠めるほどの勢いで振り返った。ちょうど司書のマダム・ピンスが入ってきたところだった。
 ハーマイオニーが本の貸し出し手続きをしてもらっている声を聞きながら、ウィルは手にした本を読み始めた。昨夜会った生き物たちを探してみる。

  [ニーズル];イギリス原産。現在では 世界中で飼育されている。猫に似た小型の 生物で、毛は斑点、斑入り、ブチなど。特 大の耳とライオンのような尾を持つ。知的 で自立しており、時々攻撃的になるが、魔 法使いや魔女の誰かになつくと、すばらし いペットになる。嫌な奴とか、怪しげな奴 を見分ける能力を有し、飼い主の道案内を 勤めることが多い。
  ニーズルは一胎で8匹まで妊娠でき、猫 との異種交配も可能である。マグルの興味 を引くに足る珍しい姿をしているため、飼 育するには許可証が必要である。

  [ボウトラックル];主にイギリス西部、 ドイツ南部、スカンジナビアの一部の森に 生息する。木を守る生き物で、小さく(最 大20センチほどの背丈)、見かけは樹皮 と小枝でできており、そこに小さな茶色の 目が2つついているので、見つけるのが極 めて困難である。
  ボウトラックルは昆虫を食べ、おとなし く、非常に内気であるが、自分の棲む木に 危険が迫ると、住処に危害を加えようとす る木こりや樹医に襲いかかり、長く鋭い指 で目玉をほじくるといわれている。魔法使 いや魔女が杖用の木材を切り取る際には、 ワラジムシを供えると、ボウトラックルを その間なだめておくことができる。

 ウィルは思わず目を押さえた。昨夜ニーズルに止められていなかったら、危うく目を失うところだったのだ。
 次から、枝を取りに行くときにはワラジムシを用意していこう。ウィルは心に刻み込んだ。目を失いたくはない。

  [ケンタウルス];ケンタウルスはヒト の頭、胴体、腕が馬の胴体につながってお り、馬の色は5、6種類ある。知的で会話 もできるので、厳密には動物と呼べないが、 ケンタウルス自身の要求により、動物と分 類されている。
  ケンタウルスは森に棲む。現在はヨーロ ッパ各地に群生するが、そもそもギリシャ 原産だといわれる。ケンタウルスがいる国 では、その国の魔法当局が、マグルに煩わ されないような地域をケンタウルスに割り 当てている。しかし、ケンタウルスはヒト から隠れる手段を自ら持ち合わせており、 魔法界の保護をほとんど必要としない。
  ケンタウルスの習性は、謎に包まれてい る。一般的に、ケンタウルスはマグルを信 用せず、それと同じくらい魔法使いも信用 していないし、実は、両者をほとんど区別 していないようである。10頭から50頭 の群れをなして生活する。魔法の癒し、占 い、洋弓、天文学に精通しているという評 判である。
  ホグワーツ周辺にいるケンタウルスは、 約20頭ほどと思われるが定かではない。

 最後の一つ、姿を見ていない生き物についてははっきりと断言するわけにはいかないが、ほぼ99%そうだろうと思えるものがあった。

  [トロール];身の丈4メートル、体重 1トンにも及ぶ恐ろしい生き物である。桁 外れの力と並外れてバカなことの両方が特 徴で、しばしば暴力的になり、なにをしで かすか予測できない。スカンジナビア原産 だが、最近ではイギリス、アイルランド、 および他の北ヨーロッパ地域でも見られる。
  一般的にはブーブー唸って会話するが、 これが未発達な言語を構成しているらしい。 しかし中には簡単なヒトの言葉を理解した り話したりするものもいる。トロールの中 でも知性が高いものは、訓練されて守衛と なる。
  トロールは山トロール、森トロール、川 トロールの3つに分類される。山トロール が最も大きくて凶暴。ハゲており、皮膚は 薄い灰色。森トロールは薄緑色で、中には 緑または褐色のザンバラ髪が薄く生えてい るのもいる。川トロールには短い角があり、 毛深いのもいる。皮膚は紫色で、しばしば 橋の下に潜んでいるのが見られる。生肉を 食すが、獲物を選り好みはせず、野生動物 からヒトまでなんでも食う。
  ホグワーツ周辺の森にいるのは、むろん 森トロールである。

 本を閉じたとき、ウィルは自分でもはっきりとわかるほど血の気を失い。青ざめていた。
 こんな危険な生き物たちが徘徊している森に一晩中いたのだ。武装するどころか杖すら持っていなかった。万一襲われていたら、実際にその危険はとても身近なものだったのだが、まず助かる見込みはなかっただろう。
 しばらくの間、ウィルは呆然と立ち尽くしていたのだが、他の生徒たちが起き出して大広間に行く物音や声で我に返り、急いで大広間に向かった。
 せっかく誰にも気付かれずに城を抜け出し、帰ってきたと言うのに、食事に遅れたことで不審を買ったのでは元も子もなくなってしまう。

 大広間に行くと、ルビーとキャロルはすでに来ていて席に着きウィルを待っていた。
 待っていたといっても、ルビーはすでに空の皿を自分の前に積み上げている最中だったが・・・。
 ウィルがキャロルたちが空けていてくれたらしい席に座ると、キャロルがなにか言いたそうに唇を動かしたが、なにも言わなかった。代わりに、そっと腕を伸ばして、ウィルのローブに付いていた木の葉と何かの植物の種を払い落とした。
 「ドリー捜しのこと、考えたんだけど」
 ウィルにマーマレードのたっぷり付いたトーストを手渡し、自分用にはイチゴのジャムが塗りたくられたトーストをとって、キャロルが話し出した。
 「闇雲に探し回っても見つからないわ。だってこんなに広い城の中だもの。だから探すルートを絞り込むべきだと思うの」そう前置きをして、キャロルが話したことは実に堅実な方法だった。間違いはないが、場合によってはやたらと手間のかかる方法。
 それは各授業に向かう途中、大広間での食事の行き帰り、いくつあるのかも分からない隠し扉や階段を探し当てては毎回別ルートで移動し、見かけた絵に片っ端から声をかけて歩くというものたっだ。
 キャロルの推測では、僕らが日々の生活で通る場所のどこかでドリーに会うはずなのだ。サマンサがあんなことになったのは一年生の夏だった。ウィルたちも一年生なのだからウィルたちの行けない場所にサマンサが行って、そこでドリーに会った。なんてことは考えられない、というのだ。
 それについてはウィルも賛成だった。サマンサがドリーを探し歩いたはずはない、日々の生活の中で偶然知り合ったに違いないのだから、ウィルたちも必ずどこかで出会うはずなのだ。
 「僕もそう思う、地道に捜すしかない」
 自分の考えに半ば耽りながら、キャロルがとってくれたトーストに噛り付く。ウィルの好みからいうと少し酸味がきつすぎた。


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