晴走雨読

晴走雨読

February 22, 2007
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カテゴリ: つれづれ・・・





”この時期お参りされる方は滅多にいらっしゃいませんが・・・”


霊苑事務所のおばちゃんは電話の向こうでやさしく諭すようにこう言った。


”そうですか。そこまで車で行けることは行けるのですか?”


”はい、それは大丈夫です。




”そうですか・・・。とりあえず行くだけ行ってみます”



一年前、その霊苑のある丘を訪れたのは4月だった。

一面の雪景色からわずか20,30cm顔を出している墓石が並ぶ中、

僕はタクシーの運転手さんと雪をかき分け一つの墓石を探した。

今日はそれよりも1ヶ月以上早い。



僕はホテルを出、酒とお花を買い、たくさんのタクシーの中の1台に乗り込んだ。


”ま、まるで3月か4月の陽気ですよ。いつもならこ、この時期路面なんか見えないですからね”


人のよさそうな運転手はつっかえながらよそ者の僕に旭川のことを話してくれた。


車が山の登り道に入る。

山の中腹に旅館があるせいか道路は除雪がされていた。

車内に強い日差しが右から左から差し込む。





”あ、まっ、待っていましょうか。どうせ暇ですからね”



僕は30分ぐらいで戻りますと告げ、タクシーを降りた。




懐かしい景色。

一面の白い世界から顔を出した春の新芽のように墓石が整然と並ぶ。

時が止まった世界。






新雪に足を入れると、膝近くまで埋まる。

何歩か歩いていくうちに、積雪がどのくらいか分かってくる。

そしてそれは去年とほぼ同じぐらいの量であることが分かった。

僕は汚れをしらないバージンスノーのなかを乱暴に踏み進んだ。




僕は足跡を友人のお墓の前までつけたところで止まった。

静寂のなかで白い息を吐く。

その横の墓碑には去年はなかった友人の名前が書き加えられていた。

僕はカメラをポケットにつっこみ、

雪をかき分けた。

新雪は簡単に払えたが、墓石近くは氷ついていた。




お花を供え、缶チューハイの栓を抜く。


”ひさしぶり・・・ちょっと飲もうか・・・”


墓石の冷たさは、あの時を思い起こさせた。















山を降りて、暗くなるのを待って街へ出る。

アイスバーンと化した歩道を背中を丸めながら慎重に歩く。

そしてホテルから数分のジンギスカンの店へ入る。

若い人で溢れた店内の隅の方で、厚く切られた生ラムを食べる。

ご飯の香りがよかった。

普通に炊いているだけ、炭を入れるぐらい・・・と店主は話していた。

噛みしめる瞬間の香ばしさが素晴らしかった。


店を出て夜の街を再び歩き始める。

ふと、交差点の湯気に目が止まる。

角々に行商のおばちゃんのような人が何かを売っている。

近寄ってみると焼き芋だった。

リヤカーは無く、じかに機械が置かれている。

写真を撮りたくて、1本購入しようとすると


”写真が撮りたくて買うんなら売らんよ”


こう言われてしまった。

なんでもここでの販売は禁止されているけれど、年寄りなのでお目こぼしを受けているということ。

だから撮られてそれがどこかで使われるとここにいられなくなるというのだ。

氷点下にもなろうというこの寒空の下で

何枚も着込みうずくまるようにしているおばあちゃん。

80になるというおばあちゃんの、その着込んだ奥からのぞかせる笑顔はとてもやさしく若々しかった。

僕は小さめのを1本買い、その場を離れた。






明日は雪になるらしい。

丘の上の足跡もいずれ消えてしまうだろう。

何事もなかったかのように。



少し冷え込みが厳しくなってきた。

僕は閑散としたネオン街を抜けホテルを目指した。





ポケットの焼き芋が温かかった。













DSC04324(1)













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Last updated  February 22, 2007 10:15:23 PM
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