てにをは

ひとひら 参


       いつのまにやら第3弾。





そらのパズル







           「いつか、風と鳥の話をしたのを覚えてる?」

           「・・・・・・ええ」

           「君は、飛ぶ鳥は風に支えられているんだと言った。」

           「覚えてるわ」

            見上げると、彼は寂しく笑った。

           「でも、そうじゃないんだよ」

           「え?」

            飛鳥の頬を両手で包んで、彼は言った。

           「鳥はね、風を抱いているんだ。」


                      (村山由佳「野生の風」)





                                指をさし 見知らぬ人に 虹を見せ





あの青い空の波の音が聞こえるあたりに
何かとんでもないおとし物を
僕はしてきてしまったらしい

透明な過去の駅で
遺失物係の前に立ったら
僕は余計に悲しくなってしまった

        (谷川俊太郎「かなしみ」)






                                 あゝ!あたしはたうたうお前の口に口づけしたよ。
                                 ヨカナーン、お前の口に口づけしたよ。
                                         (オスカー・ワイルド「サロメ」)






              雨にうたれて
          林はみどりのしずくにすきとおる

            雨がやむと
              まっていたように
             お日さまが
                金のストローで
                      みどりのしずくをすくいあげた

                   (かぞかみかずよ「金のストロー」)







  門倉  さと子ちゃん、はやく、追いかけなさい
      今晩 帰ってこなくていい
      行きなさい、早く
      ・・・・・・いいかい、
        この晩を一生だと思いなさい・・・・・・
       ・・・・・・一生だと・・・
  さと子 ・・・・・・ありがとうございます・・・・・・
  門倉  さと子ちゃん、今、一番きれいだよ・・・・・・


              (向田邦子「あ・うん」)








                              羽ばたき方を忘れのかい?
                              羽根ならそこに生えてるだろ?
                                   (レミオロメン「フェスタ」)







                         「やっとるか。」

                              「やっとるぞ。」

                         「がんばれよ。」

                              「ようし来た。」

                                      (太宰治「パンドラの匣」)







  焼けば灰 埋めれば土と なるものを

           なんぞこの身が 罪となるらん

                       (野田秀樹「TABOO」)





       座敷は片付けられ、鳩の掛け軸だけがもとのままだった。
       庭へ出て、欠けた茶碗に水を汲んだ。
       水面は温んで、梅の花びらが漂っている。
       手水鉢や灌木に水影がうつろい、水琴窟の小石も陽を浴びていた。
       はじめる滴がまぶしい。
       瓏々と響く音にしばらく聴き入るうち、知らず知らず樺島が
       「いい音だね。安堂君がいちばん巧いよ」と声をかけてくれるのを
       待った。
       ふりかえったところには、ひっそりと羽をやすめる鳩がいた。
            (長野まゆみ「鳩の栖」





どうしてだろう?
何故いつも僕が残されているのだ?
そして何故いつも僕の手の中に磨り減った誰かの影が残されているんだ?
何故だろう?
わからないな。           (村上春樹「ダンス・ダンス・ダンス」)








                       彼の薄い唇は血の滲んだせいで、鮮烈な紅に煌き、市郎を嫌な気分にさせた。
                                         (長野まゆみ「魚たちの離宮」)








         もう俺の傍から消えて下さい。
         もう俺の世界から去って下さい。
         好きという言葉を忘れて、俺には二度と吐かないで下さい。
         嫌いという言葉を封印して、俺には永遠に問わないで下さい。
         優しさも、ゴミ箱に捨てて下さい。
         過去の記憶も、水と共に流して下さい。
         俺を忘れて下さい。
         俺に忘れさせて下さい。

                        (朝丘戻。「わすれな人。」)







  「不思議だよね。死んだ人間に関わる人々はなぜか優しい。
   それに比べて、生きている人間に関わる人は歪んでいるよね。」
      (田口ランディ「コンセント」)





唇についた白い実が、僕のコトバの葉っぱを枯らしてしまった(野田秀樹「小指の思い出」)




                      彼女はほんの少し微笑んだ。
                      そして四分の一センチほどの微笑みはもとに戻すのが面倒だから
                      という理由だけでしばらくのあいだ口もとに留まっていた。

                                (村上春樹「1973年のピンボール」)





                言葉は舞い上がり、心は地に留まる。

                心の抜けた言葉は天には届かない。

                        (シェイクスピア「ハムレット」)






     「やがて地獄へ下るときー」
      わずか抑揚をつけて、呟くように徳永が言った。
     「そこに待つ父母や友人に、私は何を持って行こう」
     「また何かの引用かい」
     「ええ。昔読んだっきりなんですけど。詩ですよ。何で思い出したんだろう」
      私は何を持って行こう―
     「何を持って行くんだ?」
     「え?確か―」徳永は考えた。「蒼白め破れた蝶の死骸―。そうそう、だから思い出したんですね。」
      それを持って父母に。
     「そうして渡しながら言うだらう」と徳永は続けた。
     「一生を、子供のように、さみしくこれを追っていました、と」
      口を閉じると、少しのあいだ空をながめてから、徳永は窓を閉めた。
     「行こう。」
      武上は彼の肩を叩いた。
     「まだ仕事が終わったわけじゃない。」

                        (宮部みゆき「R.P.G.」)

















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