
北海道のエゾ鹿。

エゾ鹿のロースト、グランヴヌール風です。グランヴヌールと言うのは、昔王様が狩りに出るときにその全てを仕切る狩猟頭のことで、野山に出れば王といえどもグランヴヌールの指示に従うという事だったそうです。
猟期は、秋冬から春先までですから夏の間に猟師たちは森の木の実、木苺やブルーベリー、カシスや桑の実などでジャムを作ったり、秋にはキノコを干したり、保存食を作るのも仕事です。
鹿やイノシシを仕留めて、ローストして夏に作ったベリー系のジャムを利用してソースを作ると、これがグランヴヌール風という料理になるわけです。鹿、イノシシ、野ウサギ(リエーブル)など四足系ジビエのクラシックな料理ですね。
肉にジャムなんていうと、ちょっと引くかもしれませんが北欧などではハンバーグやミートボールにジャムの組み合わせは定番ですし、トナカイや鹿料理には欠かせないものと言えるくらいです。スウェーデン発祥の家具屋のイケアのカフェテリアに行けばそんなメニューが味わえますよ。
和食でもみりんや砂糖を味付けに使うでしょ?柚子やカボスを使いますよね、、。甘酸っぱい味わいと考えると、ジャムだって同じなんです。フランスではエイグル・ドゥー(甘酸っぱい)イタリアではアグロ・ドルチェ(甘酸っぱい)という言葉で、ヴィネガーと砂糖や蜂蜜とか酸味のある果物との組み合わせは定番がいくつもあります。
鹿肉は、脂肪分がほとんどないので非常にさっぱりした味わいの肉です。人の味覚は美味しさや脂肪の滑らかさを甘味と混同する傾向があるので、鹿のソースに甘酸っぱさを加えることで肉の味わいを一層バックアップしてやるわけですね。それにワインとの相性!

コトー・デュ・ラングドック、ドメーヌ・ド・ラプローズ、キュベ・オンブラン。Cave相川のワインです。これが合うんです!特に私の場合、ワインの味わいに合わせてソースのバランスや濃度などを微調整しますから、もう凄いマリアージュですよ!このワインはシラーが90%くらいでグルナッシュが10%。鹿のグランヴヌールにはもう昔からシラーのワインと決まっています。
ちょっと専門的な話ですが、ソース・グランヴヌールはソース・ポワヴラード(コショウ風味のソースと言う意味)をベースに作ります。ポワヴラードと言うソースは、ミニョネットといって荒く砕いた胡椒とワインヴィネガーとマリナード(昔は鹿肉を香味野菜とワインでマリネしたのですが、そのマリネ液のこと)を煮詰めてそこに鹿や仔牛の出汁を入れて煮詰めて仕上げるんですが、できたポワヴラードにベリーのジャムやコンポートを加えるとグランブヌールになるわけです。
そういうわけで、きちんと作ったグランヴヌールソースは、果実の甘酸っぱさや果実の香りの裏に胡椒のスパイシーな香りやピリッとした辛みが隠れています。このポワヴラード→グランヴヌールと言う事を知らずにただのベリーソースにしてしまうと、ただ甘ったるいだけのくだらない料理になってしまうんです。
で、よく出来たシラーのワインの特徴は、ブルーベリーやカシスの香りに混じり、胡椒のようなピリッとしたスパイシーな香りが感じられます。また、シラーのワインは渋みが強く出ないのですが、とても濃厚な厚みを感じます。これがもうこの料理のためにあるようなマリアージュなんですよ!鹿を食べてこのワインを飲むともう一体化してしまって、料理とワインの境目が分からないくらいです。「料理とワインが合うってこういう事なんだ!」と思い知らされる組み合わせです。
古臭い料理で、古臭い定番の組み合わせですが、このマリアージュは外せません。だから毎年やっています。
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