コニコニにこにこ

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陣痛(必死編)


そのわりには本気で結構痛い。

痛みの波が襲ってくると、ベッドの上に
寝てなどいられないのだ。
「うー きたきたきた・・・」
痛みとともに、のっそりとベッドの上に
四つん這いになってみる。が、痛い。

どこが痛いといわれても、表現しづらいが、
おなかというか腰というかなんだかとにかく
その辺一帯がずどーんと痛くなる。

間隔も短い気がするし、しかも
ちょっと前より確実に痛いぞ。
どんどん痛くなってるけど、これであってるのか??

そうこうするうちに、なんだかトイレに
行きたいような気がしてきた。
トイレにいけばこの痛みから解放される気がして、
夫に引きずられるようにしてトイレへ。

でも、何も起こらない。

確かにトイレにいきたいかんじはあるのに!
そうして座っている間にも、あーきたきたきた・・・
ひとり孤独に痛みに耐える。

痛みの合間をぬってトイレから出ようとするが、
あまりにもその「痛くない」時間が短すぎて
なかなか動けずにいた。
でも一生ここにいるわけにいかないし・・・。
まさに決死の思いでトイレから這い出る。

部屋へ戻る間も、何度もうずくまってしまった。

今から思えば、実はこのときが一番ツラかった。
とにかく誰もスタッフはいないし、このあと
痛みがどうなるのかわからない恐怖と、そして
いつまでこの状態が続くのかという不安。

とうとうベッドの上にはいられなくなり、
床に座り込んでしまった。

隣の部屋との壁が薄く、ときおりその経産婦と
夫らしき男性の話し声がもれてくる。
だが、まったく苦しんでいる様子はない。

「5cm開いているひとがあんなに静かに
 冷静にしているのならば、たかが1~2cmの
 私が騒いだら何事かと思われる・・・」

そういう理性で、なんとかうめき声を堪えていた。

こんな状況ながら、痛みの中で私はまったく
場違いなことを考えたりしていた。

あー 数時間前、ほか弁でメニューを選んでいた私は
実に平和だったなぁ・・・。過去の私よ、そんなのんきに
弁当を食べていられるのも今のうちだよ・・・。

もはや床を這いずり回るほどの痛み。
出がけに中途半端に乾かしてきた髪は乱れてまとわりつく。

これじゃ貞子だよ・・・。
私はリアルに痛いぶん、あちらより鬼気迫ってるはず。

もう、ほんとにだめだ。

「ぅあぁあ~!」

もはや隣を気にするゆとりなし。
そんなことどうでもいいくらい、痛い痛い!!

私のその声を聞き付けて、さきほどのおばさん助産婦が
顔をだした。

助けて~ 神の助け・・・!

本当にこのときは彼女に後光がさして見えた。

私の様子を見て、さすがにただごとじゃないと思ったのか、
さっと内診。(したんだと思う。あまり感覚がなかったが。)
彼女の表情がかわる。
「思ったより早く進んだんだね!」
そう言うと、部屋の内線でどこかに電話をかけた。
「こっちもう始まりますので、大丈夫そうなら部屋あけて」

ああ、LDRに電話してるんだ。
えっ もう移動!?
そりゃ確かに尋常じゃない痛みだけどさ、
それって産まれるってこと!?
なんだか知らないけど、ゴールが近いらしいぞ!

うんうん唸りながら、ひそかにほくそ笑む。

息子とのご対面まで、あと1時間。




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