どうぶつ畑

どうぶつ畑

2004.01.18
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 一ヶ月ほど前、新人のスタッフが誤って一匹のモルモットを踏んでしまい下顎が折れてしまった。そのモルモットは7歳で動物園モルモットにしては長生きなほう。2,3週間すればくっつくというのでそれまでみんなで強制給餌するなどして世話をした。ペレットをふやかし、野菜をすりつぶし、シリンジで食べさせた。嗜好性を高めるためミルクやバナナを加えたりもした。その甲斐あって顎も動くようになってきて自分でスライス野菜を食べるようになってきた。だが食欲にムラがありだんだん体重が落ちてきた。

 それでも乾草も自分でつまむようになってきてなかなか良いのだが、いかんせん体重が落ちていく。顎のほうはもうほとんど治っているのだからほかのえさも自分でもりもり食べてもいいころ。というより自分で食べてもらわなければ困る。栄養があり嗜好性の高いものを、と思いアルファルファを与えてみた。いままでずっとチモシーを食べていたのでとりあえず少しだけ。するとやはり美味しいのか自分で食べだした。いい感じ。
 次の日、そのモルモットのお腹にガスがたまってしまった。うーん、やっぱりたまったか、と思ったがフンはでているし自分で乾草も食べていたし、その日そのモルモットを見ていたのはベテランの同僚だったので特に心配はしなかった。そして今日、朝彼を見たら横たわって苦しそうにしているではないか。お腹はガスでパンパンだ。やばい。急いで獣医さんのところへ連れて行った。お腹をマッサージし、腸を動かす薬を注射して保温。危険な状態なのでそれ以上の処置は少し回復してからとのこと。もたないかもよ、と言われる。
 モルモットを獣医さんのところへ預け、ものすごくへこみながら仕事へ戻った。アルファルファをあげたのがまずかった。このまま死んでしまったら今までのみんなの苦労が水の泡だ。昨日のえさの内容を確認すると、ペレットに野菜、そしてチモシーに混じってアルファルファが。聞くと少しあげたとのこと。え、あげたの!?と思わず思った。ガスたまってたのにアルファルファあげたらまずいよ、と心の中で思ったが、それでもやっぱりその原因はわたしなのだ。どきどきはらはらしながら今日を過ごした。そして電話が入り、彼は死んでしまった。
 悔いても悔やみきれない。軽率だったのだ。普通だったら今までアルファルファをあげてなかったとしてもあれくらいの量でガスがたまるなんてこと考えられない。翌日のフォローにも問題はあったのだろうが、きっと彼は腸の動きが鈍っていて、かつ冷えと年齢的なものとが重なってガス腹、鼓腸症になってしまったんだろう。その部屋はエアコンをいれていて彼のケージの下にはパネルヒーターをひいていた。だが思いのほかエアコンは温まらなかったんだろう。
別の同僚は、年齢的なものもあって腸の動きが鈍ってたんだよ、歳もとしだし仕方ないよ、と慰めてくれた。実際、前に、普通に生活していて突然ガスがたまり亡くなってしまった個体がいた。だがそんなことは理由にならない。畜舎は隙間風が入るし、保温も今ある設備ではこれが限界だったかもしれない。でも保温の限界や個体の状態、年齢、そういったこと全て含めた上で判断しなければならなかった。判断できなければならなかった。悔いても悔やまれない。一瞬のミスが動物を死に導いてしまう。完全な判断ミス。自分を恨んだ。
今までどれだけたくさんの人が彼に関わったろう。わたしたちはそういった人たちの苦労や想い、すべてをしょって飼育している。それがこんなことで死なせてしまうなんて。             
動物飼育というのはマニュアルどおりにはいかない。どんなに詳しい飼育書でも実際の飼育はやってみないとわからない。飼育員はたくさん動物を死なせながら育っていく。たくさん死なせてたくさん後悔してたくさん覚えていく。彼の死を無駄にしない。彼のおかげでわたしはいろいろなことを学んだ。彼に感謝し、謝罪しながら、冥福を祈る。






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Last updated  2004.01.23 19:54:09


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