DarkLily ~魂のページ~

DarkLily ~魂のページ~

ドラゴン、街へ行く・第一話



 頭に手をやれば、存在感ありありな、くりんっと曲がりくねった大きな角に触れる。目に入った腕は、赤茶けた硬い鱗に覆われ、背にコウモリの羽、下半身は蛇のそれで、とぐろなど巻いてみたりして。

 いや確かに、でも、だけれども!

「ちょっ、いきなり人を邪神認定しないでください!」

「えっ、邪神は嫌ですか?」

「嫌って言うか、邪神じゃありませんから、って言うか、そんなの私には荷が重いですから!」

 ここはいわゆる死後の世界っぽいところ。

 できることならば、また女の子に生れ直したいと思っているけれど、このままでは人外転生まっしぐらな予感しかない。

「一体、私は何にされちゃうんだろう」

「ああっ、いえ、あなたが転生し、欲するままに振る舞えるよう、望みを叶えるために女神たる私はいます」

「あなたの望みは何ですか?」

「私――」




「もっと生きたかったな」




 瞬間、ぐっ、と声をこらえて目頭を押さえる。

 女神の男泣きって・・・

「持ち直すので、ちょっ、待っ、うえっ、ぐすん、はい、ええ、もちろんです、絶対に長生きできる、とびっきり丈夫な体を用意しますからね、ですから安心して他の望みをおっしゃってください、私に出来ることならどんなことでもかまいませんよ」

「えっ、じゃあ、えっと、それなら・・・」

「あの、友達を、その、つくってみたいな・・・って、何、号泣してるんですか、やっぱりいいです、今の無しでっ!」

「いえ、女神として、あなたの犠牲を伴った勇気に、報いなければなりません」

「ちょぉぉ、それはいいですから、代わりにっていうか、私、人になれますか?」

「はい、人にもなれます」

「女の子には?」

「お安いご用ですよ」

「良かったあ、一時は、どうなることかと思ったあ」

 ホッと、胸をなで下ろしていると。

「安心していただいたところで、恐縮なのですが、私からもひとつ、お願いしたいことがあります」

「女神様からのお願いなんて、私に、出来ることですか?」

「むしろ、あなたにしか出来ないといいますか・・・」

「私の角から、手を離してもらってもいいですか?」

 ・・・。

 ・・・えっ。

「えっ!、あっ、だって、ずっと何も言われなかったから、かまわないのかと思っちゃって」

「私も、どう対応すれば良いのかわからなくて、されるがままになってました」

「ごめんなさい、私、テンパって変なテンションになってました」

「ですよね、私も角に触れられたと思ったら、突如、邪神認定されて、心の平穏を見失いかけました」

「あうっ、すみません」

「気にしないでください、自分でも、っぽいかなあって、ちょっぴり思ってました。子供なんて、私の像を見ると泣き出しますからね。悪い子のところには、私が来るぞって、教育に一役買っていると思えば、悲しくなんて無いです。まあ、うっかり、モンスターの辞典に載ちゃった時は、さすがに笑うしかなくて・・・私、上手に笑えてますか?」

「大丈夫、笑顔、素敵です!」

「えへへ」

 マジで。

「本当に、慈悲深い女神様で良かったです」

「こちらこそ、会えて良かったです。あなたが最後まで抗い続けてくれたから、世界は救われました。なので――」

「女神として、あなたの犠牲を伴った勇気に報いなくてはなりません」

「私に、チャンスをくれる、それだけで十分です。どんな世界か楽しみ、早く見てみたいです」

「ええ、わかりました。それでは、転生いたしますね。おあつらえ向きに、世界で最強の体が、魂の無い状態で封印されていますから、フッフッフ、とっておきです」

「えっ、今、封印されてるって言いませんでした?」

「心配はいりません、その体のパワーなら、封印だってぶち破れますよ」

「いや、そういう問題じゃって、あれ、もしかして、これ、もう始まってる!」

 ふわり、ふわりと、光の粒が体から立ちのぼり、見る間に、その数が増していく。

「あなたが救ってくれた世界を、どうか謳歌してくださいね」

「わああ、女神様、あり」

 やがて光が消え、一人、取り残された空間で、女神がそっとつぶやく。

「こちらこそ、ありがとうございました」

 そして、思い返すように、自分の角に触れて。

 小さな、ため息をこぼした。


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