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2026.08.22
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カテゴリ: Novel
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・森沢明夫の『ロールキャベツ』は、大学生たちの「チェアリング」という小さな遊びから始まり、仲間との出会い、恋愛、挫折、そして自分たちの力で何かを生み出していく過程を描いた青春小説だ。徳間書店から刊行された作品で、主人公は大学2年生の夏川誠。夢も趣味もなく、どこか人生に受け身だった彼が、椅子を持って好きな場所で過ごす「チェアリング」と出会うことで変わっていく。作品紹介でも「青春起業小説」と位置づけられている。

主人公は大学二年生の夏川誠、通称「マック」。将来やりたいことがあるわけでもない。熱中できる趣味があるわけでもない。大学生活をそれなりに送りながら、どこか自分の人生を他人事のように眺めている。そんなマックの前に現れるのが、「チェアリング」という不思議な遊びだ。チェアリングとは、椅子を持って好きな場所へ出かけ、そこに座って景色や空気を楽しむだけの行為。何か特別なことをするわけではない。ただ、好きな場所に椅子を置き、そこにいる。

・この一見すると何の生産性もない遊びが、マックの人生を少しずつ変えていく。

料理が得意な風香、事故によって義足となった一方で歌に才能を持つ「パン子」らと出会い、チェアリングを通じて仲間になっていく。さらに、マックと同じ「シェアハウス龍宮城」で暮らすデイトレーダーのミリオンや、おいしいコーヒーを淹れるマスターも加わり、仲間たちは「チェアリング部」のような集まりをつくっていく。

・最初はただ椅子に座って楽しむだけだった。しかし、人が集まれば、そこには会話が生まれる。料理が生まれる。音楽が生まれる。そして、「これを誰かに届けたい」という思いが芽生える。やがて彼らは、趣味として始めた活動を、仕事や新しい挑戦へとつなげていく。青春の時間を楽しみながらも、それぞれが抱える過去や悩み、将来への不安が少しずつ表面化する。

・本作の出発点は、極めて小さい。椅子に座る。景色を見る。仲間と話す。食べる。笑う。それだけだ。しかし、この「何もしない時間」が、マックにとっては人生を動かす最初のきっかけになる。ここが本作の重要なところだ。現代では、若者に対して「夢を持て」「やりたいことを見つけろ」「市場価値を高めろ」といった言葉が大量に投げかけられる。だが、マックには最初から明確な夢などない。むしろ、何をしたいのか分からない。だからこそ、チェアリングという目的のない行為が重要になる。 人生は、最初から大きな目的を持って始める必要はない。 誰かと時間を過ごす。面白いと思えるものに触れる。少しだけ好きなことをやってみる。その小さな積み重ねから、「やってみたいこと」が後から見えてくる。

・タイトルの「ロールキャベツ」は、作品の人間観を象徴する言葉として読むことができる。ロールキャベツは、外側のキャベツが中身を包み込む料理だ。人間も同じように、外から見ただけでは分からないものを内側に抱えている。一見すると普通の大学生。しかし、その内側にはそれぞれの事情や傷、才能、夢がある。特にパン子の存在は、そのことを象徴している。事故によって義足になったという過去を抱えながら、歌という自分の才能を持っている。人間を外見や経歴だけで判断することの危うさが、物語の中に自然に織り込まれている。

『ロールキャベツ』の最大の魅力は、成功そのものではなく、 成功する前の時間 を大切に描いている点にある。ビジネス書では、成功した起業家の話が語られる。

しかし、その人がまだ何者でもなかった時代については、あまり語られない。本作が描くのは、その「何者でもない時代」だ。夢がない。自信もない。将来も見えない。それでも、誰かと出会い、何かを面白いと思い、少しだけ行動する。その繰り返しによって、人生の輪郭ができていく。これは30代、40代になった読者にも重要な示唆を持つ。大人になると、「自分はもう何者かになっていなければならない」という焦りが強くなる。しかし、人生は必ずしも一直線ではない。

・そして、「ロールキャベツ」というタイトルが象徴するように、人間は外側から見える肩書だけでは分からない。その内側には、まだ本人さえ気づいていない才能や思いが包まれている。 人生を変えるのは、必ずしも大きな決断ではない。誰かと同じ場所で笑った、そんな小さな時間が、あとになって人生の芯になることがある。 『ロールキャベツ』は、そのことを爽やかに、そして少しだけ切なく教えてくれる青春小説である。


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Last updated  2026.08.22 00:00:08
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