=∴PINKs 2dent ∴=

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*フツウガホシイ*


『フツウガホシイ』

 餌をねだる仕草が気に入らなかった。引きつった笑顔は見る者に不快感を与え、顔に似合わず甲高い声がひどく耳についた。愛されたいが故の作為性を感じる度に、信子はいつもその姿に絶望した。不細工な猫は信子そのものだった。
 外見を補うだけの能力や個性を手に入れる事が出来たほんの一部の人達を除けば、不細工はそれだけで罪なのだ。特別な美人でなくていい。別に賞賛を浴びたい訳ではない。只、普通に愛される顔を信子は切実に欲しがった。そんなささやかな夢でさえ、今のままでは永遠に夢のままかもしれない。
 ペットはそこにいるだけで可愛いなんて大嘘である。何年経っても愛される事のない醜い飼い猫が全てを物語っているではないか。信子は強迫観念にも似た思いで、退職金をなけなしの貯金を掻き集め、愛される女の顔を買い求めた。
 こんなにも変わるものなのだろうか。信子は自分の目を疑った。表情には自然と笑みがこぼれ、見慣れた町並みも色が増えたみたいでいちいち新鮮だった。不細工な顔は過去と共に捨てて、新しい出発を心から望んだ。だから先ず、醜い猫を不必要なものとした。耐えられなかったのだ。信子は何の躊躇いもなく猫を殺した。
 「あたしは猫じゃない。あたしは猫じゃない」取り憑かれた様に繰り返しつぶやく新しい顔は醜く歪んだままだった。

                          (猫・夢・絶望/800字)


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