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Dec 22, 2007
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去年のイブもこのライブハウスで演奏していたっけな。その時はオレ一人のアコースティックライブだった。
でも今年は他のメンバーも一緒、バンドとしてのライブだ。
だけど去年と違うのはそれだけじゃない。…彼女がいない。いや、いるかも知れない。でも、ここからではそれも分からない。
オレは歌いながら客席をそれとなく見回す。暗くてよく分からないな…。

彼女はいつも派手な服装で客席の一番前ではしゃいでいた。元気な明るい女の子という印象だった。実際オレのギターに合わせて飛んだりハネたり…と、ステージの上のオレですら彼女に引きずられてノッてしまうこともよくあった。
それが、去年のイブのライブの!あのインパクトだよ!まいったね…。
あの時の彼女はシックな服装で1番後ろのテーブル席に座ってオレの歌にじっと耳を傾けていた。最初は誰だか分らなかった。オレのギターにあたって反射した照明が、彼女のネックレスを輝かせた。そのチカチカが気になってオレは初めて彼女だと認識したんだ。
ライブが終わって客を見送る時、彼女に声をかけて、話をするようになって、いつしかオレたちは付き合うようになっていた。


それでもオレたちはお互いうまくいっていたと思う。
今すぐには無理でも、いつかは2人一緒の未来を…と、思い描くことは付き合いの長さなんかじゃなかった。少なくともオレにとっては。あの頃は、同じ場所に一緒に立って、同じ方向を見ていると思っていたんだ。
そんな彼女との時が楽しく充実していたころ、桜が咲き誇っていたころだな。オレたちバンドにメジャーデビューの話が舞い込んできた
オレは賛成だった。けど、他のメンバーの2人は反対、1人は中立と、バンド内で話し合ってもなかなか進展していかない。
今はまだそんな時期でない、純粋に音楽を楽しみたいと考えるメンバーとは対照的に、オレは彼女とのことが頭にあって、どうしてもメジャーデビューしたかった。
バンド内での意見の対立を彼女には知られたくなかったオレは、彼女の前でも不機嫌な態度をとっていたかも知れない。いや、絶対に不機嫌だった。今から思うと、彼女はいつもオレの顔色をうかがっていたから。

夏の日の晩、オレと彼女はオレのアパートの近くの公園のベンチに座っていた。
ナマヌルイい気温に体がべたつき、暑くだるい夜にオレはウンザリしていた。
彼女がオレの気持ちを盛り上げようといろいろ話しかけてくるけど、オレにはそんな余裕がなくて、すぐに話が途切れてしまいがちで、気がつくと沈黙が2人を支配していた。
他のメンバーをなかなか説得できないメジャーデビューと、その後に続くオレと彼女の未来。そのことばかりが頭にあって、オレは思わず溜息をついてしまった。
その瞬間、何かを話しかけようとしていた彼女の表情が凍りついた。しまった!と思った。でも、オレは気がつかなかったふりをして、その場をやり過ごすしこと、しか、出来なかったんだ。

あの頃のオレはホント、余裕がなくて、彼女にも淋しい思いをさせていた。今のオレならそれが分かる。

そして、事は起きた。
涼しくなり始めたころ、オレのアパートに来ていた彼女と些細な口喧嘩をした。
たいした理由なんてない、本当に些細なことから喧嘩が始まった。いつになく彼女はキツイ言葉をオレに投げつけた。オレはカッとして言い返し、気が付くと別れの言葉を発していた。
「もう顔も見たくない!」…と。


ジ・エンド。あっけない終焉。
オレと彼女は終わってしまった。オレの本心でない言葉が彼女との未来を永遠に手の届かないものへとしてしまった。今だって彼女のことが好きだと思えるし、大切にしたいと思う。でも後悔したって遅いんだ。どれほど後悔したって無かったことには…できない。今でも彼女の泣きそうな顔が目に焼きついて離れない。

ヤバい!ライブ中だってのに…。彼女が好きだといってくれたラブソングを歌っていたら思い出してきちゃったぞ。オレは汗を拭うふりをして涙を止めた。

そして、ずいぶん迷ったんだけどオレは今夜のライブのチケットを彼女のマンションに郵送した。
「許してもらえるなら来てほしい。」と一言だけ添えてね。
でも、客席を薄目を開けて見た限りでは、彼女の姿は見えない。彼女が好んでしていたビーズのネックレス。薄暗い客席でも時々キラキラ輝くのがステージの上からも見えたっけ。でも、今夜はそれがない。彼女はここには、来ていない。
バンドの方は元のメンバーと一からやり直すことになった。今夜がその新たな第一歩だ。
仲間は戻ってきた。やっぱりメンバーとは友達だと思うから一緒にやり続けていきたい。
でも、彼女はオレを許してはくれないようだな。好きだけでは続けていけないものなのか。
仕方ないか。オレが別れようと言い出したんだし。

ライブが終わってオレたちは出入り口のところで観客を見送った。
みんな満足そうにしながら帰って行く姿を見て、オレはまた少し落ち込む。
去年は彼女がいた。ここで帰り際の彼女に声をかけて、オレたちは始まった。
彼女はビックリした顔でオレの顔を見ていたっけ。オレだってビックリしたよ。あんな積極的なことをこのオレができたなんて。オレは彼女がいてくれたことがたまらなく嬉しくて、精一杯の勇気をふりしぼって彼女に声をかけた。それだけ彼女と話がしたかったってことだよな。
でも、今年は彼女はいない。来てくれなかった。決して許してはくれないんだな…。
オレはなんてバカなんだろうか!失ってから何が一番大事なのかに気がついた。未練タラタラなんだけどさ。
あ~あ~、今夜はさっさとアパートに帰ってヤケ酒でもかっくらって寝てしまおう。
クリスマスなんて関係ないさ。オレはバリバリ仏教徒だったんだもんね。

最後の客を見送ってオレたちは控え室に戻ろうとしていた。と、その時に、バタバタと走ってくる足音が聞こえてきた。クリスマスイブの夜にロマンチックじゃないなと思いながら振り返り、オレは息をのんだ。

彼女だ!!

彼女が走ってくる!!チケットをクシャクシャに握りつぶしながら!!
オレのところにか?
見間違いじゃないか?
それともチケットを送ったオレに文句でも言いにきたのか?
逃げた方がいいのか?
どうするオレ!!
だけどオレは慌てて後ずさりしそうになりながらも踏ん張った。彼女の顔を少しでも見ていたいから。秋に別れた時とちっとも変っていない。ん?少しだけ痩せたかな?でもなんだか視界がグラついてきて、それさえもよく分からない!
彼女は体ごとオレに飛び込んできながら叫んだ!!

「もう離さない!!」 

               eines Tages


一年前の二人はこちらから…
クリスタルハートな恋物語1(彼女の場合)
クリスタルハートな恋物語2(彼の場合)





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Last updated  Dec 23, 2007 12:43:07 PM
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