
約一か月に渡って自分の駆け出しの頃の体験を綴ってきた。このエピソード集の最後は急病のエピソード・・・
ロンドンから始まったヨーロッパ周遊の旅はパリからスイスに入り、南ドイツからオーストリアのインスブルックへと順調に進んできた。今日から残りの三分の一はイタリアの旅。スイスのチューリッヒで出迎えてくれたドライバーのアントニオは生粋のローマっ子。底抜けの明るさはイタリア人ドライバーの中でも際立っていた。
「タキザワさん、峠を越えると明るいイタリア・・・」と、朝からご機嫌だったが、夏だというのにブレンナー峠は雪。そのうち、高速道路は渋滞し始め、俄かに気温が下がり始めた。すると、一人の年配のお客様の一人が私のところに来て、
「滝澤さん、友達のNさんが、寒くて腰が痛いと言っています。暖房を入れてほしいんですが・・・」と、
すかさず、アントニオに暖房を入れてくれるように頼んだが、バスはまだ暖房の切り替えができておらず、暖かくできなかった。具合の悪いNさんは一番後ろの席に横になってもらい、ドライバーが持っている毛布などを用意して寒さをしのいでもらったが、見る見るうちに顔が青ざめ、痛みと寒さで震えが止ま無くなり、友達が体を終始摩って落ち着かせようとしたが、あまり効果はみられなかった。バスはおよそ2時間ほどの渋滞で、ようやく動き出し、宿泊のベネチアに到着したのは夜の8時を回っていた。
ホテルに到着して、すぐにドクターを呼んで診てもらった。ドクターは英語ができなかったため確たる情報を得られなかったが、しきりにストーン、ストーンと言っていたことから胆石らしいことが分かった。次の問題は、ベネチアで2泊、フィレンツェで1泊、ローマで2泊、それから東京に戻るまでまだ1週間近い旅行に耐えられるかどうかだった。(つづく)