極上生徒街- declinare-

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矩継 琴葉

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2006.11.29
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カテゴリ: 小説

会社帰りに、係長に付き合い飲んで帰る。いつの間にかそれが日課となっていた、入社2年目の秋。これまた日課となった、泥酔し泣きじゃくる係長の家庭環境に対する愚痴を聞き、タクシーに乗せる。

「まt、rあいsyうkいしゃdn」

「はいはい、また来週会社で会いましょう。」

「また、来週会社でな」と言っているのだろうが、そう解釈しなければ分らない言葉を残し、係長が乗り込んだタクシーは発車した。タクシーが小さくなるまで見送ると、一息ついて帰路についた。単身赴任で、家族のことについて相当悩んでいる係長の話、というより愚痴をつまみにこんな時間まで飲んでしまった。現在深夜の1時過ぎ。シャッターが閉まりきった商店街を歩いていく。馴染みになった、ゴミを漁る野良犬を尻目に歩く。金曜、正確には土曜の深夜。それほど栄えていない、僕が住む街は人通りがまったくなく、会えるとすれば薄気味悪くなくカラスや新鮮な生ゴミに群がる猫や犬だけ。犬や猫たちは、喧嘩をしながら人様が食べれないと捨てた食物を然も美味しそうに貪っている。何だか、哀しくなる。

商店街を抜けると、一気に暗闇になる。夜でも、街灯が煌々とついているのは商店街や繁華街だけ。その光の道を抜ければ、一気に真っ暗で、あとはポツリポツリと寂しげに街灯があるだけ。照らしているのは「痴漢多発!」「ひったくり注意」といった物騒なことを書いた看板だけ。時々、うずくまっている親父がいればせめてマシと言えるだろうか。
そんな、寂しい通りを足早に進み住宅地へと抜けた。住宅地の通りは、家々の街頭もあり程よく明るい。しかし、灯りを頼るのに家の前を通る時、車の盗難防止だろうか、何かの警報センサーが作動してそれがビービーなるのには困る。泥棒でもないのに、泥棒のようにセンサーを掻い潜る様な動くを取る為に、歩道を右へ左へ動いてしまう。目撃者がいたら、真っ先に犯人候補に挙げられそうだ。

要らぬ心配をしながら、住宅地をふらふら歩きながら奥に進み、坂を上り古びた長い階段に着いた。これも、ニュータウンの宿命と言うのか、郊外にあるニュータウンと呼ばれる地域の多くは、山の斜面を利用して住宅地が作られていることがある。ここもまた、その部類なのだ。
駅から徒歩10~15分。坂を上り、また坂を上り、階段を登りきり、公園を抜けた先が僕の住むアパートだ。もっといい物件もあったのだろうけど、生憎駅から徒歩数分はほぼ満杯。
最寄の駅は、急行や特急が止まる為、駅の近くの賃貸住宅の家賃はものすごく跳ね上がる。
社会人になったとはいえ、月10万以上を家賃に使えるほど貰っているわけでもない。結果、山の頂上とも言えるアパートに住んでいるわけである。

疲れと酔いが回っている体を押して、苔だからけの階段を登っていく。この階段、元々山の頂上付近にあった、神社の境内に向かうものだったらしいのだが、開発と同時に神社は移築されこの階段だけが残ったそうだ。新築の住宅街には不似合いな階段だ。
息を切らしながら階段を登りきると、神社跡に作られた公園にたどり着いた。昼間なら、楽しく笑う親子の声が聞こえ、子供達が走り回っているのだろうが、今は無駄に不気味な象を模した滑り台や馬の首から先がくっついたシーソーがあるだけだ。
息も整ったところで、さっさと通り過ぎてしまおうと歩を進めたとき、ふと目の端に白いものが映った。白い何かが、風になびきフワフワとしている。
恐る恐る、白いものがいる方向を見てみた。ぼんやりとしていて、霧か靄のようで形を成しているようで成し切れていない。しばらく、凝視していると白い靄がはっきりと見えてきた。月の光を返す長い髪、秋風になびく季節に合わないワンピース、月を見つめる美しい瞳をした真っ白な女性だった。『幽霊』その単語が頭の中に、真っ先に浮んだが『恐怖』という連動する感情はなかった。哀しそうな眼で月を見上げている彼女に、そんな感情が沸くわけもなかった。

「・・・誰?」

突然、彼女が気づき振り返った。まだ、幼さが残る顔を涙が頬を伝っていた。


「・・・・私が見えるんですか?」

「う、うん。さ、寒そうだね。」

訳の分らない答え方だった。でも、かすかに、かすかにだが彼女は嬉しそうに笑った。幽霊っぽくない彼女を見て、僕も何だかおかしくなり笑ってしまった。これが、彼女との出会いだった。






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最終更新日  2006.11.30 15:31:29


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