極上生徒街- declinare-

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矩継 琴葉

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2007.05.27
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カテゴリ: 小説

 甚雨が少年の頬を叩いた。
 どのくらいだろうか、意識を失っていた。
 気がつくと地面に仰向けに横たわり、着ていた服は泥にまみれ、一部の記憶がなかった。記憶が途切れる前までは、確か道の無い森の中を懸命に歩いていた。
 再び歩き出そうと立ち上がるが、足は言うことを利かない。それが、どれだけの距離を歩いたのかを証明していた。
 最初の晩は必死に走り、食事を採ることも睡眠をとることもせず、一刻も早く「あの場から離れたい」と闇雲に走り続けた。方角も分らないまま、山を越え森をいくつか越え、陽が2回登った。日が経つにつれ、体は軋み始め、足の豆はつぶれ、走ることができなくなった。そこから歩き出し、気がつくと仰向けに横たわっていた。どうやら意識が無いまま歩き続けていたらしい。手や足に無数の切り傷がある。それに横たわっていたせいだろうか、疲れが一気に溢れ出し体を痛めつけていた。
 立ち上がることができても、今までのペースで歩くことは到底できない。無理をして一歩を踏み出すが、自重を耐え切れずに膝が笑い崩れる。深い森の中、人気もなく人家すら見えない状況。死を覚悟した。そして自分が非常に滑稽に見えた。
 何のために走ったのか、「逃げ出した」のか。仲間が犠牲になった意味は何だったのか。自嘲と涙が溢れ出し、再びその場に倒れこんだ。
 次第に瞼は重くなり、雨の冷たさを感じていた感覚は無くなっていった。


(アマノ…すまなかった…)

 薄れいく意識の中、藪が激しく動く音と男の声が聞えた。


「こいつが……」


 もはや動くことも叶わない。
 声の男が敵か味方かなどどうでも良かった。
 待っているのは、どうせ同じ結末なのだから…。






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最終更新日  2007.05.27 23:14:46


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