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テーマ: 無情(53)
カテゴリ:
Speleothem

八つ墓村予告編NO.3
http://www.youtube.com/watch?v=wrq_MyEmgag




http://plaza.rakuten.co.jp/finlandia/4001

   これは、西暦1331年から2009年に起きた出来事である。



横溝正史著『八つ墓村』「発端」より

  永禄九年七月六日、雲州富田城尼子義久が、
 毛利元就に降って月山城を明け渡したときの
 宗徒(むねと)の公達(きんだち)で、
 この降服に肯じなかった若武者一騎、
 七人の近習をしたがえて城を落ちのびた。  
 伝説によると、その時一行は他日の再挙を期して、
 馬三頭に三千両の黄金を積んでいたという。
 そして河を渡り山を越え、辿りついたのがこの村であった。

  はじめ村人は快く、八人の落武者を迎えた。
 落武者もまたこの山奥の素朴な人情に安心して、
 しばらくここに仮りの宿りと定め、
 土民に姿をやつして、炭焼きなどをはじめた。

  幸いここは山も深く、かくれ家に事欠くようなことはなかった。
 さらにまた、いざとなれば鍾乳洞という恰好のかくれ場所もあった。
 このへん一帯の地層は、石灰岩から出来ているので、
 渓谷へおりると、いたるところに鍾乳洞がある。
 なかには八幡の薮知らずみたいに、
 誰もその奥底をさぐったものがないという、深い洞窟もあった。
 それらは討手が押し寄せた場合、
 究竟なかくれ場所になるだろうと思われた。
 あるいは八人の落武者が、この村をしばしの宿と定めたのは、
 こういう地形を勘定に入れたせいかもしれない。

  こうして半年あまりの歳月は、落人のうえにも平穏無事に打ち過ぎた。
 村人とのあいだにも、悶着は起らなかった。
  ところがそのうちに、毛利方の詮議がしだいにきびしくなって来た。
 そして詮議の手はついにこの山奥までのびて来た。
 それというのが落人の大将というのが、
 尼子の一族でも聞こえた豪の者であったから、
 そういうものを生かしておいたら、他日、
 どのような禍の種になるかも知れぬと考えたからである。

  落人がかくまわれている村の人たちも、
 しだいに自分たちの立場が不安になって来た。
 それに毛利方の提出した褒美の金に目がくれた。
 だが、それよりもかれらがもっと心をひかれたのは、
 馬に積んで来た三千両という黄金である。
 落人全部を殺してしまえば、
 誰もこの三千両のことを知るものはあるまいと思われる。 
 いや、たとえ毛利方で知っていて、
 黄金の詮議があったとしても、知らぬ存ぜぬ、
 そのようなものは見たこともございませぬと言い張れば、
 遁(の)がれられぬこともあるまいではないか。

  村の人々はそこでよりより評議した末に、
 衆議が一決したところで、ある日、ふいに立って落人を襲うた。
 落人はそのとき全部、山の炭焼小屋に集まって、
 炭を焼いていたところだったが、
 それを取りまいた村人は、三方から枯草に火を放ち、
 まず落人の退路をたっておいて、
 究竟の若者たちがてんでに山刀、竹槍をふるって炭焼小屋を襲撃した。
 乱世のこととて、土民たちも戦(いくさ)のすべは知っていたのである。

  落人はふいをつかれた。
 かれらはすっかり村人に、心をゆるしていた折柄だけに、
 この襲撃は寝耳に水だった。
 場所が山の炭焼小屋であっただけに、槍刀の用意もなかった。
 それでもありあう鉈(なた)、斧(おの)などをふるって戦ったが、
 多勢に無勢で、所詮勝味はなかった。
 一人討たれ、二人討たれ、ついに一行八人、
 ことごとく土民の手にかかって死んだのは、
 まことにはかない最期であった。

  村人は八つの首級(くび)をはねると、炭焼小屋に火を放ち、
 勝鬨(かちどき)をあげて引き揚げたが、
 言いつたえによると、八つの首級はいずれも無念の形相物凄く、
 見るものをゾッとさせたということである。
 わけても若大将の無念はひとしおで、土民の手でズタズタに斬られ、
 血みどろになって息を引きとる間際まで、
 七生までこの村を祟ってみせると叫びつづけたというのは、
 いかさま、さもあるべきことであろう。

 (『横溝正史自選集3 八つ墓村』出版芸術社 P.8 ~10 )






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Last updated  2010年03月04日 23時21分38秒


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