五大堂


今年は年始の挨拶すら出していない。

心のどこかでひっかかりつつも、筆をとる気にならない、というのが正直な気持ちだった。

山寺に降り立って、さまよっている時に、ここに泊まったら必ず手紙を書こうとなぜか決めていたのだ。

そのために宿で葉書を買い込み、かばんに潜ませていた。

後は、書きたくなる場所だけ揃えばよい。


奥の院から、山寺の展望台といわれる『五大堂』へ向かう。
急な斜面をよじ登ると、屋根つきの立派な道場が現れた。

扉はなく、雪が吹き込んでいるが、そこからの眺めはちょっと説明できない。
山寺の町が一望でき、遠くの山もはっきりと見渡せる。

「ここだ、ここしかなーい!」と、私は濡れた長靴をぬいで、靴下だけの足はザックに押し込んだ。
そして、マフラーをお尻の下にしいて、座り込み、おもむろに葉書を書き始めた。

2時間近くいただろうか。
指がかじかんで、感覚がなくなってくるぐらいだから相当いたんだと思う。
その間、道場には日が射し込んだり、曇ったり、雪が強くなったり、弱まったりしていた。

私は総計12通の葉書を書き上げ、満足して山を後にした。

五体閣

12通の葉書をかきあげた五大堂の中。
雪がふきこんでいる。
途中、やってきた参拝者は、ザックに足を突っ込んで葉書を書く自分を妙な目で眺めていった。
遭難者にでも見えたのかもしれない。。


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