ふらっと日記

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六月の物語

water





六月の物語



            鳥もとばないけものもいない植物だけが繁る山
            林だった つる草の先端はからみつく異物を探
            って宙をうごめき 樹々の新芽はみどり子のし
            ずくをはらんで乳白色の息を吐く 水気の匂い
            ただよう奥深くに縊死の人のゆれて棲む廃屋が
            けむる


                            雑草の道に
                         ささめきをおこし
                           細い根の先を
                       のびやかのふるわせて
                        カラマツの樹が歩く


            廃屋をとらえたつる草がくずれた壁にまねかれ
            て這いのぼる あおい分裂の反芻にゆだねられ
            たかたちのない一塊の穴のなか 語られなかっ
            た言葉のような薄緑色のかげりこもれび 縊死
            の人のなみだはかなえられることなく 語られ
            た言葉のくらがりに落ちて行く


                         カラマツのちから
                          つきて横たわる
                         眠りから水が湧く
                          さらさらと川の
                             みなもと


            梅雨前線がせめぎあうひび割れた上空より も
            れる光をいっしんに受けとめて 白いつり鐘状
            の草の花うつむいてひらく 濃い闇の夜にはつ
            り鐘をうすくはじかせた最初の陽光のひびきが
            聞こえるという 雨期のこの地にだけ咲く花


                            カラマツの
                          水は林にあふれ
                            花を沈める
                          縊死の人の綱は
                             まぼろし
                            まぼろしは
                            ながれない
                               傷み












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