箸をとめたまま、もの思いにふけっていたから、
かぐや姫が心配そうに僕をのぞきこむ。
「何を考えてるの?」
「何も。」
と言っても信じないよな。
「明日はその展望台に行こう。」
「嬉しい。ありがとう。」
なんでそんなのが嬉しいんだろう。
無邪気に喜ぶ彼女を見ていると、
「少しでも月に近いほうがいいのかい。」
つい皮肉っぽく言ってしまう。
「そうじゃないわ。
ただ自然の中に帰りたいの。」
彼女の言葉が消え入りそうになる。
「ごめん。責めるつもりはないんだ。」
僕まで弱気になっちゃうじゃないか。
また、沈んだ雰囲気になってしまった。
こんなままで別れるのは嫌だな。
「夜の散歩に行こうか。」
食事の片付けもそのままに彼女を連れ出した。
月夜の晩にかぐや姫と散歩もしゃれてるだろう。
明日が満月だけど、
今日もほとんどまん丸に近い。
少しだけ欠けてるところが
今の僕たちみたいだな。
どことは言えないけど、
足りない気がするのだ。
彼女も月を見上げながら、
立ち止まってしまった。
明日はあそこからお迎えか。
昔、帝が兵を大勢揃えても
月の使者には敵わなかったのだ。
僕一人が抵抗しても無駄なんだろうな。
彼女こそ、何を考えてるんだろう。
月を見てる彼女の横顔を見つめながら、
ぼんやり思っていた。
急に僕の方を向いたかと思うと、
小鳥のように僕の唇をついばんだ。
あっけに取られていると、
微笑みながら後ずさりする。
危ないから、手で支えようとすると、
くるりとひるがえって、逃げてしまった。
追いかけようと思うのに、
なぜだか足が動かない。
手だけが虚しく宙をつかむ。
一体どうしたんだろう。
彼女がどんどん遠ざかる。
振り返って手を振るくせに、
戻ってきてはくれないのだ。
このまま月に帰ってしまうのか。
大声で彼女を呼んだら、
その声で目覚めてしまった。
夢だったのか。
それにしてもいつの間に眠ったのか。
布団に入っているのだ。
起き上がって見ると、彼女もベットで寝ている。
もう朝なんだな。
最後の一日の始まりだ。
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