MUSIC LAND -私の庭の花たち-

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「十三夜の面影」30








一人で山登りはきついな。

大した山ではないけど。

十五夜の時は、かぐや姫と一緒だったから、

もうすぐ離れ離れになると思っても、

いや、だからこそ、

居てくれるだけでよかったのだ。

十三夜の今日、一人で同じところを登っていると、

まざまざと浮かんできて、切なくなる。

彼女がいないことを思い知らされるのだ。

ようやくお昼を食べた場所に着き、一息つく。

コンビニ弁当を買って、一人で食べるのはわびしい。

かといって、何も食べないのでは持たないしな。

さっさと食べて、また無心に登り始めた。

涼しいというより、寒くなってきた。

もう汗ばむことはない。

それでも、歩き続けていると、

体が温まってきて、力が湧いてくる。

うちに閉じこもっているより、ずっといいな。

木々の間から日が差し込み、

足下をちらちらと照らす。

枯葉が舞い、行く手をさえぎる。

それでも進むしかないけど。

前より早めに頂上に着いてしまった。

これから、一人で夜を待つのも辛いなあ。

展望台から街を見下ろすと、

なんて小さいのだろうと思ってしまう。

人間なんてとても見えない。

くよくよ考えてても仕方ないんだよな。

月から見て、地球の人間が見えるわけがないと思うのだが、

かぐや姫は人間じゃないからな。

宇宙人なのか、なんて思ってしまう。

そうとも思えないのだが。

まあ、月の精というところかな。

夕焼けが辺りを包んできた。

ようやく夜が近づいてくる。

まだ月はぼんやりとしか見えないが、

確かに満月に近い。

あそこに彼女がいるんだよなと見つめていると、

かすかに動くものがある。

それがだんだん大きくなり、

彼女の顔に見えてくる。

また幻覚が見えるのか。

そして幻聴まで。

「来てくれてありがとう。

約束を守ってくれたのね。

十三夜の今日だけ逢えるの。

私はもう地球に行けない。

たとえ行けても、またあなたを苦しめるだけ。

もしあなたが月に来てくれたら、

私たちは永遠に一緒に居られるのよ。」

彼女が微笑みながら答えを待っている。

そんなことが出来るのだろうか。

「地球人と月の精は交われないのではなかったのか?

月には空気も水もないから、僕は生きられないよ。」

一緒にはいたいけど、不安になってしまう。

それに地球にも未練はあるのだ。

「心配しなくても大丈夫よ。

私があなたを守るわ。」

僕に手を差し伸べる彼女。

その手を取っていいものか。

この一ヶ月の生活を思い出した。

抜け殻のようになってしまった日々。

またそれを繰り返すのか。

それなら彼女と月に行くのもいいかな。

白い手が伸びてくる。

僕がその手をつかむと、

細いくせに力強く引っ張るのだ。

僕はただその手を頼りに空を上っていく。

このまま月まで行くのだろうか。

彼女の片えくぼを見つめているしかなかった。







翌日、展望台で死んでいる男が発見された。

見つけた人が不思議に思うほど、

その男の顔は幸せそうだった。

彼の魂は月に上ったのだろうか。

(終わり)









































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