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MUSIC LAND -私の庭の花たち-
童話「ベラのペンダント」5
どう行ったらいいかも分からない・・・
ただ隣国との境の関所に向かうのみ。
関所にはパスポートのような通行手形が必要と聞いたけど、
少女のベラがそんなもの持ってるわけもない。
祖母の荷物を探したが、それらしいものも無かった。
ただあったのは、聖書とお伽噺のような絵本があっただけ。
とりあえずそれを持ってきたけど、何かの足しになるだろうか?
不安を抱えながら、重い足取りになるのを、
空を見上げて、振り切った。
まだ太陽は昇ったばかり。
青空が広がっていた。
今朝は変わった夢を見たせいか
早く目覚めてしまったから、
荷造りして出発しても、まだ昼にはなってない。
そういえば、朝もろくに食べていなかった。
思い出したら急にお腹が空いてきた。
確か、サロが持たせてくれたお握りがあったはず。
最初で最後の親切と言って、サロがくれたものだ。
道の端に生えてる大木に寄りかかり、
お握りをほおばったら、
サロのことが思い浮かんだ。
冷たいかと思えば、たまに優しくしてくれる
わけのわからないおばさんだ・・・
まあ、私も懐かない
可愛げのない子どもだから仕方ないけど。
祖母も厳しかったから、甘えられなかった。
甘える方法を知らなかったのだ。
同年代の少女が遊んでる時も、
家の手伝いや勉強をさせられた。
お蔭で祖母が病気で倒れても、
家事では困らないほど鍛えられてはいたが。
また、貧しい家の少女には不似合いなほど、
本を買い与えられ、勉強させられた。
どうせ上の学校には行けないのだから、
そんなに勉強する必要ないのに、とも思ったが、
本を読むのは好きだったから、
一人で部屋にこもって読んでいた。
家事さえ終わらせれば、何をしようと
祖母は何も言わなかったのだ。
祖母だと信じていたけど、
やはり何か違うと感じていたのか、
普通の子どもがおばあちゃんに甘えるようには
甘えられなかったのだ。
一体、あの人は私の何なのだろう?
年は確かに祖母くらいの年だけど。
私の父母は亡くなったと言っていたが、
実際には息子も娘も居なかったらしい。
本当の父母が隣国に居ることも
死ぬ間際まで教えてくれなかった。
近所付き合いもろくにせず、
時々、隣のサロと挨拶する程度。
だから、ベラが旅立つと言っても
サロしか見送りにきてくれない。
学校の友達とは、距離を置いてきた。
何でも一緒に行動するのは嫌いだったから、
休み時間も本を一人で読んでいた。
放課後も家の手伝いや勉強で、
遊ばなかったから、そんなに親しい友達は居ない。
もちろん挨拶や話はするけど、それだけ・・・
淋しいけど、集団の中で孤独を感じるくらいなら、
最初から一人の方がいい。
そんなベラに一人だけ近づいてきた子どもが居た。
他の子ども達が遠巻きにベラを見ていたとき、
ユリウスという男の子が髪を引っ張ったり、いたずらするのだ。
ベラは長い髪を三つ編みにしていた。
ラプンツェルとあだ名されてたのも知ってたけど、
無視していたのだ。
でも、あまりにしつこく引っ張るユリウスに、
思わず「髪を伝って塔まで昇ってきたいの?」と
怒鳴ってしまった。
あまり口をきかないベラだから、
みんなは驚いてベラを見たが、
一番驚いたのは怒鳴った当人だった。
大きな声を上げるなんて恥ずかしいことと
祖母から教えられてきただけに、
赤面してしまい、教室から逃げ出した。
ベラを追ってくるユリウス。
それに気が付き、ベラは振り返りざまに尋ねた。
「なんで、そんなに引っ張るの?」
「ごめん、綺麗な髪だから触りたかったんだ・・・」
亜麻色のベラの髪は確かにこの辺では珍しい。
ほとんどの人が黒髪だったから。
ベラは戸惑ってしまったが、
「そんなこと言っても駄目よ!もう触らないでね。」
と、わざと強く言った。
「わかった・・・」
そう言いながら、帰っていくユリウスを眺めながら、
ベラは無意識に自分の髪を触って確かめていた。
うちに帰って、ベラは祖母に尋ねた。
「なんで私の髪の色だけ他の人たちと違うの?」
祖母もまた黒髪だったのだ。
「そんなことを聞いてどうするんだい?
髪の色なんて関係ないだろう?」
と素気無く、相手にもされなかった。
祖母はいつもこうだったから気にも留めてなかったが、
改めて思えば、この髪の色も父母譲りなのだろうか?
これも手がかりになる!と思い、
ベラは勢いよく立ち上がった。
もうお腹も一杯になったし、
早く関所まで行こう。
お腹が空いてたから、
気持ちも暗くなってしまってたのかな?
ペンダント、おくるみ、髪の色と
父母を探す手がかりが増えてきた。
そう思うとなんだか光が見えてきた感じがして、
嬉しくなってくるのだ。
ベラはスキップを踏むように歩き出した。
山に日が落ちそうになっても、
まだ歩き続けた。
そのとき、誰かが後ろを歩いてるのに気が付いた。
振り返るとそこには、あのユリウスが立っていた。
「なぜこんなところに居るの?」
「ベラがどっか行っちゃうって聞いたから、
ついてきたんだ。」
「足手まといだから帰って!」
「一人で淋しくないのかい?」
「淋しくないわよ。いつも一人だったんだから。」
ベラが言い放ち、ユリウスを置いて歩き出す。
それでも、ユリウスはついてくる。
ベラは放っておこうと思った。
そのうち諦めて帰るだろう。
「暗くなってきたね。
どこか泊まるところを探そうよ。」
急にユリウスが話しかけてきた。
ベラが無視していると、
ユリウスはベラを追い抜かし、
先の方の灯りが見えた家の戸を叩いた。
「すみませんが、泊めてもらえないでしょうか?」
「悪いけど、狭いから泊められないよ。」との声。
「それでは、馬小屋でも牛小屋でもいいですから!」
とユリウスは哀願した。
「そこの羊小屋で良かったら、勝手に泊まりな」
「ありがとうございます!」
ユリウスがベラに駆け寄り、
「羊小屋に泊めてくれるって!」と叫んだ。
「聞こえてたわ。」
わざと冷たく言ったけど、
内心ホッとしていた。
私にはあんな風に頼むことは出来ない・・・
野宿でもいいと思っていたけど、
夜露がしのげて良かった。
でも、顔には出さないように気をつけた。
ユリウスを調子付かせてはならない。
「やっぱり二人の方が心強いだろう?」
「そんなことないわ。」
強がりを言うベラ。
「とにかくもう寝よう。疲れたよ。」
横になると、もう寝息を立ててるユリウス。
あきれながらも、その寝顔を見ながら微笑んでしまった。
「続き」
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