PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

tajim

tajim

Feb 9, 2006
XML
カテゴリ: 簡単な言語学
今学期は「借用語」を扱ったセミナーに出ています。
昔からあるテーマですが、最近は特に流行りだとか。(言語学にも流行があるんです。)
日本語は特に借用語が多いし、また日本語の音韻構造が世界の言語の中でも単純な部類に入るので、研究者にも人気です。
簡単に言うと、外国語が日本語に入るとどういう形に変わるのか、と言うのが興味の対象。日本語にあり得ない構造は日本語風に変化するわけです。

一番簡単なのが、挿入母音。
日本語は子音+母音の構造が基本で、子音+子音の結合、および語末の母音+子音を許しません。英語の「street」のような形に出くわすと、母音を挿入して子音+母音の形を保とうとします。

s(u)t(o)riit(o)

と言うわけです。挿入母音は基本的に「ウ」ですが、tおよびdの後は「トゥ」「ドゥ」が出来ないので「オ」になります。

他によく聞くのが、促音の後の濁音ですね。


こういう例は基本的な話なので、それほど珍しいことでもありません。
それよりも問題なのは、日本人が耳で「聞いて」外国語を取り入れているのか、目でつづりを「見て」取り入れているのか、ということ。
日本人がbedを「ベット」と発音する時、そもそも日本人の耳には語末の有声音dが聞き取れていないのかもしれないからです。
carrot は「キャロット」、caratは「カラット」として日本語に入っていますが、英語では両者の発音は全く一緒です。だとすると、綴りが影響を与えている可能性が高い。音韻学者としては、つづりの影響のない状態で日本人の耳がとらえる外国語を扱いたいわけですが。

昨日読んでいた論文は、このつづりの影響を調べたものでしたが、面白い例がありました。日本語には江戸時代や明治初期に日本語に入った借用語と、もっと最近に入ってきた借用語があり、時には同じ単語が二度違う形で借りられているというのです。
プリンとプディング、サーフィンとサーフィング、リスリンとグリセリン、ラムネとレモネード、などなど。これを調べていくと、昔の借用語はつづりを目にしないで耳で聞いて借りたものだという説明ができる。確かにpuddingという英語を耳にすれば、プディングという三音節の音より、プリンという二音節の音のほうが元の形に近い。語源がアメリカ英語だとすると、ddも実際に日本語の「リ」に近い音で発音されていたはずです。でも、語末のgはどこに行ったのか。やはり日本人の耳にはある一定の音が聞こえない、という意見が出てくる。子音+子音の連続も聞こえないので、リスリンのように子音を一つだけにする形で借り入れることになる。
新しいバージョンはつづりを目にした結果、修正が加えられて出来たもの、ということになります。

さらに面白いことに、最近の研究では日本人が外国語を聞いて挿入母音をするとき、日本人の耳には実際その母音が「聞こえて」いるという説があります。streetと聞いて「ストリート」と言い換える時、日本人の耳には実際sutoriitoと聞こえているのかもしれない、ということ。確か、ebzoとebuzoという二種類の発音を日本人が聞き分けられなかったとか、両方ebuzoと聞こえるとか、そんな研究があった気がします。これは個人的に私も経験があることなので、さほどいい加減な論理でもないような気がしますが。

そういうことを考えていくと、もともとは借用語の話だったのに、英語学習の話にも関わってくる気がします。日本人が英語を借用する過程は、日本人が英語の発音を真似する過程と似ているからです。
でも一定の音が「聞こえない」とか、ないはずの音が「聞こえる」とか言われちゃうと、なんだかやる気がそがれてしまいますね。でも、つづりを見る前と見た後の借用の形を比べると、つづりを見ないほうが原語に近い音を保っているとも言えます。英語の発音は綴りとは全く一致しないものですが、変につづりを目にしてしまうことで耳で聞いたものに修正が加わり、特有の「日本人英語」が生まれるのかもしれません。そういえば昔、全くテキストやつづりを使わないで聞くことと真似ることだけで語学を教えるという方法がありましたが、実はその方が原語に近い発音を身につけられるのかもしれませんね。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  Feb 10, 2006 01:15:45 AM
コメント(0) | コメントを書く
[簡単な言語学] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: