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結構前に
記憶の隅っこに残ってたものを文章にしたことがある。
『虹。』
そんな曖昧だったのものを
見つけた。
思い出したんだ。
そうそう。コレだったんだ。
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『虹の足』 /吉野 弘
雨があがって
雲間から
乾麺みたいに真直な
陽射しがたくさん地上に刺さり、
行きに榛名山が見えたころ
山路の登るバスの中で見たのだ、虹の足を。
眼下にひろがる田圃の上に
虹がそっと足を下ろしたのを!
野面にすらりと足を置いて
虹のアーチが軽やかに
すっくと空に立ったのを!
その虹の足の底に
小さな村といくつかの家が
すっぽり抱かれて染められていたのだ。
それなのに
家から飛び出して虹の足にさわろうとする人影は見えない。
―――おーい、君の家が虹の中にあるぞォ
乗客は頬を火照らせ
野面に立った虹の足に見とれた。
多分、あれはバスの中の僕らには見えて
村の人々には見えないのだ。
そんなこともあるだろう。
他人には見えて
自分には見えない幸福の中で
格別驚きもせず
幸福に生きていることが―――――。