元気力UP!

元気力UP!

2015年01月13日
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カテゴリ: 吾輩は猫である


鼻子はようやく納得してそろそろ質問を呈出する。
一時荒立てた言葉使いも迷亭に対してはまたもとのごとく叮嚀になる。
「寒月さんも理学士だそうですが、全体どんな事を専門にしているのでございます」「大学院では地球の磁気の研究をやっています」と主人が真面目に答える。
不幸にしてその意味が鼻子には分らんものだから「へえー」とは云ったが怪訝な顔をしている。
「それを勉強すると博士になれましょうか」と聞く。
「博士にならなければやれないとおっしゃるんですか」と主人は不愉快そうに尋ねる。
「ええ。
ただの学士じゃね、いくらでもありますからね」と鼻子は平気で答える。
主人は迷亭を見ていよいよいやな顔をする。
「博士になるかならんかは僕等も保証する事が出来んから、ほかの事を聞いていただく事にしよう」と迷亭もあまり好い機嫌ではない。
「近頃でもその地球の――何かを勉強しているんでございましょうか」「二三日前は首縊りの力学と云う研究の結果を理学協会で演説しました」と主人は何の気も付かずに云う。
「おやいやだ、首縊りだなんて、よっぽど変人ですねえ。
そんな首縊りや何かやってたんじゃ、とても博士にはなれますまいね」「本人が首を縊っちゃあむずかしいですが、首縊りの力学なら成れないとも限らんです」「そうでしょうか」と今度は主人の方を見て顔色を窺う。
悲しい事に力学と云う意味がわからんので落ちつきかねている。
しかしこれしきの事を尋ねては金田夫人の面目に関すると思ってか、ただ相手の顔色で八卦を立てて見る。
主人の顔は渋い。
「そのほかになにか、分り易いものを勉強しておりますまいか」「そうですな、せんだって団栗のスタビリチーを論じて併せて天体の運行に及ぶと云う論文を書いた事があります」「団栗なんぞでも大学校で勉強するものでしょうか」「さあ僕も素人だからよく分らんが、何しろ、寒月君がやるくらいなんだから、研究する価値があると見えますな」と迷亭はすまして冷かす。
鼻子は学問上の質問は手に合わんと断念したものと見えて、今度は話題を転ずる。
「御話は違いますが――この御正月に椎茸を食べて前歯を二枚折ったそうじゃございませんか」「ええその欠けたところに空也餅がくっ付いていましてね」と迷亭はこの質問こそ吾縄張内だと急に浮かれ出す。
「色気のない人じゃございませんか、何だって楊子を使わないんでしょう」「今度逢ったら注意しておきましょう」と主人がくすくす笑う。
「椎茸で歯がかけるくらいじゃ、よほど歯の性が悪いと思われますが、如何なものでしょう」「善いとは言われますまいな――ねえ迷亭」「善い事はないがちょっと愛嬌があるよ。
あれぎり、まだ填めないところが妙だ。
今だに空也餅引掛所になってるなあ奇観だぜ」「歯を填める小遣がないので欠けなりにしておくんですか、または物好きで欠けなりにしておくんでしょうか」「何も永く前歯欠成を名乗る訳でもないでしょうから御安心なさいよ」と迷亭の機嫌はだんだん回復してくる。
鼻子はまた問題を改める。
「何か御宅に手紙かなんぞ当人の書いたものでもございますならちょっと拝見したいもんでございますが」「端書なら沢山あります、御覧なさい」と主人は書斎から三四十枚持って来る。
「そんなに沢山拝見しないでも――その内の二三枚だけ……」「どれどれ僕が好いのを撰ってやろう」と迷亭先生は「これなざあ面白いでしょう」と一枚の絵葉書を出す。
「おや絵もかくんでございますか、なかなか器用ですね、どれ拝見しましょう」と眺めていたが「あらいやだ、狸だよ。
何だって撰りに撰って狸なんぞかくんでしょうね――それでも狸と見えるから不思議だよ」と少し感心する。
「その文句を読んで御覧なさい」と主人が笑いながら云う。
鼻子は下女が新聞を読むように読み出す。
「旧暦の歳の夜、山の狸が園遊会をやって盛に舞踏します。
その歌に曰く、来いさ、としの夜で、御山婦美も来まいぞ。
スッポコポンノポン」「何ですこりゃ、人を馬鹿にしているじゃございませんか」と鼻子は不平の体である。
「この天女は御気に入りませんか」と迷亭がまた一枚出す。
見ると天女が羽衣を着て琵琶を弾いている。
「この天女の鼻が少し小さ過ぎるようですが」「何、それが人並ですよ、鼻より文句を読んで御覧なさい」文句にはこうある。
「昔しある所に一人の天文学者がありました。
ある夜いつものように高い台に登って、一心に星を見ていますと、空に美しい天女が現われ、この世では聞かれぬほどの微妙な音楽を奏し出したので、天文学者は身に沁む寒さも忘れて聞き惚れてしまいました。
朝見るとその天文学者の死骸に霜が真白に降っていました。
これは本当の噺だと、あのうそつきの爺やが申しました」「何の事ですこりゃ、意味も何もないじゃありませんか、これでも理学士で通るんですかね。
ちっと文芸倶楽部でも読んだらよさそうなものですがねえ」と寒月君さんざんにやられる。
迷亭は面白半分に「こりゃどうです」と三枚目を出す。
今度は活版で帆懸舟が印刷してあって、例のごとくその下に何か書き散らしてある。
「よべの泊りの十六小女郎、親がないとて、荒磯の千鳥、さよの寝覚の千鳥に泣いた、親は船乗り波の底」「うまいのねえ、感心だ事、話せるじゃありませんか」「話せますかな」「ええこれなら三味線に乗りますよ」「三味線に乗りゃ本物だ。
こりゃ如何です」と迷亭は無暗に出す。
「いえ、もうこれだけ拝見すれば、ほかのは沢山で、そんなに野暮でないんだと云う事は分りましたから」と一人で合点している。
鼻子はこれで寒月に関する大抵の質問を卒えたものと見えて、「これははなはだ失礼を致しました。
どうか私の参った事は寒月さんへは内々に願います」と得手勝手な要求をする。
寒月の事は何でも聞かなければならないが、自分の方の事は一切寒月へ知らしてはならないと云う方針と見える。
迷亭も主人も「はあ」と気のない返事をすると「いずれその内御礼は致しますから」と念を入れて言いながら立つ。
見送りに出た両人が席へ返るや否や迷亭が「ありゃ何だい」と云うと主人も「ありゃ何だい」と双方から同じ問をかける。
奥の部屋で細君が怺え切れなかったと見えてクツクツ笑う声が聞える。
迷亭は大きな声を出して「奥さん奥さん、月並の標本が来ましたぜ。
月並もあのくらいになるとなかなか振っていますなあ。
さあ遠慮はいらんから、存分御笑いなさい」


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本連載は青空文庫収録ファイル「吾輩は猫である」(新字新仮名、作品ID:789)から引用・編集し提供させて頂いています。
夏目 漱石
慶応3年1月5日(新暦2月9日)江戸牛込馬場下横町に生まれる。本名は夏目金之助。帝国大学文科大学(東京大学文学部)を卒業後、東京高等師範学校、松山中学、第五高等学校などの教師生活を経て、1900年イギリスに留学する。帰国後、第一高等学校で教鞭をとりながら、1905年処女作「吾輩は猫である」を発表。1906年「坊っちゃん」「草枕」を発表。1907年教職を辞し、朝日新聞社に入社。そして「虞美人草」「三四郎」などを発表するが、胃病に苦しむようになる。1916年12月9日、「明暗」の連載途中に胃潰瘍で永眠。享年50歳であった。"





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Last updated  2025年03月27日 17時06分26秒
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