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パワハラ聖女の幼馴染みと絶縁したら、何もかもが上手くいくようになって最強の冒険者になった 3 ついでに優しくて可愛い嫁もたくさん出来た ダッシュエックス文庫 / くさもち 【文庫】
若林隆一は、職場では恐れられる存在だった。大手企業の中間管理職として、部下たちに対して容赦のないパワーハラスメントを繰り返していた。会議では常に高圧的な態度を取り、ミスを犯した者には人前で罵倒を浴びせた。若林にとって、部下たちは自分の権力を誇示するための道具にすぎなかった。結果を出さない者、弱さを見せる者は、容赦なく切り捨てられた。
その日も、彼は一人の若手社員を厳しく叱責していた。新人の佐々木が些細なミスをしただけだったが、若林の怒りは収まらなかった。何度も同じことを言わせるな、と声を荒げ、佐々木はその場で涙をこぼした。しかし、若林には同情の気持ちは一切なかった。
「泣いて済むなら、世話ないな」
その一言が、佐々木の心を深く傷つけたことに、彼は気づくこともなかった。
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ある日、会社での会議中に若林の携帯が鳴った。息を切らして電話に出ると、妻の声が聞こえた。彼女は、若林に相談もせずに離婚届を提出したという事実を告げた。彼は一瞬、何を言われたのかわからなかったが、妻は冷たく言い放った。
「もう我慢できないの。あなたの怒鳴り声や、周囲に対する態度を見ているだけで、私も息が詰まるわ」
妻との会話が終わった瞬間、若林の胸にはぽっかりと空虚な穴が開いたような感覚が広がった。しかし、それでも彼は自分が悪いとは思わなかった。全てが周囲の弱さのせいだと信じていた。
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しかし、状況はさらに悪化していく。ある日、会社の社長から呼び出しを受けた。若林はこれまでと同じように、成果を上げている自分が称賛されるのだと高をくくっていた。しかし、社長の口から出てきたのは、冷酷な言葉だった。
「若林君、君の言動について、社内外から多くの苦情が来ている。これ以上は見過ごせない。君には、辞表を提出してもらう」
頭が真っ白になった。自分がどれだけ会社に貢献してきたか、どれだけ結果を出してきたかを主張しようとしたが、社長の目は冷たかった。どんなに抗議しても、決定は覆らなかった。若林は会社を去ることになった。
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失業してから数か月、若林は何とか新しい仕事を探そうとしたが、かつての部下たちが彼の悪評を広めていた。どの会社も彼を雇うことに興味を示さなかった。職務経歴は立派だったが、「人間性に問題あり」というレッテルは、すでにどこに行っても彼の後を追ってきた。
社会からも、家族からも見放された若林は、次第に孤独に飲み込まれていった。彼が築き上げたものは全て崩れ去り、頼るべき人もいない。彼の元には、誰一人として連絡をくれる者はいなかった。やがて、彼は家から出ることさえ億劫になり、毎日をぼんやりと過ごすようになった。
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ある日、ふと街を歩いていた若林は、かつての部下だった佐々木の姿を見かけた。佐々木は新しい職場で働いているらしく、楽しそうに仲間たちと笑い合っていた。その姿を見た若林の胸には、鈍い痛みが走った。
「俺は、何を間違えたのか?」
初めて、彼は自分の過去を振り返った。誰かを傷つけることで、自分の地位を守ろうとしていたのだと気づいたが、その代償はあまりにも大きかった。そして、彼にはもうそれを修正するチャンスも残されていなかった。
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それから数年後、若林の名前は誰の口にも上らなくなった。かつての同僚たちは彼の存在を忘れ、彼が築いたものは何一つ残らなかった。彼は、誰からも見放された孤独な人生を送り続けた。そして、その孤高の頂に立つことの虚しさを、ようやく理解したのだった。
だが、もう全ては遅かった。
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