ら組三番町大安売屋碧眼の魔術士

2005年05月04日
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カテゴリ: ラピスの休日

 彼女にそれを差し出された師匠のシャルベーシャは躊躇った。


 もちろんその気持ちは何よりも嬉しかった。けれど、ラピスの地で彼女とゆったりと過ごすことが、むしろどれだけ彼にとって癒される時間となっていたか。その恩を返したいと思っているのは、むしろ自分の側だった。本来の世界での役割を全うする為、彼女の側にいられない時間が多いことが負い目にすらなっていた。

 ためらう彼を正面に見ながら、弟子の凰赫は心からの感謝をこめてにっこりと笑うと、もう一度ルゥを手渡した。

「私をこの世界へと導いてくれた、師匠にこそこれを持って欲しいんです!」


 もう彼女のどんな言葉にも抗えるはずもない。

「ありがとう、凰赫。」

 彼女がこの大陸にいる限り、このラピスの地を訪れ、この剣で彼女を守っていこう。彼は覚悟を決めてそれを受け取った。



 あれから2ヶ月近くが経った。



 凰赫がルゥに続けて戦乙女のための物言う成長武器、カーラを拾い、その育成に楽しさを見出して狩り場を行くうちの、あっと言う間の出来事だった。友人も増え、師匠以外とパーティを組んで歩き回る時間も増えていた。特にシャルベーシャ自身が本来住む場所で節目の階級を迎える時期にあった。そちらにかける時間がどうしても多くなる。それぞれの世界で過ごす時間の長短を考えれば、止むを得ない結果だった。

 出来るだけ彼女との差を広げないようにと、師匠の意地をもって頑張った時期もあった。しかし、気がつけばどちらが上とか下とか、そうした感覚すらいつしか彼からは消えていた。もう位置づけなど関係ない。ただ彼女といることだけで十分に思えた。


 凰赫が彼の階級を抜いたことで一度は切れてしまった師弟の縁。間に立ってくれた仮の師匠たちの協力で、今日再び、師弟関係を結ぶことになった2人がいた。

 かつての師匠は弟子に、かつての弟子は師匠にと。


 ここ、ラピスで過ごす時間が穏やかな休日のように思えてくる。武人としての肩書きも殺伐とした戦いも、何もかも忘れて、暖かな陽だまりのような彼女の側で癒されていく彼がいた。


 私が彼女を守るはずだったのにな・・・

 まぶしいほどに光り輝く戦乙女、凰赫が元気良く飛び出していく。その後姿を追いかけながら、彼の地では有翼の獅子なる聖騎士と称されるシャルベーシャは思わず苦笑していた。

 本当は・・・愛する彼女に、私こそが守られてきたのかもしれない。


 そこには彼女以外は誰も知らない、穏やかな笑顔があった。






L'apprezzamento sincero è trasmesso a due adventurers. 

                 Festa in Lapis - Fine -









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最終更新日  2005年05月04日 10時18分19秒
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