Beauty Source キレイの魔法

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グスタフ1870『妖精』



『妖精』

『・・・さあそこで現れたのが三人の魔女。
名をターヴァ、ティパ、アカフと言う。
それぞれ、風と火と水を操り、猫とゴーストを友とする。
聖者マリフィックが用意した、とこしえの若さに導くドラゴラの根を
差し出すと、魔女たちは奇声をあげて喜んだ。』

古い物語に、二人は息を飲んで聴き入っている。
私が祖母から、そして祖母はまたその母から伝えてもらったという伝説。
それはまた、話す者によって微妙に脚色が加えられ、枝葉をのばし、虹彩と陰影を加えてゆく。
この海岸のさざ波は、目の前の子どもたちの、そして私の想像力をかき立ててくれる。

『・・・聖者が目指すものは、ただひとつ。まことの愛。
王女ハーニスに捧げるために、彼は巨人とも悪霊とも戦う勇気を持っている。』

「僕も、クリスティーヌを守りたいな。」
少女のかたわらで、育ちのよい顔をやや引き締めて少年が言う。
「ラウル、いい子だ。だけど、君はどうやって彼女を守るつもりかな?」
「マリフィックが王女を守ったみたいに・・・。」
「さあどうだろう。彼女はどちらかというと王女というよりも妖精だ。
美しい声で歌い、舟人を惑わせる。本人はだた愉しく歌っているだけなのにね。」

「お父さま、その妖精のお話を聞かせて。」
「いいとも、クリスティーヌ、よくお聞き。」

『一艘の、黒い小さな舟が水面に浮かんでいた。その上に座っているのは白い妖精。
妖精は自分がどこから流れてきたのか知らず、その先を知ろうともせず、
ただ霧の中を漂っていた。小さな声で、愉しげに歌いながら。

ふと気がつくと、舟の端に櫂を捧げもってたたずんでいる影がある。
霧の中ゆえ姿はよく見えないが、黒い衣を纏った背の高い男のようだ。
「お前の歌を聴きに来た。どうか歌っておくれ。」

突然の男の出現とその頼みに妖精は驚いたが、もとより歌が好きなもののこと。
妙なる声で歌い始めた。
「素晴らしい。だが、もっと美しく歌うこともできるだろう。」
男の言葉に、妖精はさらに伸びやかに声を響かせた。
「これは見事。だが、もっともっと麗しく歌うこともできるだろう。」
男の言葉に、妖精は力の限りの声を張り上げた。
「なんと目覚しい。だが、もっともっとより一層艶麗に歌うこともできるだろう。」

妖精は男の尽きぬ期待に応え続けた。
やがて霧は晴れ、妖精は自分が今どこにいるかを悟った。
男の姿は消え、ただ櫂ばかりが残っていた。』

「お父さま、そろそろ歌のレッスンの時間だわ。」
「そうだね。ラウル、遊ぶのはまた明日に。」
「わかりました。じゃあさよなら、僕の妖精。」
「さよなら、ラウル。」

僕の妖精か。
この動乱のさなか、彷徨い続ける美しきかの女性、私のローレライは
いまいったい何処にいるのだろう。

2005.09.04 2005.09.15改


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