しあわせのかたち

しあわせのかたち

2006/04/23
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 学校の教室でいかがわしい妄想にふけっている時、ふと「誰かに思考を読まれていたらどうしよう」と思ったことはなかろうか。あまつさえ「読んでいるのは知ってるんだぞ!」などと頭のなかで叫んだことはないか。

 まあ大なり小なり似たような経験は誰にもあると思う。
 私の場合は中学の頃、英語の授業中に好きだった同級生の横顔をぼーっと見つめている時だった。


 2500年以上の歴史を誇る西洋哲学では、「誰かが自分の思考を読んでいるかもしれない」という可能性を否定することはできない。人類の思考の歴史は「世界は5分前に作られたわけではない」ということの証明さえできていない。

       ※

 よく誤解されがちな哲学古典のひとつに、D・ヒュームの「懐疑論」がある。
 人間は普通、無根拠に「明日も太陽は東から昇る」と思うし、「自分の思考は誰にも読まれていない」と思う。

 しかしどちらも自然科学では証明できない。
 ヒュームが提唱した「懐疑」は、この「証明できない」という部分だけが大きく取り上げられがちではあるが(実際証明できないわけだが)、哲学界では実はその部分はそれほど重要視されていない(当然の前提として踏まえられることは多々あるが)。ヒュームが懐疑論で述べたかった要旨も、この部分ではない。




 歴史学者であり哲学者でもあり、終生キリスト教会から敵視され続けたヒュームが出した結論はそれほど難しいものではなかった。

 人は信じたいものを信じてしまうものなのだ、と。
 明日も東から太陽が昇ると信じたいから信じるのだ。
 神がそう決めたのでもなければ、教典にそう書いてあるからでもない。

 そしてヒュームは続ける。

 神や教典が定める「独断」から離れようぜ。それはすべての人間が寄る辺無き個人として生きることであり、徹底的な孤独のうちにその生を位置づけることになる。その道は辛く厳しいだろう。でも神も教義も人間が作り得た。
 それは絶望ではなく希望であり可能性なのだ、と。
 人は神さえも疑い得る存在なのだ、と。

        ※

 この「すべての前提は疑い得る」という論証は、当時欧州で支配的であったキリスト教だけでなく、その論理を導き出した西洋哲学そのものにも刃を突き立てた。

 けれど忘れてはならないこともひとつある。

 それは紛れもない事実である。

        ※

 現代まで残る大仕事をなした哲学者にしては珍しく、ヒュームの人柄は大変善良で友人づきあいも良好であったことが知られている。

 キリスト教会や多くの敬虔な信者から異端視されていたにも関わらず、晩年エディンバラに隠遁したあとも、ヒュームの家にはA・スミス、H・ブレア、W・ロバート、A・ファーガソン、B・フランクリンなど高名な学者・聖職者たちが集まって彼の意見を聞きたがった。

 無神論者と呼ばれたヒュームに、死を目前にした心境をアダム・スミスが尋ねると(当時は「信心のない人間は死後、何もかも無くなってしまう」と考えられており、恐れられていた)、 「僕の著書で目覚めた人々が、そこらにはびこっている迷信の体系を粉々に崩壊させるのをぜひ見たい。だから三途の川の渡し守のカロンに“もうちょっと待ってくれないか”と頼んだんだ。でも“そんなことは何百年たっても起こりはしないからダメだ”と言われちゃったよ」

 1776年8月、彼の偉業と人柄を讚えて付けられたヒューム自宅前の「セント・デイヴィッド・ストリート」には、大雨のなか葬儀に参列するために多くの人が集まった。

 ある葬列者が言う。「でも彼は無神論者だったんだよな」。
 別の葬列者がそれに答え、「いいや、彼は正直な人間だったんだ」と返したという逸話が残っている。

 汝、しあわせであれかし。
 主よ、彼の魂に祝福を。

 探しものはまだ見つかっていない。





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Last updated  2006/04/23 04:36:13 PM


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