◆ラテン旦那と大和撫子妻◆

Nicoleとの戦い2




ついにEvalationの日が来ました。


セラピスト達が微笑みながら家の中へと入って来ました。

それなのに、Nicoleは知らん顔をして遊んでいます。


旦那と私はNicoleの様子を事細かく聞かれ、セラピスト達と話し合っていた所に、


“あ~あ~、あ~あ~”

と言いながら、Nicoleが私の服を引っ張って来ました。


私はすぐにNicoleの要求が解ったので、

2人でキッチンへ行って、黙ってNicoleにクッキーを手渡しました。

セラピスト達はその様子を静かに見守っていました。



席に戻ると彼等はNicoleの側へ行き、Evaluation(評価)の開始です。



セラピストの一人が大きなバッグの中から,色々なおもちゃを取り出して、

Nicoleの前に一つだけ置き、遊びながら彼女の様子を探っていくのです。


2,3分も経たないうちに、Nicoleは違うおもちゃで遊びたいと、
ぐずり始めました。

きっと私だったら、すぐに違うおもちゃを与えていただろうに、


セラピストは、

“違うおもちゃで遊びたいのなら、このおもちゃを片付けてからにしましょうね”
と言って、すぐにはNicoleの要求を呑みません。

すると要求が通らないと解ったNicoleは、おもちゃを手に取り、

キッチンの方へ投げつけ、私達を威嚇したのです。
(これはいつもNicoleが取っていた常套手段です。)


それでもセラピストは怒って声を荒げる事もせずに、毅然として


“おもちゃを投げるなんて、いけませんね。

物を投げるという行為はいけないことです。
今すぐ投げたおもちゃを取りに行きなさい。”

と命令しました。


今までに無かった反応をされて、
Nicoleはいつものかんしゃくを爆発させ、

自分の要求を通そうと、セラピスト達の前で大暴れをしたのでした。



セラピスト達はちょっと話をして、頷きながら、


「私達がここに来て未だ30分も経っていませんが、
これだけで全てがよく解りました。」

と言って、
セラピスト達のリーダーである,若い児童心理学者のAndrewが
ノートとペンを持って、私の目の前に座りました。


私の旦那は有る程度、Nicoleに厳しく接していた事と、
普段出張も多く家にいる事が少ないので、
彼等は私にターゲットを置いたのでした。



「HITOMI、今Nicoleが暮らしているこの環境と言うのは、
彼女が全然言葉を使わなくても良い、
非常に都合の良い環境
だって事に、気付いて下さい。
この事が彼女の言葉を話そうと言う気力に、ストップを掛けているんですよ。

さっき貴方がNicoleに、無言でクッキーを与えていましたね。
あのような事は絶対にしないで下さい。

必ず、“何が欲しいの?”  “どうして欲しいの?”
と聞いて、言葉の見本(文章、センテンス)を示してからにして下さい。」と。



「彼女は今の所しゃべれないので、二者択一方式で聞くようにして下さい。

例えば、


“何が欲しいの?”  
“飴が欲しいの?
それともクッキーが欲しいの?”
と言う風にです。」



そしてAndrewは、一枚の紙をテーブルの上に置きました。

そこには表のようなものが書かれていて、

上から、ミリタリー(軍)、正常、ドアーマット

と書かれていました。 


不思議そうにその表を見つめているとAndrewは、

“Nicoleと貴方の関係は、この一番下にある、
ドアーマットのような物なんですよ。”

と言いながら、ドアーマットの欄を赤いペンで線を引いた。



“どういう意味ですか?”


Andrewは、ちょっと微笑み加減で首を横に小さく振りながら、



[子供と親との関係というのは、ミリタリー(軍)の様に、
命令ばかりで厳しすぎるのもいけない。

逆に、舐められているのもいけない。
上手くバランスが取れていないといけません。


貴方の場合、Nicole にまるでドアーマットの様に、踏みつけられている。
要するに、いいようにされていると言う事です。

二人の関係では、Nicoleの方がボス、と言う事になります。
いつでも、彼女が貴方を Manipulate(操る)している訳です。」



私は唖然としてAndrewの目を見据えた。


ショックで言葉が出なかった。。。。。




何でこんな簡単な事に気が付かなかったんだろう!
何て馬鹿な事をしてしまっていたんだろう!


彼女が可哀想と云う気持ちが邪魔をし、盲目になり、
彼女にとって、逆効果な事をしていたなんて!



Andrewは狼狽する私に、優しくも力の有る声でゆっくりと、


「このままでは、Nicoleの将来はありません。
私達が出した結果は、児童心理、スピーチ、スペシャルエデュケーションと,
ファミリーセラピー(これは、私が受ける)の、
4種類のセラピーが必要だと言う事と、

念の為に,聴覚と、脳波、CTスキャン、そして血液中の LEAD(鉛)の有無、
DNA等も調べたほうが良いでしょう。」
と言って、何やら沢山の書類を鞄から出して来た。


Andrewは、脳波、CTスキャン、血液検査、と聞いて
ちょっと動揺した私の手を取って、


「赤ちゃんが産まれるまで約半年あります。
私の経験から言うと、それまでにはどうにか間に合うと確信しています。
でもそれには、かなりな忍耐と努力が必要です。

だから、皆で一致団結して頑張りましう。

半年後には笑って赤ちゃんを迎えましょう!」

と、激励してくれました。



私はAndrewの手を強く握り返し、胸が熱くなり羞恥心など省みず、
その場で泣き出してしまった。



「宜しくお願いします!」

もう涙で前が見えなくなっていた。


藁をも縋る思いだった。




その後正式に書類にサインをし、税金で賄われているこの素晴らしい

システムの恩恵を得る事になったのだった。




これからが本当の戦い。

でも、皆に支えられて居るんだ。と思うと

不安など何もなかったのである。



“Me”が開いた希望の扉 へ続く



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