小説



ちょっと・・・ってゆうかかなり恥ずかしそうに顔を赤く染めて,小声で言う。
未熟な初々しさを彼は感じた。

「あのさあ。今度の日曜部活休みだしどっか行かない?」

デートの誘いを切り出す。

「うん。イイよ暇だし(笑顔」

彼の言葉はあっさりしすぎていて,逆にあっさり聞こえなかった。
図書館の大きな窓から爽やかな午後の風が吹く。
空は晴れていた。
でも,遠くては怪しい影をもたらしている。

「本当に?」

彼のあっさりした言葉に何か不満を感じたのか

「絶対だよ?」

何となく用心深く確認してみる。

「本当だよ(笑顔」

彼は,そんな彼女の心を悟ったのか,いつもの微笑みを見せた。

「うんv絶対v!」

彼女の顔は相変わらず赤かったものの,極度の緊張感は消えていた。


「あ!当日になってすっぽかすのなしだよ!!」

第一図書室を出ていきざまに菊丸の声。

「分かってるよ(笑顔」

不二は頬杖をついていない方の手をひらひら振った。
後に,誰かのスッキプするような楽しそうな足音がして,消えた。


「まったく,相変わらずラヴラヴだね。羨ましいな~」

優しい声だった。
その声は不二の振り向く方向に確かに存在した。
形もある。

「彼女つくればいいじゃん」
「まあそうだけどね」

千石は図星に填ったように苦笑。
読んでいた古本を閉じて,机の上に置く。椅子から立ち上がり,窓の方を向く。

「もしかして英二狙い?」

鋭い目つきだが穏やかであり,暖かい。

「さあ。どうだろうね」
「どうなの?」
「・・・違うよ」

外心ホッしたように思えたが,内心はホッしていなかった。
その不二を嬉しそうに見つめる千石。は,ゆっくり言葉をためた。

「周助が欲しいな」

それは,短く,故に一番苦しい発言。

「僕は生憎だね」

怯まず,優しく威嚇する千石を厳しく貫く。

「じゃあ,菊丸から買う」
「出来るものならね(冷笑」

ほんの少しブルーが入った。千石は又も楽しそうに顔をゆがめる。

「そんなに菊丸がいいの?」
「ああ。勿論」

即答。

「どうしたら菊丸と別れる?」
「別れない」
「何で?」
「好きだから」

【燕返し】の如く【鸚鵡返し】の会話。

「菊丸でいいの?」
「英二がいいんだ」
「菊丸ってそんなにイイ奴?」
「勿論」

2人の間を通り抜ける爽やかな風は,最早火花の影響を受けて完全に途切れる。


 求めるものが手に入らぬ時,人は無理矢理手に入れようとする


不二が反射神経を失い,気付いたときにはもう,千石は目の前に。
押されたときに背中を本棚に強打した。その痛みからか,不二は全くの無抵抗。
千石は,不二の手首を掴み,動かせないようにする。

「どうしても駄目ならやったもん勝ちにしちゃおうかな~」

楽しそうに子供のような笑顔を浮かべる。
意地悪そうに不二を見た。

「力ずくでだって君を手に入れる」

幸いで幸いでもないような事は,第一図書室には誰もいなかったこと。
手首を掴む手に一層力を入れたれた不二の顔は苦痛に歪む。
そして,段々と千石の生暖かい吐息が肌に感じられる。

「やだ」

力無い呟きは甘い口付けで掻き消された。
不二は,抵抗できる筈なのに何もせず,されるが儘でいる。
一度唇を離した。

「以外と素直だね。もしかして襲って欲しいの?」

何気に上目遣いな不二を優しく見つめる。

「そんな訳ない・・・・」

返事を返す暇も与えず,口付けの荒らしは再び。
舌が入っているような激しい口付け。

「千石・・・」

初めて不二が顔を左に向かせ,抵抗。

「何?今更反抗する気?もう無理だよ」
「千石。止めてよ。僕は何をされたって英二が好きなことに変わりはない」

反抗する顔を無視するかのように,今度は右耳に唇を近づけた。

「じゃあ,どうしたら好きになってくれる?」

握りしめていた右手を離し,不二の左手を解放。
右手は不二の顔を自分の方へ向かせる。
左手は千石の右胸辺りを押さえつける。

「か弱い周助に反抗は無理だよ」

優しい笑顔で,その左手を物ともせず,またしても不二の唇を求めた。

「止めろ・・・千石」

不二は今までになく嫌がった表情。
それを見た千石は一時停止。

「英二は僕の大切な人だ。僕にとって大切な存在だ。そんな英二を捨てるわけには行かない。
確かに千石も好きだけど,僕にはそれ以上好きな英二がいる・・・
分かってよ」
「やだよ」

再び千石は不二と唇を重ねた。

「しゅ・・・・周助?」

声は震えていて,怯えているようであり,悲しそうだった。
千石と不二の唇はその声に反応し,離れ,少しだけ愛しさを残している。
第三者

「英二・・・」

目に,こぼれ落ちそうなくらいの涙をためて,必死にその場の状況を把握しようとしている。が,頭が上手く動かない。

「周助。何なの?・・・ねえ周助ぇ。答えてよ」

遂に涙は零れた。
菊丸の肌を一筋の透明な線が伝う。
千石の手がゆるまり,不二は解放された。

「英二。聞いてくれる?」
「うん。聞くよ。信じるよ。・・・でも,今,俺・・・どうしたらいいのかな。俺,どうすればいい?周助」

震える声は,菊丸の心の中を表しているように,冷たく,感情が入っていなかった。
ただ,与えられた言葉を棒読みするかのように・・・

「英二・・・」

不二の声も震えていた。
菊丸は,返事を聞かずに玄関ロビーへ走って行ってしまった。

「英二!!」

不二の手は悲しく空を掴んだ。
そして,寂しく下ろされた。


「周助?」

不二の肌にも,一筋の線が瞳から伝った。
瞳は,瞬きもせずに遠くを見つめているだけ。
その悲しい後ろ姿を,千石は優しく,強く抱きしめた。

「英二・・・・・」
「大丈夫だよ。周助」


英二は,もてる限りの速度で走った。
図書館を出ると外。は,冷たい雨が降っていた。
が,菊丸は躊躇わずに走り続ける。
雨で,涙がカモフラージュされる。
菊丸の心の中は,この空よりも曇っていて,この雨よりも冷たいのだろう。

夢なら覚めて欲しい
起きろ 英二 起きれば忘れられるよ
どうしてあの時戻ったんだよ
戻らなければ良かったのに・・・

「でも・・・このボールは」

ある橋の上で足を止めた菊丸の手には新しくないテニスボールが握られていた。
ワックスでセットしてあった髪は,いつしか自然な形へと戻り始める。

「馬鹿!馬鹿ぁ!周助の馬鹿ぁ!!・・・・・なんだようぅ~。馬鹿ぁ。・・・・英二の馬鹿ぁ」

ある橋の下には,ある川が流れている。

「今日は,少し流れが速いなぁ」

ポチャッ

小さな水しぶきをあげ,新しくないテニスボールは水の中へと消えていった。

「周助の馬鹿ぁ」




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