非常に適当な本と映画のページ

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2006.11.27
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カテゴリ: 邦書

 田中芳樹が大人気作家の地位を気付くきっかけとなった全十巻のスペースオペラの第三巻。

粗筋

銀河帝国の実質的な支配者になったラインハルトは、対立していた貴族の財産を没収して民間に分配するなど、帝国内の改革に没頭していた。ただ、自由惑星同盟を含む全銀河を支配する、という野望は消えていなかった。が、ヤン・ウェンリーに奪われたイゼルローン要塞が同盟への侵攻を阻む。同盟に侵攻するには、まずイゼルローン要塞を奪還しなければならない。ただ、要塞は難攻不落。外部からの制圧は無理だった。
 そんなところ、軍所属の科学者がある提案を持ち込む。イゼルローン要塞と同クラスの要塞をワープで持っていき、要塞対要塞の戦闘に持ち込めばいい、と。
 帝国政府内では、弱体化した同盟による侵攻が有り得ない現在(戦力配分は帝国48、同盟33、フェザーン19となった)、なぜ帝国の建て直しを最優先すべきこの時期に無意味な戦闘を、という声も挙がったが、ラインハルトは計画を許可する。
 ワープは成功し、貴族連合の本拠地だったガイエスブルグ要塞は、イゼルローン要塞の側にまで移動し、戦闘を開始する。
 一方、イゼルローン要塞では、突然現れた要塞を前に混乱する。また、イゼルローン要塞の最高司令官となったヤン・ウェンリーは、同盟への反逆の恐れがあると疑われて首都ハイネセンで尋問を受けていて、不在だったのだ。
 尋問は、ヤンを快く思っていない同盟国家元首トリューニヒトの裏工作で行われたものだったが、国家存亡の危機となると、ヤンを首都に引き留めて置く訳にもいかず、直ちにイゼルローン要塞へ向かわせる。
 イゼルローン要塞は、帝国軍の数々の攻撃に堪え、ヤンが戻るのを待っていた。
 イゼルローンに戻ったヤンは、直ちに攻撃を始め、ガイエスブルグ要塞と共にワープした帝国側の艦隊に大打撃を与える。敗北の色が濃くなったと悟った帝国側の司令官は、ついに要塞と要塞を衝突させようと決める。ガイエスブルグ要塞は12基のエンジンを全開し、イゼルローン要塞に向かって直進する。
 それこそヤンが待っていたことだった。ヤンは12基のエンジンの一つを破壊させる。それによりガイエスブルグ要塞はバランスを失い、回転し始め、大混乱に陥る。ヤンは、その隙を狙って要塞主砲で敵要塞を破壊した。


解説

第一巻と第二巻はそれぞれ1000ページの大長編の要約を読まされていたようだったが、本巻からようやくページ相当分のストーリー展開になっている。
 本シリーズは実質的に二巻で終わっているにも拘わらず、人気に応じる為やむを得ず続けている、といった感じ。
 要塞対要塞の戦闘という以外は、何の見所もなく、なぜこんな無意味な戦闘を描くことになったのか理解できない。
 ラインハルトはこれまで戦略・戦術的天才となっていたが、今回の件ではまるで別人のよう。作中でも指摘されているように、帝国内では様々な問題が山積していたのに、こんな作戦を実行に移すのはおかしい。イゼルローン要塞攻略後に帝国へ攻め込んで結局ほぼ全滅した同盟の無駄な作戦(アムリッツァ会戦)と同等の愚行。
 天才の筈なのに、なぜこんな無謀な作戦を許可したのか。許可するなら許可するで、要塞だけでなく主力艦隊も送り込み、ガイエスブルグ要塞を支援すべきだった。
 そもそも、なぜラインハルトはイゼルローン要塞にこだわったのか。要塞ごとワープできるならイゼルローン要塞を素通りし、そのまま敵側の首都ハイネセンにまでワープして同盟の中枢を直接攻略すべきだった。ハイネセンまでワープするほどの技術が不足していた、ということもあるのだろうが、それだったら技術を確立するまで待っていれば良かったのである。
 強力な爆弾をイゼルローン要塞内部にワープさせる、という手も取れただろう。
 同盟では、アムリッツァの敗北やクーデターの影響から社会基盤が破綻しつつある、となっている。政府は腐敗と汚職にまみれていて、マスコミまでもがその政府にすり寄り、反戦運動が政府によって抑圧されている事実を報じようとしない、となっている。
 小説が書かれたのは1980年代で、インターネットが存在していなかった為仕方なかったのかも知れないが、現在から見ると首を傾げざるを得ない。たとえ政府がマスコミを抑圧できたとしても、市民の民間ネットワークを潰すことは不可能。それとも市民はネットワークに繋がっていないのか。同盟や帝国は宇宙を航行する技術力を持ちながら、通信技術は21世紀より遅れていることになる。
 というか、小説で描かれている一般市民の社会は21世紀から殆ど進歩していないようである。
 また、ラインハルトは貴族連合に属していた貴族全員の財産を没収して、市民に分配している。富の再配分である。それが問題なく成功している、という風に描いているが、実際に実行に移したらどうだろうか。
 取り潰しとなった貴族は3500名以上となっている。各貴族に平均して200人の従業員がいたとしたら、それだけでも70万人が直接失業することになる。貴族の家に出入りしていた商人や、貴族の為に様々なものをこしらえていた職人も職を失うことになるだろう。
 フランス革命では、革命前に貴族が次々亡命した為商人や職人や従業員が職を失い、都市部は失業者で溢れたという。銀河帝国は18世紀のフランスとは比べものにならないほどの規模だから、それだけ失業者の数も多くなる筈。
 ラインハルトは市民が自分らの自由意思で生活できるようにすることを理想としていたが、抑圧的な体制で何世紀も住んできた市民が、望んでもいない自由を突然与えられたからといって感謝するか。途方に暮れる者が多いのではないか。旧ソ連が潰れた時も、ロシア市民は当初は喜んでいたものの自由・民主主義に馴染めない者が大半を占め、旧ソ連時代を懐かしむようになったように、帝国市民も旧体制を懐かしむようになるのではないか。
 市民らが自分らで反乱を起こし、貴族体制が崩壊したならともかく、ラインハルトという一貴族が単に「気にくわない」という勝手な理由で貴族体制を潰したのである。市民は貴族らに不満を持っていたのは事実だろうが、全て潰して一掃してくれと願っていたとも思えない。徐々にラインハルトを憎むようになるのではないか。それでなくてもラインハルトは自分の野望を達成する為同盟との戦争を続行し、戦死者を出し続けるのだ(今回のガイエスブルグ要塞戦では、180万人が戦死している)。
 同盟国家元首トリューニヒトの行動も意味不明。なぜヤン・ウェンリーを前線のイゼルローン要塞から召還したのか。クーデターの後、同盟内で戦闘を指揮できるのはヤンだけ。それほどの重要人物を、単に「生意気だ」という個人的な理由で拘束し、帝国にわざわざ隙を見せるのが得策だと思っていたのか。
 このような幼稚な思考しか持てない人間が国家元首になれるとは不思議である。というか、妖怪並みの生存力を持っているとヤンに揶揄されるほどの知力を持つトリューニヒトとは思えない馬鹿馬鹿しい行動である。





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Last updated  2006.11.27 10:39:18
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